17. お母さんのお墓参り
次の神殿教室の日。分かっていることだったけど、やっぱりアデルがいなくて、寂しいなと思った。向こうのテーブルも、4人が3人に減ったから、ちょっと寂しい感じがする。
こっちのテーブルは、アレクが文字を習い終わって、もう単語の練習をしているし、カイもあと少し。わたしとハルトとコニーは、たぶん今月中には終わりそうかな?
そんな感じの進み具合だったんだけど、今日は文字の練習じゃなくて、ソーニャ先生が絵本を読んでくれた。神様のお話だったんだけど、すっごく面白かったんだよ。
この世界には5人の神様がいるんだけど、この世界をつくろうとしたのは、その神様たちのお母さんなんだって。神殿には5つの神様の像があるけど、母神様の像はないから、初めて知ったんだけどね。
母神様のために、動き出したのは4人の神様たち。初めに降り立ったのは1番上の水の男神様。次に好奇心旺盛な3番目の風の女神様。続いて、やんちゃな4番目の火の男神様、おっとりした2番目の土の女神様。これで全員揃ったと思ったのに、お留守番のはずだった幼い空の女神様まで、やってきちゃったんだって。
地上に集まった神様たちは、それぞれが島をつくることにしたんだけど、まだ幼い空の女神様がつくった島を守るように、水の男神様が北に、風の女神様が東に、火の男神様が南に、土の女神様が西に。そうやってできあがった島が、それぞれの国になっていったんだって。
島ができあがったら、そこに人や動物、植物とか、すべての生き物が生きていけるように、神様たちが守護することになったんだって。それで、地上に降り立った順番通りに、水・風・火・土の神様の守護で、冬・春・夏・秋の季節ができたみたい。
空の女神様はというと、冬から秋の季節が過ぎていったあとの、5日間だけを守護しているんだって。その間は、空の女神様の成長を喜ぶように、ほかの神様たちが集まってお祝いするらしいんだよ。
だから星の季節は、結びとして結婚したり、収穫のお祭りをしたり、お祝いごとをする人が多いんだって。これは、ソーニャ先生が言ってたんだけどね。
絵本は棚に置いてあるから、自由に読んでいいみたい。でも、まだ単語を習ってないから、読めないんだけどね。誕生日にもらった絵本もあるし、お勉強を頑張らないとね。
⊹ ⊹ ⊹
それから春がきて、少しずつ暖かくなってきた。でも、そのおかげで、お気に入りのケープの出番が少ないんだよね。ぽかぽか陽気は嬉しいんだけど、それはちょっと残念なところ。
そしてエラは、今月で神殿教室をやめることになった。それからバルドも。アデルがいなくなっただけでも寂しかったのに、お兄さんお姉さん的存在の2人までいなくなっちゃうなんて。
寂しいけど、お別れの折り鶴を作らないとね。エラの分だけじゃなくて、バルドの分も。エラのは緑色にするつもりなんだけど、バルドのは何色にしようかな? またハルトと相談しなきゃ。
それで今日はね、お母さんのお墓参りに行くんだよ。だから、朝早くから出かける用意をしてるの。お父さんもね。
「レティ、用意はできたかい?」
「うん。ちゃんと着替えて、かばんも持ったよ」
「そっか。じゃあ、お昼ごはんのバスケットは、収納かばんに入れてっと」
今日のお昼ごはんは、お母さんのお墓の近くで食べるんだ。朝起きて窓から外を見たら、すっごくきれいな青空だったからね。今日はお母さんに会いに行けるし、これから馬車にも乗るし、お昼はピクニックだし、ワクワクがいっぱいだね。
「よし。そろそろ出ようか」
「うん、しゅっぱーつ!」
まずは、角のお花屋さんに行って、お花を買うんだよ。この前とっても親切にしてもらったから、お父さんがそうしようって。お花を長持ちさせるために、切り口に巻く布も持ってきたしね。
神殿教室に通って歩き慣れた道を、お父さんと手を繋いで歩く。前世の記憶によると、そのうち手を繋ぐことも少なくなっていくみたいだから、今のうちにいっぱい繋ぐんだ。へへっ。
しばらく歩いて、角のお花屋さんに到着。ちょっと早めの時間だけど、扉を開けて中に入る。すると、カウンターにアメリさんがいた。
「いらっしゃいませ。……あら、レティちゃんね」
「アメリさん、おはようございます!」
「おはようございます。僕はレティの父です。先日は娘がお世話になったようで、ありがとうございました」
「いえいえ。優しいお子さんたちで、心が温かくなりました」
「また相談に伺うと聞いていますが、どうぞよろしくお願いします」
「はい、承りました。ふふっ」
アメリさんとお父さんが挨拶をしている横で、わたしは飾られているお花を見てみる。わたしはあんまり覚えてないんだけど、お母さんは白いお花が好きだったらしいからね。白くて可愛いお花があったらいいなと思うんだよね。
「今日のご用件はそれで?」
「いえ。今日はこれから妻のお墓参りに行くので、そのお花を買いに」
「そうなんですね。どんなお花にするか決めていらっしゃいます?」
「白いお花を中心にして、花束を作ってもらいたいのですが……」
「お父さん、このお花はどう?」
さっき目をつけた白いお花があったから、指をさして提案してみる。小ぶりなお花が可愛いと思ったんだよね。
「レティが選んだなら、それにしようか」
「うん!」
「これですね。あとは、お任せでよろしいかしら」
「えぇ、お願いします」
メインのお花を伝えたら、あとはアメリさんがほかのお花も選んで、ぱぱっと纏めながら花束にしていく。慣れた手つきもすごいし、素早くできあがっていくのも面白くて、じっと見続けちゃった。
そうして、春らしい色合いのお花たちが、みんなで集まって仲良くしてるみたいな、可愛らしい花束ができあがった。
「こちらでどうでしょう?」
「春らしくていいですね。ありがとうございます」
「すっごく可愛い! アメリさん、ありがとう!」
「ふふっ。どういたしまして。レティちゃんにも喜んでもらえてよかったわ」
お会計をしたら、お父さんが収納かばんから布を取り出した。お花の切り口を、濡らした布で包んでおくんだよ。お墓に着くまで、ちょっとでもお花を長持ちさせたいからね。
「布を巻いていくんですね。こちらで濡らしましょうか?」
「いいんですか? ありがとうございます。お願いします」
アメリさんが、後ろの台で布を程よく濡らしてくれる。布を受け取ったお父さんは、布を巻いてから、花束を収納かばんに入れた。これで大丈夫だね。
「素敵な花束を、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「アメリさん、ありがとう! それから、近いうちにまた相談にくるので、よろしくお願いします」
わたしがぺこっと頭を下げると、アメリさんは笑って了承してくれた。近いうちに、またハルトと一緒に来なきゃね。
挨拶をしてお店を出ると、すぐに大通りだ。大通り沿いに乗り合い馬車の乗り場があるから、そこまでまたお父さんと手を繋いで歩く。
何度も通ってるから、きょろきょろしないけど、やっぱり大通りは楽しいね。たくさんの人が歩いてるし、建物は大きいし、馬車のお馬さんも大きいし。見るものがいっぱいだよ。
「あ、あそこだね」
お父さんが、指をさしながら教えてくれた。そこには、小さな看板がついた木の柱が立っている。ここから見ると、2人くらい馬車を待っているみたい。発車までは少し時間があるから、まだ増えるかもしれないけどね。
馬車乗り場に着くと、おばあさんとおじさんが立っていた。親子なのか、おじさんが2人分の荷物を持って、おばあさんを支えている。
しばらく待っていると馬車が来たので、先の2人連れに続いて乗り込む。中には1人座っていて、ここから乗るのは4人だけみたい。10人くらいは座れそうだから、まだ余裕があるね。
乗り込む前に、お父さんが降り場を伝えてお金を渡してたから、乗ってるだけでいいんだよ。でも、座ってるのが木の板だから、降りるときはお尻が痛くなるんだよね。だから、お父さんにお願いして、お尻の下に膝掛けを敷いてもらってるんだ。これでちょっとはラクかな?
大通りを進んでいる間は、あんまり景色が変わらなかったけど、馬車に乗ってるのが楽しくて、ずっと外を見ていた。
でも途中から景色が変わってくると、普段見ることのない建物や家の雰囲気にワクワクしたりして、やっぱり外に目が向いちゃってたんだよね。だから、ずーっと外ばっかり見てた気がする。
でも、馬車って不思議だよね。だって、知らない人たちが同じ馬車に乗ってるんだよ。乗る場所も、降りる場所だって違うのに。そう思ったら、乗り場に止まる度に、どんな人が乗ってくるんだろうってワクワクしてたんだ。
そうして、お家や建物の間が広くなってきた頃に、目的地の降り場に着いた。
ここで降りるのは、お父さんとわたしの2人だけで、乗るときに一緒だった、おばあさんとおじさんはまだ乗っていくみたい。この先は行ったことがないんだけど、どんなところなんだろうね。いつか行ってみたいな。
馬車から降りたら、お墓に向かって歩く。馬車の通り道をしばらく進んだら、お家が少なくなってきて、お墓に続く小道が見えてきた。
目に映るのは木や草の緑で、その中にいろんな色のお花も見える。足もとにも小さなお花が咲いているから、歩くだけでも楽しかったんだよ。
お墓に着く頃には、お日さまも高くなっていた。だから、ちょっとお腹が空いた気がしたんだけど、お母さんに挨拶してからだもんね。ちょっと我慢だ。
まずは、お墓のまわりの草を抜いていく。前に来たときも抜いたんだけど、1年ぶりで、すごく大きくなってるからね。
お父さんはというと、魔法でお水を出しながらお墓の掃除をしている。今まで気づいてなかったけど、ここでも魔法を使ってたんだね。なんで今まで気づかなかったんだろう? 草ばっかり見てたのかな。
お墓がきれいになったら、お父さんが収納かばんからお花を出して、お墓の前にそっと置く。お水に濡らした布で包んでたから、お花も元気だった。これならきっと、お母さんも嬉しいと思ってくれるよね。
お父さんと並んで、心の中でお母さんに挨拶する。それから、7歳になって神殿教室に通い始めたんだよってお話した。何人もお友だちができたこと、文字を習うのが楽しいこと、そしてアデルがやめて寂しくなったこと。あ、お父さんと一緒に “あったか石” を作ったことも忘れてないよ。
あとは、お父さんには内緒だけど、ハルトとアレクと一緒に魔法を練習していることもお話する。
――魔法の学校に通うことができますように。
お母さんが見守ってくれるかなって思って、そうお祈りした。10歳の洗礼式まで、できるだけ魔法の練習をするからね。見ててね、お母さん。




