第2話 第三世界
空間が歪む。
視界が引き裂かれるような感覚。
レンとユイは裂け目の中を進んでいた。
周囲には無数の光が漂い、まるで星々の海の中を歩いているようだった。
「すごい……」
ユイが思わず息を漏らす。
その光景は美しく、しかし同時に恐ろしい。
光の一つひとつが“世界”なのだ。
第一世界。
第二世界。
第三世界。
そして、その先に連なる無数の世界。
『驚くのも無理はない』
先を歩くヴァルゼルが振り返る。
『これが多元世界の回廊だ』
レンは周囲を見渡した。
「全部、世界なのか?」
『そうだ』
「……想像以上だな」
アザト=ゼルとの戦いで宇宙規模の存在を知った。
だが、こうして実際に目の当たりにすると話は別だった。
世界は無限に近い。
そして、そのすべてが危機に晒される可能性を持っている。
管理者という肩書きが、急に重くのしかかる。
その時だった。
一つの光が激しく明滅した。
赤色――まるで警告灯のように。
『見えるか。あれが第三世界だ』
ヴァルゼルが指差す。
レンの表情が引き締まった。
「かなり危険そうだな」
『実際に危険だ。守護神が殺されてから、世界の均衡が崩れ始めている。あと数日で崩壊が始まる』
ユイが顔を曇らせる。
「そんな……」
『だから急がねばならない』
三人は赤い光へと近付いていく。
そして――世界へ降り立った。
***
最初に感じたのは風だった。
乾いた風。砂の匂い。
レンはゆっくり目を開く。
そこには広大な荒野が広がっていた。
赤い空。黒い大地。遠くには巨大な都市。
第一世界とはまるで違う。
まさに異世界そのものだった。
「ここが第三世界……」
ユイが周囲を見回す。
『正式名称はアルカディア。神々によって統治されていた世界だ』
「されていた?」
ヴァルゼルは頷く。
『守護神が死んだからな』
空気が重く沈む。
神が死ぬ――第一世界ではあり得ない。
だが、ここでは現実だった。
『まず現場へ向かう。神殺しが最初に現れた場所だ』
***
数時間後。
三人は巨大な神殿へ到着した。
かつて神が住んでいた場所。今は半壊している。
折れた柱。崩れた壁。
戦闘の跡が至る所に残っていた。
レンが足を踏み入れた瞬間、背筋に寒気が走る。
「……っ」
ユイも同じ反応を見せる。
「何これ……」
神殿の奥から、異様な気配が漂っていた。
殺気でも魔力でもない。もっと根源的な何か。
『感じるか。これが神殺しの残滓だ』
レンは地面に触れ、残された力を解析する。
世界管理者となった今の彼には、それができた。
そして――顔色が変わる。
「馬鹿な……」
『何が分かった』
レンはゆっくり立ち上がり、神殿の奥を見つめた。
「これは……人間だ」
沈黙。
ヴァルゼルの目が見開かれる。
『何だと?』
「間違いない。神を殺したのは人間だ」
空気が凍りつく。
守護神を倒し、世界崩壊を引き起こした存在。
その正体が――人間。
『あり得ん……人間程度に神は殺せない』
「普通ならな。でも、こいつは違う」
その力は異常だった。
神核に近い――いや、それ以上かもしれない。
その時。
神殿全体が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……!!
「何だ!?」
ユイが身構える。
ヴァルゼルも即座に警戒態勢に入る。
次の瞬間、天井が崩れ落ちた。
轟音。土煙。
そして――一人の男が現れた。
黒いコート。銀色の髪。
若い。二十代前半ほど。
だが、その瞳だけは異様だった。
世界そのものを見下ろすような冷たい眼差し。
男はレンを見ると、ゆっくり笑った。
「やっと来たか」
レンの瞳が細くなる。
「お前が神殺しか」
男は肩を竦める。
「そんな呼び方もされたな」
凄まじい圧力が解き放たれた。
神殿が軋み、大地が震える。
ユイが息を呑み、ヴァルゼルでさえ表情を変えた。
強い。
今までの敵とは次元が違う。
男は歩み寄りながら言う。
「自己紹介しておこう。俺の名はレオン」
そして――。
「元・世界管理者だ」
レンの瞳が大きく見開かれる。
世界管理者。
それは今の自分と同じ存在。
つまり――目の前の男は、レンと同格。
神殿に緊張が走る。
レオンは笑った。
「さあ、後任。お前がどれだけ強いのか見せてみろ」
その瞬間、新たな戦いの幕が上がった――。




