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第12話 境界神レオン

世界が崩れていた。


創世領域だけではない。

第一世界。

第二世界。

第三世界。

さらにその先――無数の世界が震えている。


ネメシスとレオン。

二柱の神の激突が、世界の根幹そのものを揺るがしていた。


空間の裂け目の向こうでは、大陸が揺れ、海が荒れ狂い、空が赤黒く染まっていく。


人々は恐怖していた。

何が起きているのか分からない。

だが本能で理解していた。


――世界の終わりが近い。


その中心で、レオンとネメシスが向かい合っていた。


漆黒の翼を広げた境界神レオン。

終焉そのものを纏うネメシス。


二人の間に流れる圧力だけで、空間が砕けていく。


レンたちは数キロ離れた場所まで吹き飛ばされていた。

それでも息苦しい。

近づくだけで存在が削られるような感覚。


ユイが顔をしかめる。


「信じられない……」


ヴァルゼルも苦笑する。


「化け物同士の戦いだな」


レンは黙って前を見つめていた。


創世神の力を受け継いだからこそ分かる。

レオンは本当に神の領域へ到達している。


だが――それでもネメシスには届いていない。

ほんのわずか。

しかし、その差は致命的だった。


ネメシスが口を開く。


『面白い』


低い声が響く。


『創世神ですら辿り着けなかった領域。人間だった貴様が到達するとはな』


レオンは肩をすくめる。


「俺も驚いてるよ」


『だが勝てぬ』


「そうか?」


次の瞬間、レオンが消えた。


音すらない。

時間すら置き去りにする速度。


ネメシスの眼前へ現れ、拳を放つ。


轟ッ!!


空間が吹き飛び、ネメシスの身体が初めて後退した。


レンは目を見開く。


――効いている。


ネメシスの頬から黒い血が流れた。


『ほう』


ネメシスは笑う。

だがその目は笑っていない。


『ならば見せてやろう』


闇が膨張する。

無限に。

果てなく。


そして――レンたちは見てしまった。


闇の奥に存在する巨大な影を。


ユイの声が震える。


「なに……あれ……」


巨大だった。

宇宙よりも。

世界よりも。

比較にならないほど巨大。


それがネメシスの本体。


今まで戦っていた姿は、ただの分身体に過ぎなかった。


終焉神の真なる姿。

全てを終わらせる存在。


レンは息を呑む。


創世神が勝てなかった理由。

ようやく理解した。


規模が違う。

存在そのものが違う。


人間が嵐に勝てないように。

世界が終焉に勝てないように。


根本的な次元が異なっていた。


ネメシスの声が響く。


『これが終焉だ』


闇が落ちてくる。

世界そのものが。


レンは咄嗟に剣を構え、ユイは魔法陣を展開し、ヴァルゼルが咆哮を上げる。


しかし――止まらない。

防げない。

圧倒的すぎる。


その時だった。


レオンが前へ出る。


「だから何だ」


ネメシスが目を細める。


レオンは笑っていた。


「大きいだけじゃねえか」


その一言で、ネメシスの表情が初めて歪む。

怒り。

明確な怒りだった。


レオンは拳を握る。


「お前は終焉だ。全部壊す。全部終わらせる」


「――だから何だ」


黒い雷が荒れ狂い、世界が震える。


レオンの瞳が輝く。


「終わりしか知らねえ奴に、未来は作れねえ」


その瞬間、境界神の力が解放された。


光でも闇でもない。

白でも黒でもない。

灰色の輝き。


始まりと終わり。

生と死。

創造と破壊。


全てを繋ぐ力。


それが境界神。


レオンの背後に巨大な門が現れる。

無数の世界を繋ぐ門。


創世神の記憶が告げる。


――あり得ない。

本来存在してはならない力。


だがレオンは実現した。


『境界権能』


静かな声が響く。


『無限接続』


世界が光った。


第一世界。

第二世界。

第三世界。

さらにその先。


無数の世界が繋がる。


何兆もの生命。

何京もの魂。


その全てがレオンへ力を送っていた。


ユイが驚く。


「みんなの力……」


レンは理解する。


レオンは奪っていない。

願いを繋いでいる。


絶望ではなく――希望を。


ネメシスが初めて焦る。


『やめろ』


レオンは笑う。


「嫌だね」


門がさらに開く。

世界と世界が繋がる。

生命と生命が繋がる。

希望が集まる。


そして――レオンの拳に収束する。


『終焉神』


レオンはゆっくり拳を引いた。


『これで終わりだ』


ネメシスが咆哮する。

闇が暴走する。

全てを飲み込もうとする。


だが遅い。


レオンが踏み込む。


拳が放たれる。


ただの一撃。

しかしその一撃には、無数の世界の願いが込められていた。


轟ォォォォォォォォォォッ!!


光が爆発し、闇が砕ける。


終焉が悲鳴を上げる。


ネメシスの巨大な本体に亀裂が走った。


『馬鹿なァァァァ!!』


絶叫。

世界を震わせる叫び。


だが亀裂は止まらない。

広がり、砕け、崩壊していく。


レオンは静かに言う。


「終わりだ」


ネメシスがレンを見る。

ユイを見る。

世界を見る。


そして最後にレオンを見る。


その瞳には怒りも憎しみもなかった。


ただ――寂しさだけがあった。


『そうか……』


闇が崩れ、身体が光へ変わる。


『ようやく……終われるのか……』


レンは目を見開く。


終焉神は苦しんでいた。

永遠に終われない存在として。

永遠に滅ぼし続ける存在として。


だから最後に――ネメシスは微笑んだ。


『ありがとう』


その言葉を残し、終焉神ネメシスは消滅した。


静寂。


誰も動けない。


あまりにも突然だった。


世界を脅かし続けた存在。

創世神すら倒せなかった怪物。


その終わり。


レオンは黙って立っていた。


そしてゆっくり空を見上げる。


崩壊していた世界が修復されていく。

空が青さを取り戻し、風が吹き、花が咲き、生命が息を吹き返す。


長い戦いが終わった。


だが――その時。


レンは気付く。


レオンの身体が透け始めていた。


「レオン……?」


レオンは振り返り、苦笑する。


「どうやら時間切れらしい」


ユイの顔が青ざめる。


「え……?」


境界神の力。

それは本来存在してはならない力。


代償があった。


レオンの身体は光へ変わり始めていた。


消滅。

完全な消滅。


レオンは静かに笑う。


「悪くねえ人生だった」


レンは叫ぶ。


「ふざけるな!!」


レオンは答えない。

ただ優しく笑う。


まるで全てを終えた英雄のように。


そして――光はさらに強くなっていく。

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