第4話 管理者の力
レンとレオンが激突した瞬間――。
第三世界全土を揺るがす衝撃が走った。
轟音が荒野に響き渡る。
大地が裂け、空が震える。
まるで世界そのものが悲鳴を上げているかのようだった。
黒と白。
二つの力がぶつかり合う。
レンの黒き竜王剣。
レオンの拳。
衝突するたびに空間が歪み、衝撃波が数十キロ先まで吹き荒れる。
「っ……!」
レンは歯を食いしばった。
重い。
想像以上に重い。
レオンの攻撃には魔力や神力とは違う“何か”が宿っている。
ただの力ではない。
世界そのものを書き換えるような圧力。
「悪くない」
レオンが笑う。
「だがまだ甘い」
瞬間、姿が消えた。
「!」
レンは反射的に振り返る。
背後。
レオンの拳。
轟ッ!!
剣で受け止めるが、衝撃で数百メートル吹き飛ばされた。
大地を削りながら滑り、止まった場所には巨大な溝が刻まれていた。
ユイが叫ぶ。
「レン!!」
だが近付けない。
二人の戦いは神域を超えていた。
近寄るだけで命を失う。
ヴァルゼルですら離れた場所から見守るしかなかった。
『これが管理者……』
監視者である彼でさえ震えていた。
第三世界の神々より強い。
守護神より強い。
もはや別格。
それが世界管理者だった。
レンは立ち上がり、口元の血を拭う。
「確かに強いな」
レオンが笑う。
「褒め言葉として受け取っておこう」
「だが負ける気はない」
「そうか」
レオンの瞳が細くなる。
「なら見せてやる」
その瞬間――世界が止まった。
風が止まり、砂が止まり、時間が止まる。
ユイもヴァルゼルも動けない。
レンだけが辛うじて立っていた。
「何だ……これは……」
レオンが両手を広げる。
「管理者権限」
空間が歪む。
荒野が消え、空が消え、世界そのものが消えた。
そこは真っ白な空間だった。
上も下も存在しない。
ただ白だけが続く。
「ここは……」
「世界の狭間だ。管理者だけが入れる領域」
レンは周囲を見渡す。
確かに異常だった。
重力も、時間も、空間も――全てが曖昧。
レオンが問う。
「管理者とは何だと思う?」
レンは答える。
「世界を守る存在だ」
「違う」
即答だった。
「それは役割の一つでしかない。本質じゃない」
レンは眉をひそめる。
レオンは続けた。
「管理者とは観測者だ」
「観測者?」
レオンが指を鳴らす。
無数の光が現れた。
世界。
何千、何万――数え切れない光。
「これが多元世界。管理者は全てを観測する」
「生まれる世界」
「滅ぶ世界」
「進化する文明」
「終わる命」
レオンの声が重くなる。
「観測を続けていると理解する。救えない世界の方が多い」
無数の光が次々と消えていく。
「これが現実だ。どれだけ頑張っても滅ぶ。どれだけ救っても終わる。どれだけ守っても消える」
レンは静かに聞いていた。
だが――受け入れるつもりはなかった。
「だから何だ」
レオンが目を向ける。
「何?」
「終わるから守らないのか? 消えるから諦めるのか?」
レンは剣を握る。
「俺は違う」
黒い魔力が溢れる。
「一日しか生きられなくても守る。百年後に滅ぶとしても守る。それが俺だ」
沈黙。
レオンはしばらく動かず、やがて小さく笑った。
「やはり似ているな」
「何?」
「昔の俺に」
その声には、ほんの少しだけ寂しさがあった。
レンは気付く。
レオンは敵だ。
だが根本は違わない。
かつては誰かを守ろうとしていた。
誰かを救おうとしていた。
だからこそ今の姿になった。
「お前に何があった」
レンが問う。
レオンは答えない。
代わりに右手を上げた。
白い空間が揺れる。
「知りたいなら生き残れ」
次の瞬間――無数の光が現れた。
剣。
槍。
斧。
弓。
ありとあらゆる武器。
数万、数十万、無限に近い。
ユイが息を呑む。
「何あれ……」
ヴァルゼルの顔色も変わる。
『まずい……』
レオンが静かに言う。
「管理者権限――世界兵装展開」
無数の武器がレンへ襲い掛かった。
轟轟轟轟轟轟轟ッ!!
世界が爆発する。
レンは剣を振るう。
斬る。砕く。弾く。
だが数が多すぎる。
一本一本が神具級。
神を殺せる威力。
「くっ!」
肩が裂け、脇腹が抉れる。
血が舞う。
それでもレンは前へ進む。
一歩。
また一歩。
レオンへ向かって。
「馬鹿か」
レオンが呟く。
「避けろ」
「断る!」
レンは叫ぶ。
「俺はお前を止める!」
黒い雷が爆発する。
竜王剣が咆哮する。
巨大な黒竜が出現した。
第三世界の空を埋め尽くすほどの巨体。
ユイが目を見開く。
「黒竜王……!」
黒竜が咆哮し、世界兵装を飲み込みながら突撃する。
レオンの目が僅かに見開く。
「なるほど」
初めて感心したような声。
だが――レオンは右手を前に出しただけだった。
「消えろ」
パキン。
世界が割れる音。
次の瞬間、黒竜が消滅した。
レンの瞳が見開かれる。
「なっ……」
一撃だった。
黒竜王の力が、完全に消された。
レオンは静かに言う。
「これが管理者だ」
圧倒的だった。
強すぎる。
今のレンでは届かない。
だが――レンは笑った。
血を流し、傷だらけになりながらも立っていた。
「なら……」
剣を握る。
「もっと強くなるだけだ」
レオンが止まる。
「何?」
「まだ終わってない」
レンの瞳は燃えていた。
絶望ではない。
諦めでもない。
挑戦。
それだけだった。
レオンはしばらく見つめ、そして――
本当に久しぶりに、少しだけ楽しそうに笑った。
「面白い」
その瞬間。
管理端末が赤く光った。
【緊急警告】
【第七世界に異常発生】
【創世神級反応を検知】
【危険度:測定不能】
レンとレオンの表情が同時に変わる。
「……何だと」
レオンの声から初めて余裕が消えた。
さらに警告が続く。
【対象活動開始】
【全世界への侵食を確認】
【推定到達時間:四十八時間】
白い空間が震える。
多元世界そのものが悲鳴を上げていた。
そして遥か彼方――。
誰も知らない第七世界の深淵で。
封印されていた“何か”が目を開いた。
その瞳は、
創世神すら見上げるほど禍々しく輝いていた――。




