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第11話 失われた英雄レオン

創世神が消えた。


その事実は、あまりにも重かった。


創世領域は崩壊を続けている。


空は割れ、大地は砕け、無数の光が散っていく。


それは、世界の終わりそのものだった。


レンは膝をついたまま動けなかった。


身体の中を、膨大な力が駆け巡る。


創世神から受け継いだ――世界を生み出す力。


その情報量は、人間が耐えられるものではない。


頭が割れそうになる。

視界が揺れる。

意識が飛びそうになる。


「レン!!」


ユイが駆け寄り、肩を支えた。


「しっかりして!」


レンは苦しげに息を吐く。


「だ、大丈夫だ……」


大丈夫なはずがなかった。


創世神の記憶が流れ込んでくる。


何億年という時間。

何兆もの生命。

数え切れない世界。


そのすべてが、レンの中へ押し寄せていた。


ヴァルゼルが空を見上げる。


「……まずいぞ」


レンたちも顔を上げた。


ネメシス。


終焉神はそこにいた。


漆黒の闇を纏い、圧倒的な存在感を放ちながら。


だが、様子がおかしい。


ネメシスはレンを睨みつけていた。

まるで憎むべき対象を見るように。


『創世神め……』


低い声が響く。


『最後まで私の邪魔をするか』


創世神の力はレンへ受け継がれた。


つまり――レンは新たな創世神候補。


ネメシスにとって、最優先で消すべき存在。


レンは本能で理解した。


今ここで狙われる。

確実に。


ネメシスが腕を上げる。


黒い槍が出現した。

先ほど創世神を貫いた、世界すら殺す武器。


ユイの顔が青ざめる。


「逃げて!!」


だが間に合わない。


ネメシスは冷たく告げた。


『死ね』


槍が放たれる。


世界が悲鳴を上げた。


レンは剣を構える。

だが分かっている。


――防げない。

――今の自分では。


死ぬ。


そう思った瞬間だった。


轟ッ!!


空間が砕けた。


何かがネメシスの槍を弾き飛ばした。


黒い雷。

圧倒的な覇気。


レンは目を見開く。


知っている力。

忘れるはずがない。


崩壊する空間の向こうから、一人の男が現れた。


黒いコート。

鋭い瞳。

白銀の髪。


そして――絶望を知る英雄。


「レオン……!」


ユイが叫ぶ。


ネメシスの瞳が細くなる。


『貴様か』


レオンは無言のまま、レンたちの前に立った。


その背中は昔と同じだった。


何度世界が滅んでも。

何度絶望しても。

最後まで戦い続けた男。


レオンはゆっくり口を開く。


「久しぶりだな」


ネメシスは不快そうに顔を歪める。


『消えたと思っていた』


「そう簡単に死なねえよ」


レオンは笑った。


だがその笑顔の奥には、深い疲労が滲んでいた。


創世神が消えた後。

誰にも知られず、どこかで戦い続けていたのだろう。


レンは立ち上がる。


「レオン!」


レオンは振り返らずに言った。


「話は後だ」


その一言だけ。


ネメシスが笑う。


『面白い。創世神の後継者と――失敗作か』


レオンの眉がわずかに動く。


失敗作。


昔なら怒っていた言葉。

だが今は違う。


「好きに言え」


レオンは静かに答える。


「もうどうでもいい」


ネメシスが首を傾げる。


『ほう?』


「俺はもう創世神を憎んでない」


レンたちは驚いた。


レオン自身が最も否定していた言葉だった。


だがレオンの表情は真剣だった。


「真実を知った。全部な」


創世神が何を背負っていたのか。

なぜ世界を消していたのか。

その苦しみを――ようやく理解したのだ。


レオンは空を見上げる。


創世神が消えた場所を、静かに見つめた。


「馬鹿な神だったよ」


苦笑する。


「全部一人で背負いやがって」


その声は、どこか寂しげだった。


ネメシスが鼻で笑う。


『感傷か』


「違うな」


レオンは拳を握る。


黒い雷が走り、空間が震えた。

創世領域が軋む。


その力は、以前より遥かに強い。


レンでさえ驚くほどに。


レオンはさらに進化していた。


『何をした』


ネメシスが問う。


レオンは笑う。


「お前を殺す準備だ」


その瞬間、世界が揺れた。


黒い光がレオンから噴き出す。


しかしそれは、以前の管理者の力とは違う。


もっと深く、もっと根源的な力。


レンの中の創世神の記憶が反応し、答えを導き出す。


「まさか……」


創世神の記憶が告げる。


あり得ないはずの存在。

存在してはいけない力。


レオンは静かに言った。


「俺は管理者を超えた」


ネメシスの表情が初めて揺らぐ。


『何だと』


レオンの背後に、巨大な黒い翼が現れた。


十二枚。


創世神の黄金の翼と対になるような、漆黒の翼。


そして額に浮かぶ紋章。


それは――


創世神にも。

管理者にも。

ネメシスにも存在しない印。


レンは震えながら呟く。


「それは……」


レオンが答える。


「境界神」


空気が凍った。


創世でも終焉でもない。

その狭間に存在する神。


創世神の記憶にも、ほとんど残っていない伝説。


世界と世界の境界。

始まりと終わりの境界。

生と死の境界。


すべてを司る神。


レオンは、その領域へ到達していた。


ネメシスの殺気が膨れ上がる。


『あり得ない』


「だろうな」


レオンは拳を握りしめる。


「俺もそう思った」


黒い雷が空を裂く。

創世領域が崩れる。


それほどの力。


レオンはネメシスを見据えた。


「今度こそ終わらせる」


『やれると思うか』


「やるんだよ」


二人の力が激突した。


世界が割れ、レンたちは吹き飛ばされる。


次元が砕け、光と闇が暴走する。


もはや戦いですらない。

神話の再現だった。


その中で――


レンの胸に、創世神の最後の言葉が響く。


――レオンを支えろ。

――彼一人では勝てない。


レンは顔を上げた。


ネメシス。

レオン。


二柱の怪物。


だがこれは、レオン一人の戦いではない。


創世神から託された希望。

仲間たち。

守るべきすべて。


レンは黒竜王剣を握り締めた。


「行くぞ」


ユイが頷く。


ヴァルゼルも笑う。


「ようやく出番か」


終焉神との最終決戦。


その幕が上がろうとしていた――。

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