第7話 創世神の居場所
【全世界消滅まで 71時間42分】
管理端末に浮かぶ赤い数字は、一秒ごとに減り続けていた。
その数字を見るたび、レンの胸の奥に焦りが広がる。
ネメシスは去った。
だが脅威は消えていない。むしろ――ここからが本番だった。
第七世界の空は黒く染まり、大地の各所では崩壊現象が続いている。
遠くでは街が光の粒となって消えていった。
住民達は避難を続けているが、世界そのものが崩れれば意味がない。
ユイが唇を噛む。
「本当に三日しかないの……?」
管理端末は無情だった。
【残り71時間41分】
数字だけが現実を告げている。
レオンが腕を組んだまま言った。
「正確にはもっと短いかもしれない。ネメシスが本気になれば加速する」
ユイの顔が青ざめる。
レンは拳を握った。
「なら急ぐしかない」
レオンは頷く。
「創世神を探す。それが最優先だ」
レンは複雑な表情を浮かべた。
少し前までレオンは創世神を倒そうとしていた。そのレオンが今は創世神を探そうとしている。矛盾しているようにも思えた。
レオンはレンの視線に気付く。
「勘違いするな。別に許したわけじゃない。ただ――ネメシスを止められる可能性があるのが創世神だけだ。利用するだけだ」
その声は冷たかった。
長い年月で積み重なった憎しみは消えていない。
レンは何も言わなかった。否定も肯定もしない。
今は世界を救うことが先だ。
その時だった。
管理端末に新しい表示が現れる。
【秘匿領域への接続を確認】
【管理者権限が必要です】
【接続しますか?】
レオンの目が細くなる。
「来たか」
「知っているのか?」
「ああ。創世神に関する情報は普通の管理者には見えない。最高位権限で封印されている」
レンは端末へ手を伸ばす。
「なら開く」
管理者権限を流し込む。
空間全体が震え、眩い光が広がった。
無数の文字列。世界の座標。歴史。記録。
そして中心に一つの座標が現れる。
【創世領域】
その名前が表示された瞬間、レオンの表情が険しくなる。
「やはりそこか」
ユイが首を傾げる。
「創世領域?」
レオンは説明する。
「全ての世界の外側に存在する場所だ。創世神がいる唯一の領域。世界を作る工房みたいなものだな」
レンは座標を見る。だが異常があった。
【侵入成功率 3%】
【生存率 1%未満】
ユイが叫ぶ。
「低すぎるでしょ!?」
レオンは苦笑した。
「むしろ高い方だ。昔はゼロだった」
レンは額を押さえる。
行かなければならない。だが待ち受けているのは創世神――世界の創造主。レオンですら勝てなかった存在。
簡単な旅になるはずがない。
その時、ヴァルゼルが低く唸った。
「妙だ」
「何がだ?」
「嫌な気配が近付いている」
全員が周囲を見る。空は静かだった。
だが次の瞬間――空間が裂けた。
黒い亀裂。
そこから無数の影が現れる。
人型。翼を持つ者。獣の姿をした者。
どれも異様な気配を放っている。
管理端末が反応した。
【終焉眷属を確認】
【危険度SSS】
ユイが息を呑む。
「終焉眷属……?」
レオンが舌打ちする。
「ネメシスの配下だ。もう動き始めたか」
その数は数百――いや数千。
空を埋め尽くしている。
先頭に立つ巨大な騎士が剣を抜いた。
全身を黒い鎧で包み、瞳だけが赤く光る。
そして静かに告げる。
『終焉神の命により――管理者を排除する』
レンは剣を構える。
レオンも前へ出る。
ユイも魔力を高める。
ヴァルゼルは巨大な黒竜へ変身した。
戦いが始まる。
終焉眷属達が一斉に襲い掛かる。
空が黒で埋め尽くされた。
「行くぞ!」
レンが飛び出す。
黒竜王剣が閃き、一撃で十体が消し飛ぶ。
だが敵は止まらない。次々に押し寄せる。
ユイが魔法陣を展開した。
「蒼天雷撃!」
青い雷が降り注ぎ、数百の眷属が焼き尽くされる。
しかし――倒れた眷属達が再生した。
「なっ!?」
ユイが驚く。
レオンが叫ぶ。
「核を破壊しろ!普通に倒しても復活する!」
レンは敵を観察する。
胸部――そこに黒い結晶が埋め込まれていた。
「あれか!」
黒竜王剣の斬撃が結晶を砕く。
眷属は消滅した。
「見つけた!」
戦況が変わる。
レン達は次々に核を破壊していく。
だが敵の数が多すぎる。
そして――最悪の存在が現れた。
巨大な魔法陣。
空を覆う黒い円環。
その中心から現れたのは、一人の少女だった。
銀髪。赤い瞳。黒いドレス。
見た目だけなら普通の少女。
だが――現れた瞬間、世界が軋んだ。
レオンの顔色が変わる。
「……まさか」
少女は微笑む。
「久しぶりね」
その視線は真っ直ぐレオンへ向いていた。
レオンが低く呟く。
「エリシア……」
レンは振り向く。初めて聞く名前だった。
だがレオンの声には明らかな動揺があった。
少女――エリシアは悲しそうに笑う。
「まだそんな顔をするんだ。昔と変わらないね」
ユイが小声で聞く。
「知り合い?」
レオンは答えない。
代わりにエリシアが口を開く。
「元恋人だから」
沈黙。
数秒。
ユイの目が見開かれる。
レンも固まった。
ヴァルゼルまで驚いている。
レオンだけが頭を抱えた。
「余計なことを言うな……」
エリシアは楽しそうに笑った。
だが次の瞬間、その瞳が紅く輝く。
空気が変わる。圧倒的な殺意。
「でも今は違う。私は終焉神ネメシス直属の第一眷属。あなた達をここで殺す」
巨大な魔力が爆発する。
空が裂け、大地が沈む。
レンは本能で理解した。
強い。
今までの眷属とは比較にならない。
アザト=ゼル級――いや、それ以上。
エリシアが静かに告げる。
「創世領域には行かせない。それがネメシス様の命令だから」
レオンは剣を抜いた。
その表情から迷いは消えている。
「そうか……なら止めるしかないな」
エリシアも黒い剣を出現させる。
かつて愛し合った二人。
今は敵同士。
その戦いが始まろうとしていた。
そしてレン達はまだ知らない。
この再会が、創世神とネメシスの戦争よりも深い悲劇へ繋がっていくことを――。




