17-04
「陛下! 陛下! どこですか!」
女王を探して屋根のように折り重なる大きな葉をかいくぐり、森の頂上に飛び出す。
とたんに、まぶしい光が目に飛び込んできた。
空にはふたつの太陽が輝き、足もとには、やまぶき色の花畑が一面にひろがった。森の木々の先端には、体をすっぽりと隠すほどの大輪の花が、大陽に向かってひしめき合うように咲いているのだ。
わたしは花から花へ必死になって女王を探した。
するとどこかから、すすり泣くような声が聞こえた。耳をすましてあたりを見渡すと、一輪だけ、なにかを隠すように花びらを閉じている花を見つけた。
わたしはその花に降り立ち、花びらの隙間から、そっと中をのぞき込んだ。
「……ご無事ですか、陛下?」
女王は花びらの中で、抱えたひざに顔をうずめて座っていた。
力なくすぼめた羽根が小さく揺れている。
昔から負けず嫌いだった彼女のことだ。
きっと涙を見せたくなかったのだろう。
「現実の世界から居場所をうばわれた生き物たちから、わたくしたちが目指すべき世界の姿を諭されるなんて……」
そっと顔を上げ、女王がつぶやいた。
「わたくしたちは、自分たちだけで生きていると思っている。この傲慢さゆえ、自分には必要ないと決めつけた者を排除しようとしてしまう。
わたくしたちはみな、自分とは違う誰かと足らない部分を補い合いながら生きているのだから、いずれは自分を苦しめることになるのに……」
泣きはらした目で遠くを見つめる女王。
わたしは女王のそばに座り、そっとその肩を抱きよせた。
「あの時に誓った約束は必ず。リリルの想いは、いつもわたしの心にあるから……」
*
『全宇宙生物図鑑』の世界から出ると、女王がわたしに向き直り、真剣な目つきで言った。
「オラキル。あなたのおかげで、わたしは銀河連合を革新させる覚悟ができました。ですが地球人もやるべきことがあります。十年後、あなたが再び地球に降り立ったとき、地球人は本当に変わっているとお思いですか?」
心の中に、トモミやアユムの笑顔が浮かぶ。
「わたしは信じています。トモミとアユムくらいしか地球人のことを知りませんが、彼らを見れば、信じる気持ちになれます」
「彼らは、まだ子どもです」
「ですから、期待できるのです」
わたしは自信を持って、女王の目をまっすぐに見ながら言った。
「……地球の未来は、あの子どもたちがつくるのですから!」
女王がわたしの目を、じっと見つめ返す。
「……トモミを信じているのですね」
思わず顔をまっ赤にしたわたしに、女王は小さくため息をつくと、窓の外に輝く満面の星々に目をうつして続けた。
「宇宙の時の流れにくらべれば、地球の十年なんて星の瞬きのよう。しかし、待っている者にとっては永くつらいものです。あなたにはわかりましょうか?」
「わたしには地球人の進化を願って、待つしかありませんから……」
女王は再び、はあっとおおげさにため息をついて、肩をすくめてみせた。
「トモミのことです。彼女はあなたの帰りを、きっと待ち続けるでしょう。彼女の存在は、わたしの計算ミスです。あなたは学生のころから、女性には興味がないように見えましたが?」
「そんなことありません。…………叶わぬ想いと、あきらめていただけです」
「なら、どうかあきらめないで。トモミを信じているように……」
そう言って、女王はベールをかぶった。
「親衛隊、中へ!」
ドアが開いて、親衛隊長が部屋に入ってきた。
「邪魔をしました」
女王は、女王らしく威厳に満ちた態度でそう言うと、部屋をあとにした。




