10-06
親衛隊長の号令と同時に、緊張からとかれた会議室が大きなため息に包まれた。
みな深くイスにもたれかかるなか、ジランダ議長だけが大きな体をゆさぶり、わたしに詰め寄ってくる。
「きさまが地球人と親しくしているのは報告済みだ。だが、私情をはさむな! これは銀河全体の命運がかかっているのだ!」
わたしの眉間に指を突きつけながらそう怒鳴ると、どすどすと大きな足音で会議室から出ていった。ほかの貴族院たちも議長の態度にならうように、きびしい視線をわたしに向けながら退室していく。
もし地球人の体にキリ星人のDNAが見つかったら、彼らは間違いなく地球人の駆除を女王に進言するだろう。そうなれば銀河連合議会の裁決を待つまでもなく、地球人への攻撃は決まったも同然だ。
なぜなら、銀河連合議会は民主的な議会とはいえ、女王や貴族院の考えに強く影響されているからだ。
誰もいなくなった会議室で、わたしはひとり天井を見つめ、自分の心に問いかけた。
地球人が外来生物と認定されたら、わたしはどうする?
生物博士として、駆除することに賛成するのか?
トモミやアユムを、見捨てるのか……?
そうだ。
キリル王子の言った通り。
これはわたし自身の問題なのだ。
銀河連合がどうするかではなく、わたしがまず、どうするかの問題なのだ。
*
宇宙船の発着ドックにもどると、細長い足をかさかさと動かしながら隊員が走ってきた。
「博士、アラクネ星の仲間に地球のクモのことを話したんです。地球に我々の祖先が住んでいると知って、みんな大興奮でしたよ!」
隊員は細長い手で、発着ドッグをぐるりと指さした。
いままで気がつかなかったが、発着ドックにはアラクネ星人がたくさんいた。みんな作業をしながらも、ちらちらと、こちらを盗み見ている。
「指令を受けました。博士をまた地球に送ります。さあ、乗ってください」
隊員はわたしをつまみ上げて、小型宇宙船の中へ放り込んだ。そして自分も乗り込み、コクピットのスクリーンに向かいながら管制室とやり取りを始めた。
その背中に、わたしはそっと話しかけた。
「隊員……」
「隊員はやめてください。いまは仲間からクモと呼ばれているんです」
「ではクモ。発着ドックには、アラクネ星人がたくさん働いているんだね」
「我らアラクネ星人は、宇宙一のメカニックです! この細長い手足を駆使して、どんな宇宙船でも修理できますよ!」
クモは細長い手足を、ゆらゆらと得意げに動かしてみせた。
「では、一応聞くんだが……。クモ、きみもメカニックの経験が?」
クモが体を上下させた。アラクネ星人がうなづくときのポーズだ。
わたしの額から一筋、冷たい汗が流れた。
進むべき道は見えていた。
クモのこたえが、わたしの背中を押してくれた。
やはりわたしは、どんな生物だろうと絶滅させられるのを見逃すわけにはいかないのだ。
手続きを終えたクモが小型宇宙船を発進させる。
母船から音もなく飛び出した小型宇宙船は、暗い宇宙空間のなか、ひときわ青く輝く地球へ、吸い込まれるように降下していった。




