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緑の丘の銀の星  作者: ひろみ透夏
最終話 旅立ちの朝

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最終話 旅立ちの朝

 

 

 クモが操縦する小型宇宙船で、わたしとトモミ、アユムの三人は、緑が丘の草原に降り立った。


『全宇宙生物図鑑』を起動させ、背表紙をぽんっと叩く。

 黒ネコが飛び出して、草かげにすべり込んだ。



「博士、お別れがすんだころ、迎えに来ます」



 クモはそう言うと、小型宇宙船を再び発進させ、母船へともどっていった。

 朝もやのしめった風が(ほお)をかすめる。東の空は、もう、うっすらと白み始めていた。



「なんか、夢でも見ていたみたいだねぇ」



 誰にでもなくつぶやいたアユムの言葉に、わたしは、この丘の上でふたりと過ごした日々を思い返して、小さくうなずいた。


 トモミは顔をふせたまま、黙っている。

 さわさわとゆれる草の()だけが、静かな朝の草原に流れている。



「ああ、そうだ。ママが心配してるから、ぼく、もう帰るねぇ」


 アユムはわたしのキモノのそでをぐいっと引っぱると、耳もとで小さくささやいた。


「ハカセがもどってくるまで、トモミはぼくが守っているよ。だからハカセ、トモミをあんまり待たせないでよ」



 草をかきわけながら走っていくアユムは、ときおりふり返っては大きく手をふり、地平線の向こうに姿を消した。




「……アユムらしくないわ、気を使うなんて」




 ずっとうつむいていたトモミが、口を開いた。



「行っちゃうんだね」


「うん……」



「……連れて行ってくれないんでしょ」


「ごめん」




「たまには戻ってきてよね。地球人の姿のハカセも好きだけど、あの綺麗なハカセにも、また会いたいからさ……」



「……この地球人の姿、変だった?」


「変だよ、変! 昔の人みたい。でも大好きだよ」




 トモミが笑って、わたしも釣られるように笑った。

 やがてまた、静かな時間に包まれる。




「……地球の時間で、十年後には必ず」



 トモミが空を仰いで大きく息を吐いた。



「そっかぁ……十年……か……。うん、いいよ。それまでの居場所は、わたしが自分で見つけてみせる。あの本の中の世界を見てから、わたし、まだがんばれる気がするの……。ハカセのおかげだよ」


「ぼくは何もしてないよ。きみの心に、みんなの笑顔が残っていたから」



 トモミが自分の胸に、そっと手を当てた。



「もどれるかな? この街……みんなのもとに……」


「もどれるさ。きみの居場所は、星や国のように線引(せんび)きできない、みんなの心の中にある。……もちろんお父さんや、お母さんの心の中にもね」



 トモミは寂しげにまた顔をふせると、ぽつりとつぶやいた。


「なぐさめはいいよ。二人とも、わたしをおいて逃げたの。少しは悪いと思ってるかもしれないけど、そのうちわたしのことなんて忘れ……」



「忘れるわけないじゃないかっ!!」



 思わず怒鳴ってしまったわたしを、トモミが驚いた顔で見つめた。



「忘れられないんだ。一度出会ったら、もうずっと心の中にいる。どんなにきみが、ひとりぼっちだと思っていても、ぼくの心にきみは居つづけるんだ。心の中で笑って、泣いて……。どうしたって、消えやしないんだ!」



 いつのまにかわたしは、自分の気持ちを叫んでいた。


 わたしは生き物の生態を研究して発表することは得意だった。しかし、いままで自分の感情について深く考えたことも、表現したこともなかった。


 何を言えばいいのか、どうすればいいのかわからず、とまどっているわたしのことを、トモミは目に涙をいっぱい浮かべて見つめていた。



「わたしの心の中にだって、ハカセはずっといるんだから……。絶対帰ってきてよね。わたし、ずっとずっと、待ってるんだから……」





「トモミぃ!」




 そのとき、地平線からアユムが叫びながら走ってきた。

 わたしたちの前まで走って来ると、ひざに両手をついて、息を整えながら言った。



「ママが言ってたんだ。ずっと心配してたって。夜中じゅう、探しまわってたって……」


 アユムが地平線を指さして叫んだ。





「ママだよ! ママ! トモミのママ!!」







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