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第18話 監視者第二形態

黒い翼が空を裂いた。


レンの身体が一瞬で加速する。


「速い!?」


白峰が目を見開く。


つい先ほどまでF級探索者だった少年とは思えない速度だった。


ヴァルグロスも予想していなかったのだろう。

巨体がわずかに反応に遅れる。


レンは一直線に懐へ飛び込んだ。


右腕に黒炎が集まる。


《竜撃》


拳が振り抜かれる。


ドゴォォォォン!!


衝撃波が爆発した。

巨大な外殻に拳が叩き込まれる。


周囲の瓦礫が吹き飛んだ。


「入った!!」


誰かが叫ぶ。


今まで誰一人まともに傷付けられなかったヴァルグロス。

その巨体が初めて大きく揺れた。


しかし――


「グォォォォォ!!」


怒号と共に前脚が振り下ろされる。


レンは咄嗟に飛び退いた。


ズガァァァァン!!


地面が消し飛ぶ。

直撃していれば即死だった。


冷や汗が流れる。


(まだ足りない……!)


今の自分は強い。

だが勝てるほどではない。


それは理解していた。


『慢心するな』


バハムートの声が響く。


『我が力は欠片に過ぎぬ』

『奴は監視者』

『世界を滅ぼすための兵器だ』


兵器――。


その言葉に違和感を覚える。

だが考える余裕はない。


ヴァルグロスの口元に黒い光が集まり始めていた。


「ブレスだ!」


白峰が叫ぶ。


次の瞬間。


漆黒の閃光が放たれた。


ドォォォォォォォォン!!


一直線に大地が抉れる。

数百メートル先の建物が蒸発した。


レンは空中へ跳躍する。


紙一重だった。

髪が焦げる。


避けただけでも奇跡だった。


しかし攻撃は終わらない。


第二射。

第三射。


連続砲撃。


レンは空中を駆けるように回避していく。


その姿に探索者たちは言葉を失った。


「本当に人間なのか……」

「あり得ない……」


ユイも薄く目を開いた。


ぼやける視界の先。

黒い翼を広げ戦うレンの姿が見える。


「レン……」


F級と笑われていた少年。


その少年が今、人類最前線で戦っている。


誰よりも前で。

誰よりも危険な場所で。


ユイは小さく拳を握った。


「負けないで……」


その祈りに応えるように。


レンはさらに加速した。


《同調率60%》

《70%》

《75%》


力が増していく。

だが身体への負荷も増していた。


骨が悲鳴を上げる。

筋肉が裂けそうになる。


それでも止まれない。


レンはヴァルグロスの頭上へ到達した。


「うおおおおおおお!!」


渾身の一撃。


ゴガァァァァァン!!


轟音が響く。


ついに外殻が砕けた。

黒い破片が飛び散る。


ヴァルグロスが苦痛の咆哮を上げた。


「傷付けた!」


歓声が上がる。


しかしレンは違和感を覚えていた。


(浅い……)


確かに外殻は砕けた。

だが致命傷には程遠い。


砕けた部分から覗く肉体には、なお膨大な魔力が渦巻いている。


その時だった。


ヴァルグロスの瞳が細められる。


嫌な予感。


次の瞬間――


巨体が消えた。


「なっ!?」


レンの反応を上回る速度。


横合いから巨大な尾が迫る。


咄嗟に腕を交差させる。


ドゴォォォォン!!


凄まじい衝撃。

レンの身体が砲弾のように吹き飛ばされた。


ビルの残骸を何本も突き破る。

轟音と共に瓦礫が崩れ落ちた。


「レン!」


ユイが叫ぶ。


誰もが息を呑む。


しかし――


轟ッ!!


瓦礫の山が黒炎で吹き飛んだ。


その中からレンが立ち上がる。


口元から血が流れていた。


(速い……)


竜王化した今ですら追い切れない。

まるで遊ばれているようだった。


『油断するな』


バハムートの声が響く。


『奴はまだ本気ではない』


「これで……かよ……」


レンは苦笑する。


その直後だった。


ヴァルグロスが再び消える。


爪撃。

尾撃。

翼による衝撃波。


連続攻撃。


レンは必死に回避した。


避ける。

避ける。

避ける。


だが全ては避けきれない。


肩が裂ける。

脇腹から血が流れる。


全身が悲鳴を上げる。


それでも倒れない。


後ろには守るべき人たちがいる。


だから前へ出る。


レンは拳を握り締めた。


「負けるかあああああ!!」


黒炎が爆発する。


レンは逆に突撃した。


速度がさらに上がる。


一瞬だけ――

ヴァルグロスの反応を上回った。


《竜撃》


ドゴォォォォォン!!


黒炎の拳が再び炸裂する。


今度は明確な亀裂が走った。

外殻全体が軋む。


ヴァルグロスが大きく仰け反った。


「入った!」

「やったぞ!」


探索者たちから歓声が上がる。


観測班も興奮していた。


しかし次の瞬間。


計測機器が警告音を鳴らした。


ビーッ!!

ビーッ!!


「反応急上昇!」

「まずい!」

「魔力が暴走している!」


歓声が止まる。


誰もがモニターを見る。


数値が異常な勢いで跳ね上がっていた。


そして――


ヴァルグロスの全身から赤黒い光が噴き出した。


嫌な予感が走る。


観測班が青ざめた。


「第二形態だ!!」


戦場が凍り付いた。


外殻が割れる。


バキッ。

バキバキバキッ!!


全身に亀裂が走った。


そこから溢れ出す真紅の光。


翼がさらに巨大化する。

角が伸びる。


魔力密度が数倍へ膨れ上がる。


白峰の顔色が変わった。


「冗談だろ……」


S級災厄。

それですら本気ではなかった。


誰も笑えない。

絶望だけが広がる。


レンも空中で息を呑んだ。


全身が警鐘を鳴らしている。


危険。

危険。

危険。


今までとは比べ物にならない。


その時だった。


召喚書が激しく発光する――。

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