12-03
「泣いてるの、ハカセ?」
トモミはハンカチを取り出し、わたしの頬をふいてくれた。
「ごめん。泣きたいのはトモミのほうなのに……」
ハンカチをしまいながら、トモミが寂しげな笑顔を見せる。
「あぁ……ハカセにもバレちゃったかぁ……。でもわたしは平気だよ。パパが出て行ったとき、いつかこんなふうにバラバラになる予感がしてたんだ。さすがにママにおいてかれたのは、ショックだけど……」
「トモミ、あいつらの正体はただの借金取りだよ。もう二度と来ないよう追い返したから、お父さんもお母さんも、じき帰ってくる」
しかしトモミは、力なく首を横にふった。
「帰ってこないよ。ママ、この街には、もういられないって言ってたもの。これからどうするかで、いつもパパと喧嘩していたの……。わたしたち、みんなとは違う、よそものだからさ……」
「トモミのなにが違うって言うのさ? みんなと同じ地球人じゃないか」
「違うじゃない!」
トモミは立ち上がり、地平線の向こうに広がる夜景を指さして叫んだ。
「肌も髪も、瞳の色さえみんなと違う! わたしたち家族がこの街の灯りのひとつになるのは許されないのよ! だって、わたしたちは外来生物だもの! いちゃいけない生き物なのよ!」
草原に響いた声が、わたしの胸につき刺さる。
いつか話した『外来生物』という言葉が、こんなふうに主旨を違えて、トモミの心を傷つけていたなんて――。
「ある日、クラスの男子と喧嘩になったとき、おまえはフホウタイザイシャだから自分の国へ帰れ! って言われたの。初めは何のことだか、さっぱりわからなかった。だってわたしは、物心ついた時からずっとみんなと同じ、この街で育ったんだから……。
でも、家に帰ってパパとママに話したら、ふたりとも、とっても青ざめちゃって……。それでわかったの。わたしはこの街に、いちゃいけない存在なんだって……。
次の日からクラスのみんなが、哀れむような目でわたしを見ている気がした。だから、もう誰とも話さないことに決めたんだ。……同情されるのなんて、大っ嫌いだから!!」
トモミは座り込んで抱えたひざに顔をうずめた。
「パパがひとりで逃げちゃって、わたしにはもうママしかいなかった……。ママだけがわたしの居場所だった。それなのに……ママまでわたしを見捨てて行っちゃうなんて……」
抱えたひざのあいだから、ぽたぽたと涙が落ちる。
その涙を見たわたしは、すっかり忘れていたトモミとの出会いを思い出した。
ぎらぎらと照りつける大陽のもと、鮮やかな緑色の地平線にゆらめく白い人影。
空を見上げながら、とぼとぼとひとりで歩く女の子。
見つかってはまずいと小型宇宙船の上で右往左往していたわたしに気が付いた女の子は、手のこうで目をごしごしふくと、すごい速さでこちらに走ってくる。
わたしは突然の出来事に逃げる間もなく、その場で腰を抜かしてしまった。
真っ白なワンピースのすそを、ひらりとひらめかせて小型宇宙船をかけ上がった少女は、わたしを見おろすなり、こう言った。
「……あんた、だれ?」
「わ、わ、わたしは、ここに住む人間ではない……。ぎ、銀河的に有名な、博士……」
「……別の街から来た……ハカセくん……?」
どこの誰かもわからないわたしを不思議そうに眺めつつも、
「わたしは友美。わたしも別の場所から来たの。よろしくね!」
弾けるような笑顔で手をさし出してくれたトモミ。
いま思えば、そのときのトモミの目は、泣きはらしていたような気がする。
トモミは少しだけ顔を上げて、緑が丘の草原を愛おしそうに見つめた。
「学校のみんなとは、もう絶対に話をしないって決めたけど、本当は大好きなこの街で、いきなりひとりぼっちになった気がして、とっても寂しかったんだ。そんなときは誰もいないこの丘に来て、いつもひとりで泣いていたの……。
そしたらある日とつぜん、この丘にハカセが現れて、ハカセはわたしの違いを全然気にもしないで、熱心に話を聞いてくれて……。とってもうれしかったよ。わたしのために空から降りてきた、天使みたいに見えた……」
涙があふれ出して、トモミはまた、抱えたひざに顔をうずめた。
「いいんだよ、思いっきり泣いても。もうぼくに涙をかくさないで」
するとトモミは、せきを切ったように泣き出した。
おさない子どものように、大声で――。
やわらかな月明かりに照らされた草原が、トモミをあやすように静かにゆれる。
わたしは空を見上げた。
夜空に輝く満月が、また、ぐにゃりとゆがんで見えた。
★この物語は『特定の思想を読者に押し付ける話』ではありません。
『いつもと違う視点で見る』というテーマが隠されています。
全く違う物語に思える、トモミとキリル王子のお話。
このふたりの『境遇の共通点』を見つけながら読んでいただけると幸いです。




