15. はじめてのお別れ
あれから、アレクもちゃんと練習してたらしくて、ライトの回数も増えたみたい。それが嬉しかったのか、それとも、わたしたちを仲間だと思ってくれたのか……何でかは分からないんだけど、アレクから話しかけられることも少し増えたんだよ。
もともと口数が少ないから、そんなにたくさんは話さないけど、こうやって打ち解けられたのは、すっごく嬉しいんだ。
そして今日は、今月最後の神殿教室。だから、アデルに会えるのもこれが最後になるんだ。寒さが和らいできたのは嬉しいけど、今日になるのが早すぎるよ。
アデルから今月でやめるって聞いたときは、ただ寂しいなって思っただけなんだけどね。しばらく経ってから、何かプレゼントできないかなぁって思ったんだ。そしたら、ふと前世の記憶が出てきたんだよね。それが、わたしでも作れそうなものだったから、これだ!って思って作ってみたんだよ。
それを作るためには紙が必要だったから、お父さんと文具屋さんに行って来たんだよ。
文具屋のおばあさんは、相変わらずちょっと気難しそうな顔をしてたけど、前のときに飴をくれたからね。普通に挨拶もできたし、紙を選ぶのも手伝ってもらったんだよ。おかげで、作りやすそうな紙が買えて助かっちゃった。
本当は、色のついた紙が欲しかったんだけど、それはなかったんだよね。そしたら、おばあさんが染めてみたら?って言ってくれたから、自分で染めてみたんだ。お父さんにも相談したら、草とかお花で染めれると思うって。
でも、どんなのがいいか分からなかったから、お家がお花屋さんのエラに相談してみたんだ。そしたら、お花のことだけじゃなくて、染め方も相談に乗ってくれたんだよ。
そしたら、アデルの髪色に合わせてオレンジ色のお花がいいんじゃない?って言ってくれてね。合いそうなお花をエラが選んで、教室に持ってきてくれたんだよ。しかも、ちょっと萎れてても使えるからって、売れ残ってたのをくれたの。優しいよね。エラが教室をやめるときも、絶対に何かプレゼントしないとね。
紙を染めるのは、もらったオレンジ色のお花をお湯で煮出して、紙を浸しただけなんだけど、うっすら染まったんだよ。オレンジ色っていうより、黄色っぽいんだけど、アデルの目が黄色だから、これはこれでよかったよね。ちょっとムラはあるけど、それも可愛いってことにして、わたしは満足してるんだ。
それでね、何を作ったかっていうとね。薄い黄色の紙で、折り鶴を折ってみたんだよ。最初はきちんと折れるか分からなかったから、染めてない紙で何度も練習してね。だって、記憶が浮かんできても、折るのは初めてだったからね。
紙は余分に染めてあったから、一番きれいな紙を選んだし、ちゃんと鶴の形に折れたんだよ。染めた紙を折るのは、ちょっと緊張したけどね。でも、できあがりはいい感じだと思うんだ。
お父さんに見せたら、「これはすごいね!」って言ってくれたから、きっとアデルも喜んでくれるはず。でも、どんな反応なのかはドキドキするけどね。
⊹ ⊹ ⊹
今日もハルトと一緒に、神殿までの道を歩く。もうすぐ春だから、朝はちょっと寒いけど、だいぶ暖かくなってきた。もうコートは必要ないから、今は赤色のケープを羽織ってるんだ。これ、お気に入りなんだよね。ふふっ。
でも、アデルがいなくなるんだって思ったら、そんな気分もどこかにいってしまって、胸のあたりがぎゅっとなる。
「とうとう、アデルが来るのも最後になっちゃったね」
「うん、寂しくなるね。そういえば、レティちゃんはプレゼントをあげるんだよね。どんなのにしたの?」
いつもハルトには何でも話してるからね。アデルにプレゼントを渡すことも、もちろん話してたんだ。でも、何を渡すかは内緒にしてたんだけどね。
「ふふふ。こんなの」
実は、折り鶴をかばんに入れると、ぐちゃぐちゃになりそうだったから、布に包んで持って来たんだけどね。そうすると、鶴の羽を広げられないから、もう1つ普通の紙で作った折り鶴を持って来たんだ。家でこうやって広げてねって説明するためにね。ハルトには、そっちの折り鶴を見せてあげた。
「わぁ、これなに? 紙?」
「そう。紙で作った鳥なんだけど、ここをちょっと引っ張るとね、羽が広がるんだよ」
形が崩れすぎないように、ちょっとだけ羽を引っ張って見せる。
「ほんとだ! あ、こっちが頭で、こっちが尾のほうなんだね。すごいね!」
「でしょでしょ! この紙もね、アデルにプレゼントするほうは、自分で染めたんだよ」
「えー自分で染めたの!? すごいすごい!」
「ふふん。使うお花とか染め方は、エラに教えてもらったんだけどね。うっすらと黄色っぽくなったの」
「あぁ、そういえば、2人でこっそり話してたときあったよね。なるほど、これを話してたんだね」
「そうなの。お花もね、エラがお店の残りものだって言って、くれたんだよ」
「そうなの? エラも優しいね」
「うん! アデルもエラも、優しいお姉ちゃんだよね」
「うんうん」
そういえば、どのタイミングで渡すか迷ってるんだよね。ハルトに相談してみようっと。
「これね、いつ渡すのがいいと思う?」
「うーん。始まる前より、終わってからのほうがいいと思うんだけどね。でもきっと、みんなお別れの挨拶で集まるよね。そうなると、こっそり渡すのは無理な気がするね」
「たしかに。そしたら、みんなの前で渡すことになるけど、いいのかな?」
「それはいいと思うけど、みんなも欲しがりそうだよね。僕だって、いいなぁって思ったもん」
「ハルトも欲しいの? それなら、予備の紙が1枚あるから、薄い黄色のでよかったら作れるよ」
「え、いいの? レティちゃんがいいなら、僕も欲しいな」
「もちろんいいよ! ハルトにはいつも助けてもらってるからね」
「わぁ、ありがとう!」
「次の教室までに作って持って来てもいいんだけど……あ、よかったら作ってるとこ見る? 何ならハルトも一緒に作ってもいいし」
「えっ! いいの? それなら、僕も作ってみたい!」
「じゃあ、決まりね! 明日の午前中にでも、うちに来る?」
「うん、そうする。レティちゃん、ありがとう!」
「ふふっ。どういたしまして」
ハルトが本当に嬉しそうにしてるから、わたしまで嬉しくなっちゃうな。って、そういえば、渡すときの話をしてたんだった。
「えっと、話が逸れちゃってたけど、もしみんなも欲しがるとしたら、みんなが教室をやめるときにも渡すっていうのはどう?」
「思いっきり逸れちゃってたね。ごめん。でも、みんなに渡すって大変じゃない? 大丈夫?」
「うん。みんな一気にやめるんじゃないから、それは大丈夫。……実はね、紙を染めたりするのも、折るのも楽しかったんだよね」
「そうなんだ。なんだかレティちゃんらしいね」
「そうかな? ふふっ。そしたら、みんなが欲しそうだったら、みんなのときも渡すねって言えばいいね」
「うん、いいと思う」
「よーし! それじゃあ、今日もはりきって行こー!」
ハルトと笑い合っていると、すぐ神殿に着いた。今日も、礼拝をしてから教室に向かう。いつも通り、もうアデルたちがいたから、挨拶しながら席に座った。
「アデルは今日が最後なんだよね?」
「そうよ。レティったら、先週も確認してたじゃない」
「だって、寂しくなるんだもん」
「ふふっ。そんなに寂しがってくれるなんてね。なんだか嬉しいわ」
「もう、 笑いごとじゃないんだからね!」
わたしとアデルのやり取りを見て、みんなが笑う。少ししたら、ほかの子たちやソーニャ先生も入ってきた。
今日も、前に習った文字の復習をしてから、新しい文字を練習する。文字だけなら、来月には終わりそうかも。そしたら、ちょっとずつ単語を教えてもらえるんだよね。楽しみだな。
そうして、終わり頃にソーニャ先生が声をかけてくれた。
「はい。今日はこれでお終いね。みんなも知ってるみたいだけど、今日でアデルは最後です。だから、ちょっとだけお別れ会をしましょう」
それから、ソーニャ先生がお茶を入れてくれた。机をくっつけて、大きなテーブルにしたら、みんなでお茶を飲み始める。わたしは席に着く前に、棚に置いてあるかばんから、こっそり折り鶴を取り出してきた。
お茶を飲みながら、みんなが思い思いに、お別れの言葉をかけていく。わたしはタイミングを見ながら、折り鶴を出した。
「これ、アデルのために作ったの」
布から出して、薄い黄色の折り鶴を渡す。それから、説明用の折り鶴を出して、そっと羽を広げて見せた。
「わぁ、これなに?」
「これはね、紙で作った鳥なんだけどね。こうやって羽を引っ張って、羽を広げるの」
「こんなの初めて見たわ! この紙も可愛いし、きれいな鳥ね。ありがとう」
「喜んでもらえてよかったぁ。それでね、羽を広げちゃうと持って帰るときに、かばんの中でぐちゃぐちゃになっちゃうと思うからね。このまま持って帰って、お家で広げてみてね」
「たしかにね。うん、家に帰ったら広げてみるわ。部屋に飾るのが楽しみ」
アデルが嬉しそうにしてくれて、わたしも嬉しくなった。作ろうって思いついても、記憶にあるような折り紙なんて売ってないし、思ったよりも手間がかかったけど、作ってよかったな。
それから、みんなの反応はと言うと……すごく興味津々に見てたから、「もし欲しい人がいたら、やめるときにプレゼントするよ」って言ったら、みんな欲しがってた。ハルトの言うとおりだったね。
お別れ会って言っても、お茶を飲むだけの会だったから、すぐに解散になった。帰る前に、改めてエラにお礼を言わなきゃ。
「エラ! お花も、相談に乗ってくれたのも、本当にありがとう」
「どういたしまして。それにしても、こんなに素敵なものができあがるなんて、想像もしてなかったわ。すごいわ」
「へへっ。思いついてから、何回も練習したんだよ。染めるのは、そこまで上手くできなかったけど、ちゃんと色も付いたしよかったよ」
「初めてにしては、上出来だと思うわよ。わたしも、もう少しでやめることになると思うから、そのときはよろしくね」
「えっ、エラもそろそろなの? それはまた寂しくなるね」
「そうね。こればっかりは、順番だからね」
「そうだよね。……うん、エラのときも任せてね!」
「ありがとう。楽しみにしてるわ」
エラもそろそろなんだ。仕方ないんだけど、寂しいものは寂しいよね。エラのためにも、お父さんにお願いして、また紙を買ってこなきゃ。
今度は何で染めようかな。エラだと何色が合うかな。そんなことを考えていると、沈んだ気分もちょっとだけ上がった気がした。




