第23話 神々の遺産
空を埋め尽くす魔法陣。
その数は千を超えていた。
一つ一つが先ほどの黒球と同等の威力を秘めている。
探索者たちは言葉を失った。
絶望という言葉すら生ぬるい。
もしあれが放たれれば、日本だけでは済まない。
大陸ごと消える。
世界地図そのものが書き換わる。
そんな未来が容易に想像できた。
『終われ』
アザト=ゼルが指を下ろす。
瞬間、千の魔法陣が同時に輝いた。
「まずい!!」
白峰が叫ぶ。
誰もが死を覚悟した。
だが――。
その時だった。
突如として空が黄金色に染まる。
「……え?」
レンが目を見開く。
世界中から光が集まり始めたのだ。
東京。
大阪。
北海道。
沖縄。
日本中のダンジョンから光柱が立ち昇る。
それだけではない。
アメリカ。
イギリス。
ドイツ。
中国。
インド。
ブラジル。
世界各地のダンジョンから同じ光が天へ伸びていく。
まるで何かに呼応するように。
『これは……』
バハムートが驚く。
その声には明らかな動揺があった。
レンは初めて聞いた。
黒竜王が動揺する声を。
『神々の封印だと……?』
次の瞬間、世界中から集まった光が巨大な結界を形成した。
黄金の壁。
惑星そのものを覆うほど巨大な障壁。
そして――。
アザト=ゼルの魔法が放たれる。
轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟ッ!!
千を超える終焉の光。
空間が崩壊し、大地が裂け、海が蒸発する。
だが――黄金の結界は壊れなかった。
全てを受け止める。
人類を守るために。
「防いだ……?」
誰かが呟く。
誰も信じられなかった。
あの攻撃を。
世界を滅ぼせる攻撃を。
結界は完全に防ぎ切ったのだ。
アザト=ゼルの無数の瞳が細くなる。
初めて――奴の顔から余裕が消えた。
『神々め……』
低い声が響く。
『死んでもなお邪魔をするか』
レンは聞き逃さなかった。
神々。
その言葉。
「バハムート!」
『ああ』
黒竜王が答える。
『これは遥か昔に築かれた最終防衛機構』
『世界そのものを守るための神々の遺産だ』
レンは空を見上げる。
黄金の結界。
人類は知らなかった。
自分たちが今まで守られていたことを。
数千年もの間。
神々によって。
『だが長くは持たぬ』
バハムートの声は重い。
『結界は不完全だ』
『既に神々はいない』
『維持する力が足りない』
その言葉通り、結界には無数の亀裂が走っていた。
あと数回も攻撃を受ければ終わる。
アザト=ゼルもそれを理解していた。
『ならば壊すだけだ』
膨大な魔力が噴き上がる。
空間が悲鳴を上げる。
先ほど以上の力。
レンは歯を食いしばった。
「くそっ……!」
どうすればいい。
攻撃は通じない。
相手は無傷。
力の差が大きすぎる。
その時だった。
召喚書が再び輝く。
今までとは違う。
黄金色の光。
ページが勝手に開かれていく。
一ページ。
二ページ。
三ページ。
そして最後のページ。
そこに文字が浮かび上がった。
【適格者確認】
【神核継承条件達成】
【継承を開始します】
レンの目が見開かれる。
「何だこれ……!?」
召喚書から光が溢れる。
その瞬間、レンの意識は別空間へ引き込まれた。
気付けば白い世界だった。
果てのない空間。
静寂だけが存在する世界。
その中央に一人の男が立っていた。
純白の長衣。
銀色の髪。
黄金の瞳。
どこか人間離れした雰囲気。
男は微笑んだ。
「やっと来たか」
レンは警戒する。
「誰だ?」
男はゆっくり答えた。
「私はアルディウス」
その名前を聞いた瞬間――
バハムートが息を呑んだ。
『まさか……』
男は笑う。
「久しぶりだな、黒竜王」
バハムートが沈黙する。
あり得ない、という反応だった。
レンは困惑する。
「知り合いなのか?」
『知り合いなどではない』
バハムートが答える。
『奴は――』
黄金の瞳が細まる。
『神々の王だ』
レンの思考が停止した。
神々の王。
それはつまり――世界の頂点。
神の頂点。
そんな存在が目の前にいる。
アルディウスは苦笑する。
「残念ながら本人ではない」
「これは残された記録だ」
「本体は遥か昔に消滅している」
レンは息を呑む。
だが、それでも圧倒的な存在感だった。
アルディウスは真剣な表情になる。
「時間がない」
「アザト=ゼルが復活した以上、世界は滅亡寸前だ」
レンは拳を握る。
「倒す方法があるのか?」
アルディウスは頷いた。
そして告げる。
「ある」
その一言に希望が宿る。
しかし――次の言葉は重かった。
「だが成功率は一割もない」
空気が凍る。
「それでも聞くか?」
レンは迷わなかった。
「ああ」
世界を守るためなら。
どんな可能性にも賭ける。
アルディウスは静かに笑った。
「ならば教えよう」
「神を超える力の在処を」
その瞬間、白い空間が激しく揺れ始める。
外ではアザト=ゼルが再び結界への攻撃を開始していた。
残された時間は少ない。
人類最後の希望。
その鍵が今、明かされようとしていた――。




