第26話 終焉を超える者
白。
世界が白に染まった。
いや、世界だけではない。
空間も。
時間も。
法則すらも。
レンとアザト=ゼルが激突した瞬間、その余波だけで周囲の次元が消し飛んでいた。
誰もその戦いを正しく認識できない。
人類どころか、S級探索者ですら理解不能。
ただ、空に走る無数の閃光だけが見えた。
ドゴォォォォォォン!!
数秒遅れて衝撃が届く。
世界中の海が荒れ狂い、山脈が揺れ、大地が軋む。
「何なんだよ……」
白峰が呆然と呟く。
戦いですらない。
自然災害の発生源が二つ存在しているようなものだった。
***
その頃。
レンはアザト=ゼルと、果てのない空間で激突を繰り返していた。
拳。
蹴り。
魔法。
概念。
存在そのもの。
ありとあらゆる“力”をぶつけ合う。
「はああああああああっ!!」
神竜王拳。
黄金と黒炎が爆ぜ、アザト=ゼルの胸部を貫く。
だが――。
『無意味だ』
傷は一瞬で再生する。
レンは舌打ちした。
やはり、そう簡単にはいかない。
神核を得た今でも分かる。
アザト=ゼルは異常だ。
奴は生物ではない。
概念だ。
終焉そのもの。
殴れば傷つく。
だが倒せない。
まるで“終わり”という現象そのものを相手にしている感覚だった。
『理解したか』
アザト=ゼルが笑う。
『私は殺せぬ。神も試した。竜も試した。宇宙すら試した。だが誰も私を終わらせられなかった』
闇が膨れ上がる。
次の瞬間、無数の世界が出現した。
レンは目を見開く。
そこには地球があった。
いや、地球だけではない。
別の歴史。
別の文明。
別の可能性。
無限の並行世界。
その全てが闇に飲み込まれていく。
『これが私だ』
レンは歯を食いしばった。
アザト=ゼルは強いのではない。
存在の格が違う。
神々が敗れた理由も理解できた。
勝てる存在ではないのだ。
その時――。
『レン』
バハムートが静かに呼ぶ。
「何だ?」
『思い出せ』
「何をだ」
『お前は何のために力を求めた』
レンは一瞬だけ黙る。
何のために。
決まっている。
勝つためではない。
最強になるためでもない。
守るためだ。
ユイを。
仲間を。
世界を。
失いたくないから。
『なら答えは見えているはずだ。神々が敗れた理由もな』
その瞬間、レンの脳裏にアルディウスの言葉が蘇る。
――なぜ戦う?
――守るためだ。
そこで気付いた。
神々は倒そうとした。
封印しようとした。
滅ぼそうとした。
だが――誰も“守ろう”とはしなかった。
「そうか……」
レンは呟く。
アザト=ゼルが眉を動かす。
『何だ』
レンは笑った。
この戦いで初めて、心から笑った。
「お前は終焉だ」
『そうだ』
「だから終わらせることはできない」
『当然だ』
「でもな」
レンの瞳が輝く。
黄金と漆黒。
二つの光が交差する。
「終焉を超えるものはある」
アザト=ゼルが沈黙する。
レンは続けた。
「未来だ」
世界が震えた。
神核が共鳴し、バハムートの黒炎が燃え上がる。
そして――。
人類の想い。
仲間たちの願い。
世界中の希望。
その全てがレンへ集まり始めた。
「終わりがあるから未来がある」
光が広がる。
「終わりがあるから次へ進める」
黄金の翼が巨大化する。
「お前は終焉じゃない」
アザト=ゼルの無数の瞳が揺れた。
初めて。
本当に初めて。
怪物が動揺した。
「お前はただ“止まっている”だけだ」
ドクン。
神核が脈打つ。
レンは理解した。
神核の本当の力を。
それは破壊ではない。
創造。
未来を生み出す力。
アルディウスが最後まで守ろうとした力。
『馬鹿な……その力は……』
「神王の力じゃない」
レンは首を振る。
「人間の力だ」
その瞬間、世界中で光が生まれた。
ユイ。
白峰。
探索者たち。
一般市民。
全ての人間から光が昇る。
希望。
願い。
未来。
目に見えないはずのものが力へ変わる。
『やめろ……それを使うな!!』
アザト=ゼルが初めて叫んだ。
終焉が恐れている。
未来を。
希望を。
人の可能性を。
「これで終わりだ」
レンは右手を掲げる。
黄金と黒炎が融合し――白銀の光が生まれた。
神でもない。
竜でもない。
人間の光。
『やめろォォォォォォ!!』
アザト=ゼルが全力で襲い掛かる。
無数の宇宙。
無数の終焉。
全てを乗せた一撃。
だが、レンは前へ出た。
「未来創世」
白銀の光が放たれる。
静かな一撃だった。
派手さも轟音もない。
ただ一筋の光。
それがアザト=ゼルへ届く。
そして――。
怪物の身体が止まった。
『……あ……』
無数の瞳が見開かれる。
身体が崩れていく。
闇が消える。
終焉が消えていく。
『何故だ……』
レンは静かに答えた。
「未来は終わらないからだ」
アザト=ゼルが笑った。
初めて見せる穏やかな笑み。
『そうか……私は……負けたのか』
「いや」
レンは首を振る。
「お前も未来の一部だ」
終焉があるから始まりがある。
別れがあるから出会いがある。
死があるから命は輝く。
アザト=ゼルは目を閉じた。
そして。
『面白い世界だな』
最後の言葉を残し、完全に消滅した。
***
終焉が消えた瞬間、世界を覆っていた闇が晴れる。
青空が広がった。
誰もが空を見上げる。
静寂。
そして――。
歓声。
世界中で歓声が上がった。
人類は生き残ったのだ。
長き戦いの果てに。
レンは静かに空を見る。
戦いは終わった。
だが。
新しい未来が始まろうとしていた――。




