09-02
小型宇宙船が、わたしの目の前に音もなく着陸し扉を開ける。
中から黒く細長い棒が何本も折れ曲がりながら出てきたかと思うと、最後にバスケットボールほどの黒く丸い物体が出てきて、わたしの頭上高く移動して止まった。
細長い棒に見えたのは、その丸い物体からのびていた足だった。
左右で四本づつ、二メートルほどの長さの足が、なかほどでかくんと折れ曲がり、黒く丸い物体が、わたしの目の前に降りてくる。
その物体には八つの赤いビー玉のような目がついていた。その目は、じっとわたしをとらえていたが、まったく表情がなく、何を考えているかわからない目だった。
「隊長……いえ博士。お待たせしました。お迎えです」
不気味な姿からは想像もできない、甲高くて、かわいらしい声だった。しかも聞き覚えがある。
「きみはもしや、あのときの隊員か?」
「そうです博士。あのときはわたしのバイオロイドが脳波受信障害を起こしてしまい、大変失礼しました。今度はそんなことがないよう、生身の体でまいりました」
わたしは、ふんっと鼻を鳴らした。
「受信障害だって? いくらわたしが機械にうといからといって、そんな話を信用すると思うのか? 銀河連合はわざとこの場所へ、わたしを不時着させたのではないかね?」
隊員は八つの赤い目をぱちぱちとまばたきさせると、
「ととと、とんでもない! 小型宇宙船がとっさに見つけたのが、この人気のまったくない草原だった……。それだけです!」
そう言って、いぶかしげに睨むわたしから、八つの目をついっとそらした。
「……きみたちは、ずっとわたしを見張っていたね?」
「当然です! 博士の身の安全を確保するため、つねに監視しておりました!」
隊員は細長い足の一本をかくんと折り曲げ、丸い体の前にかざした。
どうやら、敬礼をしているつもりらしい。
「なら、なぜ早く迎えが来なかったのだ?」
「銀河連合貴族院の判断です。博士の身体に異常がないと報告すると、そのまま外来生物の調査を続行させるよう言い渡されたのです」
「そうか、貴族院か……」
わたしはすべてを理解した。
貴族院とは、実際に銀河連合を動かしている中心メンバー。そしておそらく、この黒い計画の黒幕だ。なぜならキリ星人と貴族院には深い因縁がある。
「そ、そうだ博士!」
いきなり隊員が、おおげさに叫んだ。
「みんな不思議がっていたんです。なぜ博士は昼も夜も、雨が降っても、小型宇宙船の中に入らなかったのですか?」
話をそらしたいのが、みえみえの質問だったが、その件に関してはわたしもひと言、文句を言わずにはいられなかった。
「入らなかったんじゃない、入れなかったんだ! こいつはわたしを吐き出して、勝手に地中に埋まったのだからな!」
それを聞いて、隊員は黒い体をゆらゆらと左右にゆらした。
どうやら、笑っているらしい。
バイオロイドではないときでも、あいかわらず隊員の感情はわかりずらい。
「起動!」
隊員はおもむろに細長い足を一本のばし、地中に半分埋まったわたしの小型宇宙船にふれながらそう言った。
すると宇宙船は、コマのように回転しながら地上へ浮上し、船体の下部についてる出入り口の扉を開けた。
「やっぱり博士はとんでもない機械オンチですね。この小型宇宙船は着陸すると、自衛のため自動的に地中に潜って船体を隠すのです」
さらに細長い足をもう一本、今度はうしろにのばして指さした。隊員が乗って来た小型宇宙船も、いつのまにか地中に半分埋まっていた。
「地下に空洞でも感知したのでしょう。本来なら船体すべてが地中に潜るはずなのですが……。それより急いでください。貴族院がお待ちです」
隊員は自分が乗って来た小型宇宙船を起動させると、細長い手足でわたしをつまみ上げ、船の中に放り込んだ。
「わたしの宇宙船はここに置いたままにしてくれ! ここへはまたもどってくる!」
隊員は返事もせずにコクピットに乗り込むと、四方八方に細長い手足をのばして小型宇宙船を発進させた。
振り返れば、背面のスクリーンに風に渦巻く草原と、銀色に輝くわたしの小型宇宙船が映っている。宇宙船は再び回転を始め、船体の半分を地中に隠していた。
その姿を見つめながら、わたしは心に誓った。
必ずもどってくる。
トモミが『緑の丘の銀の星』と名付けた、この場所へ――。




