16. 角のお花屋さん
次の日、約束通りにハルトが遊びに来た。お父さんは作業場にいるから、わたしが出迎える。
「レティちゃん、来たよー! おはよう」
「おはよう! いらっしゃーい」
テーブルまで案内して、横に並んで座った。テーブルの上には、薄い黄色の紙と、普通の紙を並べてある。
昨日持っていってた折り鶴を元に戻しておいたから、それを使って説明していく。何枚も使うともったいないからね。
「これ、昨日の鳥を広げたものだから、ちょっとぐちゃぐちゃだけど気にしないでね。じゃあ、わたしが折ってみるね。まずは、こっちとこっちを揃えてから半分に折って――」
順番に説明しながら、一度折って見せると、ハルトは感心したように、じっくり見ている。
「ただ折ってるだけなのに、鳥になるなんて面白いね!」
「でしょ。折る順番とか、どう折るかっていうのが大事なんだけどね」
「うんうん。そしたら、僕も折ってみたい。一応、紙を持ってきてみたんだけど、これで作れる?」
ハルトが持ってきたのは、薄くない普通の厚さの紙だった。でも、練習するだけなら問題なさそう。
「うん。それを練習用にして、本番は黄色の紙で折ればいいと思うよ」
「なるほど。たしかに、今見ただけじゃよく分からなかったもんね。うん、練習する」
「そしたら、まずはきっちりとした四角の紙にするんだけど、こことここを合わせて斜めに折ったら、こっちの余分なところを切るんだよ」
普通の紙は長方形だから、まずは正方形にする。折り鶴も、最初は斜めに折るからね。これでもいいよね。
「できたね。そしたら、わたしが折るのを真似して、ハルトも折ってみてね」
「うん、やってみる」
わたしが1回折ったらハルトも折って、説明しながらまた折って……そうやって繰り返しながら、ハルトの折り鶴も完成した。ちょっと不格好だけど、ちゃんと鶴に見える。
「わぁ、僕も作れたよ!」
「うんうん。ちゃんと折れたね! 折り方を覚えたら、簡単に折れるようになるよ」
「そうだね。もっと上手に折れるようになりたいし、練習してみる」
そうして、ハルトは折った鶴を広げては、何度も折り直している。ハルトってば、すっごく一生懸命に黙々と折ってるんだよね。だから、わたしは横で見ているだけになっちゃった。
何度も何度も折る練習をして、ちょっと自信がついたのか、今度は黄色の紙で折ってみるみたい。きれいに仕上げたいから、ものすごく丁寧に折っている。
「できた!」
「やったね!」
わたしが、パチパチ手を叩いていると、ハルトも嬉しそうに笑う。ちょっと緊張してたのか、ふぅっと息を吐いている。
「今作ってみて、ちょっと思ったんだけどね。こうやって紙を折って何かの形を作るなんて、そんなの考えたこともなかったけど、これならほかの形も作れそうだよね」
「うん、作れると思う!」
「僕、いろいろ試してみようかな」
「何かできたら、わたしにも見せてね!」
「もちろん!」
そのあとは、念のために、羽を広げるところも教えてあげた。ここで広げずに、家でやったほうがいいからね。
今日の目的は達成できたから、お茶を入れて、ちょっと休憩する。お父さんが、少しだけどお菓子を置いておいてくれたから、それも一緒に食べながらね。
「そういえば、昨日のお別れ会のあとに、エラにお礼を言いに行ってたんだけどね。エラも、もうそろそろ教室をやめるんだって」
「そっか。エラも長く通ってるみたいだもんね」
「うん。寂しくなるけど、しょうがないよね。エラにも鳥を作ろうと思うんだけど、何色がいいんだろう?」
「そうだなぁ。アデルの色はどうやって決めたの?」
「アデルは髪色に合わせて、オレンジ色のお花を使ったんだよ。染めたら、薄い黄色になっちゃったけどね。でも、アデルは目の色が黄色だから、それもいいかなと思って、そのまま使ったの」
「それなら、エラは黒い髪に緑の目だから……緑かな? 黒の鳥より緑のほうが、エラの雰囲気にも合ってるしね」
「そうだね。そしたら、緑の草で染められるかな」
「色は合ってそうだよね」
「でも、どんな草を使えばいいんだろう? 今回はエラに相談せずに作りたいんだけどな」
「うーん。それなら、角のお花屋さんで聞いてみるとか?」
「角のお花屋さん? わたし行ったことないかも」
「僕もだけど、とりあえず行ってみて、聞けなかったらまた考えればいいんじゃない?」
「そうだね。行ってみないと分からないもんね」
「じゃあ、今から行ってみる?」
「うん、行こー!」
エラがいつやめるかは分からないけど、準備はしておいたほうがいいもんね。お父さんに、お花屋さんに行ってくるって声をかけたら出発だ。
「角のお花屋さんって、いつも前は通ってるけど、入ったことないから、ちょっと緊張するね」
「普段はお花を買うことなんてないもんね。でも、今後も紙の鳥を作るんなら、お花を買うこともあるかもしれないよね」
「たしかに。今回のアデルの分は、エラがお花をくれたから、お金がかからなかったけど、次からは自分で用意しないといけないもんね」
「そうだね。できれば、庭に生えてるのが使えればいいんだけど」
「お花っていくらくらいするんだろう? あんまり高いと買えないよね」
「そうだね。お花を買うなら、お手伝いを頑張って、お小遣いをもらうしかないね」
「うん、紙も買わないといけないしね。今回はお父さんに買ってもらったけど、毎回買ってもらうのもよくない気がするもん」
「じゃあさ、僕と一緒に作るっていうのはどう? そしたら、2人で半分こできるよ」
「いいの?」
「もちろん。レティちゃんがアデルにあげてるのを見て、僕もみんなに何かあげたいって思ったんだ。それに、作るのも楽しかったしね」
「そっか。うん、それなら2人で作ろう! 染めるのも面白かったんだよ」
「それは楽しみだね」
やっぱりハルトと一緒だと、なんだか楽しいことが増えるね。ひとりでも楽しかったけど、2人ならもっと楽しいもん。今度からの折り鶴作りも楽しみだな。
そんなことを話していたら、あっという間にお花屋さんに着いた。扉を開けてお店に入ると、いろんな色のお花がたくさん置いてあった。
わたしがお花に目を奪われていると、カウンターにいた女の人が声をかけてきた。たぶん、お父さんと同じくらいの歳な気がする。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
挨拶をして、ハルトと一緒に固まってしまう。勢いでここまで来ちゃったけど、2人とも何て言うか考えてなかったもんね。すると、お店の人がまた声をかけてきて、それにハルトが答えてくれた。
「どんなお花を買いに来たの?」
「えっと、お花を買いに来たんじゃなくて、聞きたいことがあって……」
「そうなの? どんなことかしら」
「実は僕たち、友だちのプレゼント用に、草やお花で紙を染めようと思ってて。でも、どんなのを使えばいいのか分からなかったから、聞きに来たんです。お花を買うお客さんじゃなくて、すみません」
「あら、いいのよ。お友だちのためだなんて、優しい子たちね。それじゃあ、何色に染めたいの?」
今度は、わたしが答える。
「今回は緑色なんですけど、今後は別の色にするかもしれなくて。できれば、お庭に生えてるものが使えないかなと思ってるんですけど……」
「そうねぇ。毒性のあるものじゃなければ、大丈夫なんだけど、そう言っても分からないわよね」
それは見ただけじゃ、分からないよね。どうしたらいいんだろう。ハルトを見てみたけど、ハルトも分からなさそう。
「そうだわ。売れ残って捨てないといけないものって、わりとあるの。それならあげられるわよ。毎日必ず出るってわけではないから、お花は選べないけどね。それに、渡せるものがあるかは、来てもらってからになるんだけど……それでよければ、どう?」
「えっ、いいんですか? わたしたちは嬉しいんですけど……その、そんなにお金がないので」
「ふふっ。捨てるものだからいいのよ。でも、そうね。そのうちに、お花を買いに来てくれると嬉しいわ」
「あ、ありがとうございます。自分のお金ができたら、絶対に買いに来ますね!」
「よろしくね。それじゃあ、必要なときがあれば、2と真ん中の鐘くらいまでに来てね。それより後だと、捨てちゃうから」
「分かりました。ありがとうございます!」
「ありがとうございます。僕も、自分のお金ができたら、買いに来ます!」
「わたしはアメリって言うの。2人は?」
「レティです」
「ハルトです」
「レティとハルトね。お友だちも喜んでくれるといいわね」
アメリさんは、にこやかに笑って言ってくれた。エラも捨てるからってお花をくれたけど、ここでももらえるなんて思いもしなかったな。お金がないから、本当にありがたいよね。
わたしたちは、もう一度お礼を言ってお店を出た。ちょっとだけ歩いたら、立ち止まって2人で顔を見合わせる。
「ちょっと聞きに来たつもりだったのに、お花をもらえることになっちゃったね」
「ね、本当にびっくりだよね」
「きっと、ハルトが上手に説明してくれたおかげだね」
「そんなことないよ。アメリさんが親切だったおかげだよ」
「もちろんそうだけど、わたし1人じゃ上手く説明できなかったと思うもん。ありがとう、ハルト」
「ふふっ。レティちゃん、固まってたもんね」
「えー! ハルトだって最初は固まってたし」
その場面を思い出して、2人とも思わず吹き出した。大人の人と話すのなんて慣れてないから、仕方ないもんね。
「もうそろそろ、お昼ごはんだね。ハルトはこのまま帰る?」
「うん、そうする。今日は、紙の鳥を一緒に作ってくれて、ありがとう。これから、みんなの分を作るのも楽しみになったし」
「ね! どんな色にするかとか、染めたりするのも楽しみだよね」
そんな話をしながら、来た道を戻っていく。うちの前に着いたら、ハルトとお別れだ。
「じゃあね。今日はお花屋さんに付き合ってくれて、ありがとね」
「こちらこそ。また次の神殿教室でね」
家に入ると、お父さんがお昼ごはんの用意をしていた。
「おかえり。お花屋に行ってくるって言ってたけど、お花を買いに行ったのかい?」
「ううん。草とかお花で紙を染める相談に行ってきたの」
「え? お花屋さんって知り合いじゃなかったよね」
「うん。でもね、ちゃんと相談に乗ってくれたよ。しかも、必要なときがあれば、お店で売れ残ったものをあげるって言ってくれたんだ」
「えぇっ。それはすごいね。でもいいのかな」
「わたしもそう思って聞いたらね。捨てるものだからいいんだって。だから、自分のお金ができたら、お花を買いに行くって約束したの」
「そうなのか。それじゃあ今度、お母さんのお墓参りに行くときに、そこでお花を買って行こうか」
「うん! ありがとう、お父さん」
お母さんが亡くなったのは春だったから、もうすぐお墓参りなんだよね。お墓はちょっと離れたところにあるから、馬車に乗って行くんだよ。
晴れてたら、お弁当を持って行って、お母さんのお墓の近くで食べるんだけど、今年は晴れるかな? ――晴れてくれるといいな。




