第10話 創世神VS終焉神
創世領域が震えていた。
本来なら絶対に壊れることのない神域。
世界を生み出した創世神の本拠地。
その空間が、今は悲鳴を上げている。
原因はただ一つ。
終焉神ネメシス――その存在そのもの。
漆黒の闇が空を覆い尽くし、白く輝いていた庭園は急速に侵食されていく。
花々は枯れ、湖は黒く濁り、空は割れた。
まるで世界の終わりだった。
レンは剣を握りしめる。
身体中の本能が警告していた。
――戦うな。
――逃げろ。
――勝てない。
今まで何度も死線を越えてきた。
魔王。神獣。管理者。レオン。
だが目の前の存在は別格だった。
圧倒的。
ただ存在しているだけで、心が折れそうになる。
ユイも震えていた。
「なによ……これ……」
声が掠れる。
ヴァルゼルですら冷や汗を流していた。
「冗談だろ……これが本物の終焉神か……」
ネメシスはゆっくりと歩く。
その足が地面に触れるたび、空間が崩れていく。
創世神が静かに前へ出た。
黄金の剣が出現する。
その瞬間、世界が輝いた。
崩壊しかけていた創世領域が、一瞬で修復される。
ネメシスが笑う。
『相変わらず器用だな』
創世神は答えない。
ただ剣を構える。
レンは気付く。
創世神の雰囲気が変わっていた。
今までの穏やかな神ではない。
戦う者の顔。
何万年も戦場に立ち続けた戦士の顔だった。
ネメシスが腕を上げる。
『ならば始めよう』
次の瞬間、闇が放たれた。
黒い光線。
だがそれは光線などという生易しいものではない。
通過した空間そのものが消滅していく。
存在が削り取られていた。
レンは叫ぶ。
「危ない!!」
しかし創世神は動かない。
黄金の剣を振るう。
一閃。
黒い光線が真っ二つに切り裂かれた。
轟音。
消滅の力と創造の力が激突する。
空間が砕け散った。
ネメシスが楽しそうに笑う。
『良い。やはりお前との戦いは愉快だ』
創世神の姿が消える。
次の瞬間、ネメシスの背後。
黄金の剣が振り下ろされた。
だが――。
ガキィィン!!
ネメシスは片手で受け止めた。
衝撃だけで次元が歪む。
レンは目を見開く。
信じられない。
あの一撃を片手で。
創世神はさらに剣を振るう。
一撃、二撃、三撃――無数の斬撃。
だがネメシスは笑いながら受け続ける。
『弱くなったな』
創世神の眉が僅かに動く。
『昔のお前はもっと強かった』
ネメシスの拳が放たれる。
創世神が吹き飛ぶ。
轟ッ!!
遥か彼方まで飛ばされる。
レン達は息を呑んだ。
圧倒されている。
創世神が。
世界の創造主が。
ネメシスは空を見上げる。
『封印に力を使い続けた結果だ。哀れだな』
創世神がゆっくり立ち上がる。
口元から血が流れていた。
神も血を流す――その事実にレンは衝撃を受ける。
創世神は静かに言う。
「お前を止める」
『無理だ』
「それでもだ」
ネメシスはため息をつく。
『だからお前は愚かなのだ』
その瞬間、闇が爆発的に広がる。
空間全体が黒に染まる。
レン達は咄嗟に防御を展開した。
しかし――防げない。
身体が動かなくなる。
意識が沈む。
まるで世界そのものが終わろうとしていた。
ネメシスが告げる。
『終焉権能――世界停止』
時間が止まった。
風も。
音も。
光さえも。
全てが静止する。
レンは動けない。
ユイも。
ヴァルゼルも。
創世神だけが辛うじて立っていた。
ネメシスが歩く。
ゆっくりと、確実に創世神へ近付く。
『終わりだ』
黒い槍が出現する。
世界を終わらせる槍。
創世神の胸へ向かう。
その時だった。
「……まだだ」
創世神が呟く。
黄金の光が溢れた。
停止していた世界が再び動き始める。
ネメシスの目が細くなる。
『ほう』
創世神の背後に巨大な光輪が現れた。
十二枚の黄金の翼。
神々しい輝き。
レンは圧倒される。
「これが……」
ヴァルゼルが震える声で言った。
「創世神の本気……」
創世神は剣を掲げる。
「創世権能――」
光が膨れ上がる。
「新世界創造」
その瞬間、無数の世界が生まれた。
空に星々が現れる。
宇宙が生まれる。
生命が誕生する。
レン達の周囲に、数え切れない世界が展開された。
ネメシスでさえ表情を変えた。
『それを使うか』
創世神は答える。
「ここで終わらせる」
世界そのものを武器に変える。
それが創世神の奥義。
無数の世界がネメシスへ向かって落下した。
惑星。
銀河。
宇宙。
あらゆる存在が砲弾のように降り注ぐ。
ネメシスは笑った。
『面白い』
闇が膨張する。
終焉が解放される。
生まれたばかりの宇宙が次々に消滅した。
創造。
終焉。
二つの概念が激突する。
衝撃で時空が砕け散る。
レン達は必死に耐えた。
見ているだけで死にそうだった。
そして――戦いはさらに激化する。
だがその時、レンは違和感に気付いた。
創世神の動きが鈍い。
呼吸も荒い。
顔色も悪い。
明らかに無理をしている。
ネメシスも気付いていた。
『限界か』
創世神は答えない。
だが事実だった。
長い封印。
膨大な消耗。
ネメシスとの力の差。
全てが創世神を追い詰めていた。
そして――ついに。
ネメシスの拳が創世神の腹を貫いた。
ゴッ――!!
世界が静まり返る。
黄金の血が宙を舞った。
ユイが悲鳴を上げる。
「創世神!!」
創世神の身体が崩れる。
膝をついた。
ネメシスは静かに言う。
『終わりだ』
その時だった。
創世神がレンを見る。
黄金の瞳。
不思議なほど穏やかな顔。
そして――微笑んだ。
「ようやく……見つけた」
レンが目を見開く。
「何を……」
創世神は最後の力で手を伸ばす。
その手がレンへ向けられる。
眩い光。
世界が震える。
ネメシスが初めて焦った表情を見せた。
『待て!!』
だが遅い。
黄金の光がレンを包み込む。
創世神の声が響いた。
「託す。最後の希望を」
レンの身体へ流れ込む膨大な力。
創造。
生命。
未来。
無数の世界の記憶。
レンは叫んだ。
「やめろ!!」
だが止まらない。
創世神は微笑む。
まるで全てを終えたように。
そして――身体が光となって消えていった。
創世神は死んだ。
その瞬間、創世領域全体が崩壊を始める。
ネメシスの怒声が響いた。
『貴様ァァァァ!!』
レンは膝をつく。
身体の中で何かが目覚めていた。
創世神の力。
世界を生み出す究極の権能。
そして頭の中に最後の言葉が響く。
――レオンを探せ。
――彼だけが終焉を止められる。
レンは震える瞳で顔を上げる。
ネメシスがこちらを見ていた。
殺意。
憎悪。
終焉そのものの視線。
世界最強の敵が、レンを標的に定めた。
そして――最後の戦いへ向けて、運命が大きく動き出す。




