11-01 トモミの家
緑が丘に着陸したとき、草原には、むし暑い午後の日ざしが照りつけていた。
わたしはクモを連れて洞窟へ入った。
途中で見かけた地球のクモに大興奮するクモを引っぱって地下の泉まで来ると、洞窟の奥からキリル王子が本物のネコのように走ってきて、わたしの足にすがりついた。
「博士、地球人は無事で済みそうですか?」
「まだ結果は出ていませんが、難しいでしょう……」
わたしの返事に、キリル王子はくずれるように腰を落とし、がっくりとうなだれた。
「ですが王子、まだ終わっていません。彼は有能なメカニックです。もし、最悪の事態になったとしても、できるだけ多くの地球人を銀河系外に脱出させましょう」
うしろにいたクモが「えっ、ぼくのこと?」と、細長い手で自分を指さし、
「なんだかよくわかりませんが、船の修理ならまかせてください!」
と、おなかを見せた。
アラクネ星人が胸を張るときのポーズだ。
キリル王子の顔に、少しだけ明るさがもどる。
「いいのですか、博士?」
わたしはしっかりとうなずいてみせた。
キリル王子に、そして、自分自身に。
地下の神殿でキリ星の攻撃船プロメテスを目にしたクモは、ひどく取り乱してしまった。
わたしは、キリ星人と地球人との関係。
銀河連合が地球人を攻撃するかもしれないこと。
そして、わたしとキリル王子が実行しようとしている計画を説明した。
「そんなことをしたら、博士は反逆罪で死ぬまで牢獄暮らしです! せっかく築いた地位もおしまいです! 一生後悔しますよ!」
「ああ、後悔するだろう。しかし、目の前で絶滅させられようとしている生物を見殺しにしたら、それこそ生物博士として一生後悔だ。どうせ後悔するなら、信念をつらぬいて後悔するよ」
「博士はバカです! なぜ関係ない者のために、そこまでするのですか!」
クモが体をぶんぶんと振りながら怒鳴った。
「関係なくはないんだ。一度出会ってしまったら、もう充分に関係がある。わたしの心の中には、これからもずっと、彼らが居続けるのだから……」
クモはなおも信じられないというように、体をぶんぶんと振りまわした。
「キリ星人の子孫ですよ? 悪魔の一族ですよ!」
「はじめから地球人とキリ星人の関係を知っていれば、こんな事しなかったかも知れない……。でも、何も知らずに彼らと出会えてよかった。愚かなわたしでも、そんな色眼鏡をかけずにすんだからね。
彼らはとつぜん現れたわたしを、なんの疑いもなく受入れてくれた。友だちになってくれたんだよ」
あいかわらずクモの表情はわかりずらかったが、悲しいような、情けないような目でわたしを見ていた。
やがて、何も言わずに細長い手足で巨大なプロメテスの船体によじのぼると、故障の状態を調べ始めた。
「ありがとう……」
クモの背中にそっとつぶやき、わたしは神殿をあとにした。
*
洞窟から出ると、空はすっかりこがね色に染まっていた。
夕日を反射して、まぶしいほど金色に輝く小型宇宙船の上にアユムがいる。
アユムはわたしを見つけるなり、船体から転がり落ちながらも一目散に走ってきた。
「アユムごめん、昨日はもどるのが遅くなっちゃって。あの洞窟に龍の玉は……」
「そんなことよりハカセ、大変なんだぁ!」




