表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の丘の銀の星  作者: ひろみ透夏
第12話 ゆがんだ月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/61

12-03

 

 

「泣いてるの、ハカセ?」



 トモミはハンカチを取り出し、わたしの(ほお)をふいてくれた。



「ごめん。泣きたいのはトモミのほうなのに……」


 ハンカチをしまいながら、トモミが寂しげな笑顔を見せる。


「あぁ……ハカセにもバレちゃったかぁ……。でもわたしは平気だよ。パパが出て行ったとき、いつかこんなふうにバラバラになる予感がしてたんだ。さすがにママにおいてかれたのは、ショックだけど……」



「トモミ、あいつらの正体はただの借金取りだよ。もう二度と来ないよう追い返したから、お父さんもお母さんも、じき帰ってくる」


 しかしトモミは、力なく首を横にふった。


「帰ってこないよ。ママ、この街には、もういられないって言ってたもの。これからどうするかで、いつもパパと喧嘩していたの……。わたしたち、みんなとは違う、よそものだからさ……」


「トモミのなにが違うって言うのさ? みんなと同じ地球人じゃないか」



「違うじゃない!」



 トモミは立ち上がり、地平線の向こうに広がる夜景を指さして叫んだ。



「肌も髪も、瞳の色さえみんなと違う! わたしたち家族が()()()()()()()()()()になるのは許されないのよ! だって、わたしたちは外来生物だもの! いちゃいけない生き物なのよ!」



 草原に響いた声が、わたしの胸につき刺さる。

 いつか話した『外来生物』という言葉が、こんなふうに主旨(しゅし)(たが)えて、トモミの心を傷つけていたなんて――。


「ある日、クラスの男子と喧嘩(けんか)になったとき、おまえはフホウタイザイシャだから自分の国へ帰れ! って言われたの。初めは何のことだか、さっぱりわからなかった。だってわたしは、物心(ものごころ)ついた時からずっとみんなと同じ、この街で育ったんだから……。

 でも、家に帰ってパパとママに話したら、ふたりとも、とっても青ざめちゃって……。それでわかったの。わたしはこの街に、いちゃいけない存在なんだって……。

 次の日からクラスのみんなが、(あわ)れむような目でわたしを見ている気がした。だから、もう誰とも話さないことに決めたんだ。……同情されるのなんて、大っ嫌いだから!!」


 トモミは座り込んで抱えたひざに顔をうずめた。



「パパがひとりで逃げちゃって、わたしにはもうママしかいなかった……。ママだけがわたしの居場所だった。それなのに……ママまでわたしを見捨てて行っちゃうなんて……」



 抱えたひざのあいだから、ぽたぽたと涙が落ちる。

 その涙を見たわたしは、すっかり忘れていたトモミとの出会いを思い出した。


 ぎらぎらと照りつける大陽のもと、鮮やかな緑色の地平線にゆらめく白い人影。

 空を見上げながら、とぼとぼとひとりで歩く女の子。


 見つかってはまずいと小型宇宙船の上で右往左往(うおうさおう)していたわたしに気が付いた女の子は、手のこうで目をごしごしふくと、すごい速さでこちらに走ってくる。


 わたしは突然の出来事に逃げる間もなく、その場で腰を抜かしてしまった。


 真っ白なワンピースのすそを、ひらりとひらめかせて小型宇宙船をかけ上がった少女は、わたしを見おろすなり、こう言った。




「……あんた、だれ?」


「わ、わ、わたしは、ここに住む人間ではない……。ぎ、銀河的に有名な、博士……」


「……別の街から来た……ハカセくん……?」


 どこの誰かもわからないわたしを不思議そうに(なが)めつつも、


「わたしは友美(ともみ)。わたしも別の場所から来たの。よろしくね!」



 (はじ)けるような笑顔で手をさし出してくれたトモミ。

 いま思えば、そのときのトモミの目は、泣きはらしていたような気がする。




 トモミは少しだけ顔を上げて、緑が丘の草原を愛おしそうに見つめた。


「学校のみんなとは、もう絶対に話をしないって決めたけど、本当は大好きなこの街で、いきなりひとりぼっちになった気がして、とっても寂しかったんだ。そんなときは誰もいないこの丘に来て、いつもひとりで泣いていたの……。

 そしたらある日とつぜん、この丘にハカセが現れて、ハカセはわたしの違いを全然気にもしないで、熱心に話を聞いてくれて……。とってもうれしかったよ。わたしのために空から()りてきた、天使みたいに見えた……」


 涙があふれ出して、トモミはまた、抱えたひざに顔をうずめた。



「いいんだよ、思いっきり泣いても。もうぼくに涙をかくさないで」



 するとトモミは、せきを切ったように泣き出した。

 おさない子どものように、大声で――。



 やわらかな月明かりに照らされた草原が、トモミをあやすように静かにゆれる。


 わたしは空を見上げた。




 夜空に輝く満月が、また、ぐにゃりとゆがんで見えた。





★この物語は『特定の思想を読者に押し付ける話』ではありません。

『いつもと違う視点で見る』というテーマが隠されています。


 全く違う物語に思える、トモミとキリル王子のお話。

 このふたりの『境遇の共通点』を見つけながら読んでいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ