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第6話 終焉神ネメシス

『――ようやく目覚めた』


その声は、耳ではない。

魂へ、精神へ、存在そのものへ直接響き渡った。


ネメシスの言葉が放たれた瞬間、多元世界全体が震え始める。


第一世界。

第五世界。

第十二世界。


無数の世界で同時に異常現象が発生した。


空は黒く染まり、海は荒れ狂い、大地は悲鳴を上げる。

管理者空間に並ぶ監視画面は、すべて真っ赤に染まっていた。


【世界崩壊率上昇】

【全世界同時侵食開始】

【危険度:測定不能】

【最終警告】


ユイが青ざめる。


「な、何なのよこれ……」


ヴァルゼルですら言葉を失っていた。

数千年を生きた古竜王でさえ知らない存在。


だが――レオンだけは知っていた。

だからこそ、その表情は重い。


「最悪だ」


レオンは静かに呟く。


「創世神より先に目覚めるとはな……」


レンが振り向く。


「説明しろ」


数秒の沈黙の後、レオンは重く口を開いた。


「終焉神ネメシス」


「全ての世界が生まれる前から存在していた、破滅そのものだ」


ユイが眉をひそめる。


「破滅そのもの……?」


「ああ」


レオンは第七世界の映像を見つめながら続ける。


「創世神が“世界を創る力”なら、ネメシスは“世界を終わらせる力”」


「光と闇……いや、それよりもっと根源的な存在だ」


レンが問う。


「つまり敵なのか」


「間違いなく敵だ。だが――創世神とも敵対している」


「創世神とも?」


レオンは頷く。


「創世神は世界を作り、ネメシスは世界を消す。

両者は何万年も争い続けてきた」


レンは腕を組む。


世界の裏側で続いていた、創造と終焉の戦争。

そして今、終焉側が復活した。


その時――管理空間が激しく揺れた。


【第七世界消失率40%】

【50%】

【60%】


数字が凄まじい速度で上昇する。


「速すぎる!」


レンの顔色が変わる。

これは“崩壊”ではない。

存在そのものが削除されている。


レオンが叫ぶ。


「急ぐぞ! 放置すれば第七世界が消える!」


「行く!」


ユイが剣を抜き、ヴァルゼルは黒竜へと姿を変える。


「乗れ!」


四人は転移ゲートへ飛び込んだ。


光が弾け――。


◆ 第七世界

到着した瞬間、全員が息を呑んだ。


世界が死んでいた。


空は黒く、太陽は存在しない。

大地は崩壊し続け、山も森も街も黒い粒子となって消えていく。


住民たちの悲鳴が響く。


「助けて!」

「世界が壊れる!」

「嫌だ!」


レンは拳を握りしめた。

許せない。こんな光景は。


その時、空が裂けた。


巨大な黒い裂け目。

そこから“それ”が降りてくる。


人型。だが巨大。

数百メートルの漆黒の鎧。

六枚の黒翼。

赤い瞳。


その存在だけで、世界が悲鳴を上げる。


『小さいな』


低い声。

ネメシスだった。


『創世神が作った世界とは』


その一言だけで、都市が一つ消滅した。


レンの目が見開かれる。

攻撃ですらない。ただ喋っただけだ。


レオンが舌打ちする。


「相変わらず規格外だな」


ネメシスの視線がレオンを捉える。


『ほう……レオンか。まだ生きていたか』


レオンは剣を抜く。


「死んでほしかったか?」


『いや。面白い』


次の瞬間、ネメシスの姿が消えた。


レンの危険察知が叫ぶ。


「避けろ!」


轟音。

世界が割れた。


さっきまでレオンがいた場所が、跡形もなく消滅している。


レオンは空中へ跳びながら叫ぶ。


「レン! こいつは普通に戦うな! 世界そのものを武器にしてくる!」


レンは歯を食いしばる。


強い。

アザト=ゼル。創世神の使徒。レオン。

数々の強敵を見てきた。


だが――別格だった。


ネメシスは戦っているのではない。

呼吸するように世界を壊している。


その時、ネメシスの瞳がレンを捉えた。


『……ほう。管理者。それも新しい』


レンは剣を構える。


ネメシスが笑う。


『面白い。なら試してみよう』


黒い手が伸び、空が裂ける。


次の瞬間、レンの周囲に無数の世界が現れた。


滅びた世界。

焼けた大地。

死んだ文明。

壊れた未来。


数え切れない終末の光景。


ネメシスが告げる。


『これが終わりだ。全ての世界に待つ運命』


レンはその光景を見つめ――静かに言った。


「違うな」


ネメシスの眉が動く。


「終わりがあるから意味がある。失うから守りたい。だから俺は戦う」


数秒の沈黙。

やがてネメシスは小さく笑った。


『そうか。なら証明してみろ』


黒翼が広がる。

宇宙を覆うほど巨大な翼。


管理端末が叫ぶ。


【緊急警告】

【終焉神権能発動】

【全世界消滅まで残り72時間】


沈黙。

誰も言葉を失った。


三日。

三日で全ての世界が終わる。


ネメシスは空へ浮かび、黒い門を開く。


『抗え。それもまた余興だ』


そう言い残し、門の中へ消えていった。


残されたのは静寂と絶望。


【全世界消滅まで】

【71時間59分42秒】


レンは拳を握り締める。


ユイは不安げに、レオンは黙ってレンを見つめる。


だが――レンだけは前を向いた。


「止める。絶対に止める」


その瞳の光を見て、レオンは初めて小さく笑った。


「……そうか。なら創世神を探すぞ」


「何?」


レオンの目は真剣だった。


「ネメシスを倒せる可能性があるのは一人だけだ。創世神だ」


世界最大の敵。

その存在と手を組まなければならない。


終焉神。

創世神。

管理者。


三つの頂点が交わる時、多元世界最大の戦争が始まる――。

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