第二部 第1話 多元世界の鼓動
世界が平和を取り戻してから、わずか数日。
レンは相変わらず忙しかった。
――いや、以前より忙しい。
「……なんで俺が世界管理者なんだよ」
日本の自宅。
テーブルの上には、召喚書から派生した“管理端末”が浮かんでいる。
【第一世界:魔力濃度安定】
【第二世界:観測中】
【第三世界:危険度上昇】
【第四世界:文明レベル低下】
【第五世界:神格存在の活動を検知】
「いやいやいや……多すぎるだろ」
レンは頭を抱えた。
ユイが呆れた顔でお茶を置く。
「世界って……そんなにあるの?」
「あるらしい」
「管理って……何するの?」
「俺が知りたい」
レンはため息をつく。
アザト=ゼルを倒した時点で、すべて終わったと思っていた。
だが実際は――そこが始まりだった。
世界は一つではない。
無数に存在する。
そして、そのすべてに“終焉”が迫っている可能性がある。
「……まあ、やるしかないか」
レンは立ち上がる。
その時だった。
【警告】
管理端末が赤く光った。
「またかよ……」
【第三世界に異常を検知】
【神格級存在の衝突を確認】
【世界崩壊まで残り:72時間】
「は?」
ユイが固まる。
「ちょっと待って、72時間って……」
「三日後だな」
レンは顔をしかめた。
「早すぎるだろ……」
【管理者へ告知】
【第三世界は“神王アルディウス”の兄弟世界】
【崩壊すれば第一世界にも影響が及びます】
「おいおいおいおい」
ユイが青ざめる。
「つまり……放っておけないってこと?」
「放っておいたら、こっちも巻き込まれる」
レンは深呼吸した。
「……行くしかないな」
「行くの?」
ユイの声が震える。
レンは笑った。
「大丈夫。今回は“終焉”じゃない」
「でも……」
「それに」
レンはユイの頭を軽く撫でた。
「俺はもう一人じゃないから」
ユイは真っ赤になった。
「……ずるい」
「知ってる」
その時――。
空間が揺れた。
部屋の中央に黒い裂け目が生まれる。
「来たか……」
レンは剣を呼び出す。
ユイも杖を構えた。
裂け目の向こうから、巨大な影が姿を現す。
赤い瞳。
黒い鎧。
圧倒的な魔力。
だがアザト=ゼルとは違う。
もっと“理性的”で、もっと“冷たい”。
『……管理者か』
低く響く声。
レンは眉をひそめた。
「お前は?」
『第三世界の監視者。名を――“ヴァルゼル”』
ユイが息を呑む。
「監視者……?」
『我らは世界の均衡を保つ者。だが――』
ヴァルゼルの瞳が細くなる。
『第三世界で“神殺し”が発生した』
「神殺し……?」
『神王アルディウスの同格。
その世界の守護神が、何者かに殺された』
空気が凍りつく。
レンは理解した。
「つまり……」
『犯人を追っている。
そして――そいつは第一世界にも来ている』
レンとユイが同時に固まる。
「……は?」
『管理者レン・クロガネ』
ヴァルゼルが一歩前に出る。
『お前の世界に、“神殺し”が潜んでいる』
レンは剣を握り直した。
「……面倒なことになってきたな」
ユイが呟く。
「平和って……何?」
レンは苦笑した。
「俺が聞きたい」
だが――。
胸の奥が熱くなる。
戦いの予感。
新たな世界。
未知の敵。
そして、守るべきもの。
レンは前を向いた。
「よし」
ユイが見上げる。
「行くの?」
「行く」
レンは笑った。
「今度は“世界の外側”だ」
ヴァルゼルが裂け目を開く。
『案内しよう。第三世界へ』
レンはユイの手を取った。
「行こう、ユイ」
「うん」
二人は裂け目へ踏み出す。
新たな世界へ。
新たな戦いへ。
新たな伝説へ。




