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第16話 封印解放

「力を貸してくれ――!」


レンは召喚書を掲げた。


戦場の轟音の中、その声は誰にも届かない。

だが召喚書だけは応えた。


黒い魔法陣が展開される。


まず現れたのは巨大な赤い影。


「グルルルル……!」


レッドオーガ。


続いて黒い霧の中から銀色の瞳が輝く。


シャドウファング。


そして――四本腕の異形。


ジェノアビートル。


三体の召喚獣がレンの前に並ぶ。


周囲の探索者たちが驚愕した。


「三体同時召喚だと!?」


「あり得ない……!」


「F級じゃなかったのか!?」


誰もが目を疑う。


普通の召喚士なら一体維持するだけでも精一杯だ。

しかしレンは違う。


召喚書の力によって、三体を同時に従えている。


だが――レン自身が一番分かっていた。


(勝てない……)


三体を合わせてもS級には届かない。

それでも行くしかない。


監視者の血を手に入れるために。


「レッドオーガ!」


巨体が駆け出す。

地面を砕きながら突進。


ドガァァン!!


しかし――拳は止まった。


ヴァルグロスの外殻は傷一つ付かない。


逆に尾が振られた。


ズガァァァァン!!


レッドオーガが吹き飛ぶ。

何十メートルも。


ビルに激突し、そのまま瓦礫に埋もれた。


「グオオオオ!」


苦しそうな咆哮。


召喚書に亀裂のような光が走る。


《レッドオーガ》

《損傷率67%》


レンの顔が青ざめた。


一撃。

たった一撃で瀕死。


格が違う。

圧倒的すぎる。


「シャドウファング!」


黒狼が影へ潜る。

高速移動。


一瞬でヴァルグロスの背後へ。

首筋を狙う。


ガキィン!!


鋭い牙が弾かれた。

鋼鉄以上の硬度。


シャドウファングですら貫けない。


その瞬間、ヴァルグロスの瞳が動いた。

黒狼を捉える。


「まずい!」


レンが叫ぶ。


遅かった。


黒い魔力が放たれる。


ドォォォン!!


爆発。

シャドウファングが吹き飛ばされる。


《損傷率54%》


二体目も戦闘不能寸前。


絶望的だった。


「ジェノアビートル!」


最後の切り札。

ユニーク個体。


ジェノアビートルが高く跳躍する。


四本の腕が同時に振り下ろされた。


ガガガガガァン!!


初めて――ヴァルグロスの外殻が少し砕けた。


ほんのわずか。

爪先ほどの傷。


だが確かに傷付いた。


「効いた!」


レンの目が見開かれる。

周囲の探索者たちも驚く。


しかし――怒りを買った。


ゴォォォォォ!!


凄まじい咆哮。

ジェノアビートルの動きが止まる。


圧力だけで。


そして前脚が振り下ろされた。


ズドォォォン!!


ジェノアビートルが地面へ叩き込まれる。

クレーターが生まれる。


煙が晴れる。


そこには――半壊したジェノアビートル。


《損傷率89%》

《戦闘継続困難》


レンは息を呑んだ。


三体全てが敗北。


それでも召喚書は光り続ける。


《解析成功》

《監視者級外殻サンプル取得》

《血液反応検知》


レンが目を見開く。


ジェノアビートルが傷付けた箇所。

そこから黒い液体が流れていた。


ヴァルグロスの血。


目標の一つだ。


「取れる……!」


だが場所が悪い。

完全にヴァルグロスの足元。


近づけば死ぬ。

普通なら諦める距離。


その時だった。


「行け」


白峰の声。


振り向く。


血だらけの白峰が立っていた。


肩は砕け、全身傷だらけ。

それでも剣を握っている。


「白峰さん……!」


「今しかない」


白峰は笑った。


「俺たちが道を作る」


その言葉と同時に、他のA級探索者たちも前へ出る。


炎使い。

雷使い。

重戦士。

狙撃手。


全員がボロボロだった。

それでも誰も逃げない。


「新人」


赤髪の女性が笑う。


「ちゃんと持って帰りなさいよ」


「私たちが時間を稼ぐ」


レンは言葉を失った。


自分のために。

命を懸けるというのか。


白峰が剣を構える。


「総攻撃だ!!」


轟音。


A級たちが突撃する。

まるで流星群。


無数の魔力が放たれる。


ヴァルグロスの視線がそちらへ向く。


今だ。


レンは走った。


全力で。


足が震える。

怖い。

今にも死にそうだ。


それでも走る。


瓦礫を飛び越える。

炎を避ける。

爆発の中を突き進む。


距離百メートル。

五十メートル。

二十メートル。


近い。


巨大すぎる。

足元にいるだけで威圧感に押し潰されそうになる。


そして――見つけた。


黒い血液。


レンは召喚書を開いた。


ページが光る。


《対象確認》

《監視者の血》

《回収可能》


「頼む!」


血液が光に包まれる。

召喚書へ吸い込まれていく。


その瞬間――


世界が止まった。


ドクン。


召喚書が脈打つ。


一度。

二度。

三度。


そして。


最後のページが開いた。


眩い光。


全員が振り返る。

ヴァルグロスですら動きを止めた。


《条件達成》

《監視者の血を確認》

《第一封印解除開始》


《封印率25%突破》

《40%》

《55%》

《70%》


数字が跳ね上がる。


レンの周囲に黒い風が吹き荒れる。


地面が震える。

空が揺れる。


まるで何かが目覚めようとしていた。


そして。


最後のページに描かれていた存在が姿を現し始める。


巨大な翼。

黄金の瞳。

漆黒の鱗。


そのシルエットだけで周囲の探索者たちが息を呑む。


「なんだ……あれは……」


白峰ですら絶句した。


召喚書に文字が浮かぶ。


《伝説級召喚獣》

《第一解放承認》

《個体名――》


その瞬間。


ヴァルグロスが初めて後退した。


恐怖するように。


S級災厄が。

人類を滅ぼしかけている怪物が。


明確な恐怖を見せた。


レンは震える手で召喚書を握る。


ページの奥から聞こえる。


巨大な鼓動。


まるで神話の怪物が目覚めるような音。


そして文字が完成した。


《個体名:黒竜王バハムート》


戦場が静まり返る。


誰もがその名を見た。

誰も意味を理解できない。


だが本能だけは理解していた。


今、現れようとしている存在は――


ヴァルグロスすら恐れる化け物なのだと。


そして黒い光が天を貫いた。


伝説が、目を覚ます。

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