第24話 神を超える力
白い世界が揺れていた。
まるで地震のように空間そのものが震えている。
現実世界ではアザト=ゼルが結界を攻撃しているのだろう。
残された時間は少ない。
レンは神々の王アルディウスを見据えた。
「神を超える力って何なんだ?」
アルディウスは静かに微笑む。
「まず一つ聞こう。レン・クロガネ、お前はなぜ戦う?」
突然の問いだった。
レンは少しだけ戸惑う。だが答えは決まっていた。
「守るためだ」
「誰を?」
「みんなを」
即答だった。
仲間。家族。友人。この世界に生きる全ての人々。
だから戦う。それ以外の理由などなかった。
アルディウスは満足そうに頷く。
「なら資格はある」
次の瞬間、白い空間が変化した。
景色が広がる。
無数の星々。果てしない宇宙。
そして――巨大な戦場。
レンは息を呑んだ。
そこには数え切れないほどの神々がいた。
巨人のような神。
竜神。
天使。
悪魔。
精霊王。
様々な存在が一つの場所へ集結している。
そして彼らの前に立つ存在――それがアザト=ゼルだった。
今より遥かに巨大な姿。
銀河ほどの大きさを持つ異形。
無数の世界を飲み込む怪物。
レンは言葉を失う。
「これが……」
「三千年前の戦争だ。神界最終戦争」
アルディウスの声とともに、映像のような記憶が流れていく。
神々が戦う。
世界を創った存在たちが命を懸ける。
しかし――勝てない。
何千柱もの神々が消滅していく。
神界が崩壊する。
星々が砕ける。
宇宙が裂ける。
それでもアザト=ゼルは止まらなかった。
『喰らう』
『喰らう』
『全てを喰らう』
狂気の咆哮が響く。
そして最後に残ったのが――アルディウスだった。
神々の王。最強の神。
黄金の剣を持ち、アザト=ゼルへ立ち向かう。
壮絶な戦いだった。
一撃ごとに宇宙が崩壊し、時間すら歪む。
そして――最後。
アルディウスは己の命を代償にアザト=ゼルを封印した。
それがヴァルグロスだった。
レンは全てを理解する。
「だから監視者だったのか……」
「そうだ。ヴァルグロスは牢獄だった。そしてその封印は限界を迎えた」
映像が消える。
再び白い世界。
レンは拳を握った。
「なら俺が倒す」
アルディウスは静かに首を振る。
「今のお前では無理だ」
レンは反論できなかった。
事実だからだ。
完全解放したバハムートですら通用しない。
圧倒的な差。それが現実。
「だから神核を継承する」
アルディウスが右手を掲げる。
光が集まり、黄金の球体が現れる。
太陽のように輝く結晶。
それを見た瞬間、バハムートが息を呑んだ。
『神核……!』
「そう。神々の王の力の源。神そのものを構成する核だ」
レンは目を見開く。
「そんなものを俺が?」
「本来なら不可能だ。だがバハムートを完全継承したお前なら可能性がある」
「成功率は?」
返ってきた答えは冷酷だった。
「七パーセント」
空気が凍る。
七パーセント。
失敗する確率九十三パーセント。
ほぼ死ぬ。そういう数字だった。
「失敗したら?」
「魂が消滅する。蘇生も転生も存在しない。完全なる死だ」
レンは黙る。
重い。あまりにも。
だが――選択肢など無かった。
現実世界では世界が滅びかけている。
誰かがやらなければならない。
「やる」
アルディウスは驚かなかった。
最初から分かっていたように。
「そう言うと思った」
神核がゆっくり浮かぶ。
レンの前へ。
黄金の光。
触れるだけで身体が震える。
莫大なエネルギー。
世界そのものが凝縮されているようだった。
「覚悟はいいか?」
レンは頷く。
そして手を伸ばした。
触れた瞬間――世界が爆発した。
「ぐあああああああああああ!!」
凄まじい激痛。
身体が裂ける。骨が砕ける。
魂そのものが焼かれる感覚。
レンは叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
だが終わらない。
神核の力が流れ込んでくる。
あまりにも巨大。
人間が受け入れられる量ではない。
『耐えろ!!』
バハムートが叫ぶ。
『ここで終わるな!!』
レンは歯を食いしばる。
負けるか。
こんなところで。
死ねるか。
まだ守れていない。
まだ終われない。
仲間がいる。
ユイがいる。
みんなが待っている。
だから――。
「うおおおおおおおおおおお!!」
黄金の光が爆発した。
白い世界全体が揺れる。
アルディウスは静かに見守っていた。
「なるほど。本当に面白いな」
普通なら即死。魂ごと消滅する。
それほどの力だった。
しかしレンは耐えている。
立っている。
前へ進んでいる。
神核が徐々に融合していく。
十パーセント。
二十パーセント。
三十パーセント。
レンの身体から黄金と黒炎が同時に溢れ出した。
神の力。
竜王の力。
本来なら共存しない二つの力が――融合していく。
『馬鹿な……』
バハムートが呟く。
『本当に成功するというのか……』
その時だった。
現実世界。
黄金の結界が大きく砕けた。
ガシャアアアアアアアン!!
世界中に響く破砕音。
人々が絶望する。
アザト=ゼルが笑った。
『終わりだ』
第二撃。
終焉の光が集まる。
今度こそ結界は耐えられない。
誰もがそう思った。
だが――。
その瞬間。
世界が震えた。
異変に最初に気付いたのはアザト=ゼルだった。
『……何?』
無数の瞳が見開かれる。
空が光る。
黄金と黒。
二つの光。
それが世界中へ広がっていく。
そして。
召喚書の世界。
レンがゆっくり目を開いた。
瞳は黄金と漆黒に輝いている。
髪は銀黒色へ変化していた。
身体を覆う竜鎧には黄金の紋章が刻まれている。
神と竜。
二つの力を宿した存在。
アルディウスは笑った。
「成功したか」
レンは拳を握る。
力が溢れている。
今までとは比較にならない。
世界が違って見える。
空間。時間。魔力。
全てが理解できる。
神の視点。
それが今のレンだった。
『信じられん……本当に神核を取り込んだのか』
バハムートが呟く。
レンは静かに息を吐く。
そしてアルディウスへ向き直った。
「これで勝てるのか?」
神王は少しだけ考え――笑った。
「分からん」
レンは思わずずっこけそうになる。
「おい!」
「だが一つだけ確かなことがある」
アルディウスの瞳が細まる。
「今のお前なら奴と同じ舞台に立てる」
その言葉。
それだけで十分だった。
今までは届かなかった。
だが今なら届く。
戦える。
可能性がある。
アルディウスの身体が光になり始める。
記録の終わりだった。
「レン」
「何だ?」
神王は微笑む。
「世界を頼んだぞ」
次の瞬間、白い世界が崩壊した。
レンの意識は現実へ戻る。
そして――世界中が目撃する。
黄金と黒炎を纏った新たな存在の誕生を。
人類最後の希望。




