18. はじめてのお誕生日会
お墓参りのあとは、近くの丘でピクニックだ。お父さんが収納かばんから敷物を出してくれたから、その上にちょこんと座った。
朝から馬車に乗ったり、たくさん歩いたりしてたからか、ちょっと疲れたかも。お腹もすっかり空っぽになっちゃってるしね。
わたしが座ってる横では、お父さんが収納かばんからお昼ごはんを出してくれている。なんと、魔道具のポットまで持ってきてくれたから、あったかいお茶も入れてくれたんだよ。収納かばんって、本当に便利だよね。
「さぁ、これで手を拭いて」
そう言って、水で湿らせた布を渡してくれた。手を拭いたら、お楽しみのお昼ごはんだ。
今日のお昼ごはんは、外でも手軽に食べられるようにって、朝からお父さんが作ってくれてたんだよね。わたしもパンに具を挟んだりして、ちゃんとお手伝いしたんだよ。
「うーん、美味しい! 外で食べると、いつもより美味しく感じるね」
「そうだねぇ。ごはんも美味しいし、風も気持ちいいなぁ。こうしてると、春が来たなって思うよね」
「お花や草の匂いもして、気持ちいいよね。今度また、広場でピクニックしたいな」
「いいね。休みの日に天気がよかったら行こうか」
「うん! 今から楽しみ」
「ははっ。まだ今日も終わってないのに、レティは気が早いなぁ」
「だって、楽しいことは待ちきれないんだもん!」
そんな話をしながらパクパク食べていると、なんだか眠くなってきた。ごちそうさまをして、ごろんと寝転がると、途端にまぶたが重くなってくる。
「レティは眠いのかな? まぁ、朝から移動してきたしね。ちょっと休んでから帰ろうか」
「う…ん………すぅ」
「もう寝ちゃったか。……可愛い顔して寝てるなぁ」
なんとなく頭を撫でられているのを感じながらも、すごく眠くて、わたしはそのまま寝てしまった。
ふと目が覚めると、体の上に何かが掛けられていた。よく見ると、お父さんの上着みたいだった。ちょっと風があるから、きっと風邪を引かないようにって掛けてくれたんだね。
ぼーっとしながら、風に流れていく雲を眺める。風も気持ちいいけど、上着もあったかいなぁって思ってたら、お父さんが気づいて声をかけてくれた。
「あ、目が覚めたかい?」
「…うん」
「そろそろ起こそうと思ってたんだよ。少しはすっきりしたかな」
「うん。まだちょっとぼんやりしてるけど、眠いのはなくなった気がする」
「それならよかった。もう少ししたら帰ろうか」
「うん。お父さん、上着ありがとう」
「どういたしまして」
起き上がって周りを見てみると、わたしが眠ってる間に、お父さんが片付けてくれてたみたい。敷物の上は、すっかりきれいになっていた。
敷物を収納かばんに入れたら、お家を目指して出発だ。また馬車に乗って、今度は自然な風景から街並みに変わっていくのを眺める。
そうしているうちに、いつもの大通りにある降り場に到着した。馬車から降りると、ちょっとお尻が痛かったけど、我慢して歩いて帰った。
家に着いたのが夕方だったから、先にお風呂に入ってから夜ごはんを食べた。温まってお腹もいっぱいになったら、もう何もしたくないなって感じだ。
だから、いつもなら魔法を使いきって寝るけど、今日はさっさと寝ることにする。……おやすみなさい。
⊹ ⊹ ⊹
それから、あっという間にひと月が過ぎた。その間にエラとバルドが教室をやめたり、新しい子が入ってきたりしたんだ。
エラとバルドのお別れのときには、約束通りにハルトと一緒に折り鶴を作って渡したんだよ。
折り鶴はね、エラは瞳の色に合わせて最初は緑色にしようと思ってたんだけど、バルドは髪が茶色で、瞳が黒色だから、色を決めるのにすっごく迷ったんだよね。だって、どっちの色も暗めで、綺麗に染まるか分からなかったんだもん。
そしたら、ハルトが「好きな色でもいいんじゃない?」って言ってくれてね。それなら、せっかくだからエラもそのほうがいいかなと思って、二人に好きな色を聞いてみたんだ。だから、エラがピンク色で、バルドが青色にすることになったんだよ。
でもね、お花を使って紙を染めてみたら、バルドの分は水色になっちゃったんだよね。それ以上濃く染めるのは難しかったから、そのまま折り鶴を作ったんだけど、バルドは「俺の好きな色で作ろうとしてくれて、ありがとな!」って言って喜んでくれたんだよ。もちろん、エラも喜んでくれたよ。
バルドもエラも、お家が遠くてなかなか会えなくなるから、お別れ会の日はちょっとだけ泣きそうになった。アデルに続いて、お姉ちゃんお兄ちゃん的な存在の二人がいなくなったんだもん。やっぱり寂しいよね。
だから、次の教室は元気の出ないまま行ったんだけど、新しい子たちが入ってきたから、その日は緊張して、ちょっとドキドキしちゃった。
だって、石板用の布を洗ったり教室の掃除とか、面倒を見るほうになったんだよ。あ、実際に教えてたのは、新しく年長者になったテオとアレクだったけどね。
そうして、アレクに続いてカイも計算組になった頃、テオが教室をやめることになった。
テオは今月に誕生日を迎えて、8歳になるらしいんだけどね。もともと頭がよくて、お勉強も進むのが早かったから、もう充分なんだって。そういえば、わたしたちが教室に入った頃には、もう計算組だったもんね。しょうがないことなんだけど、やっぱり寂しいなぁ。
テオがやめると聞いた、その日の帰り道。わたしは、教室でお勉強しながら思いついたことを、ハルトに相談することにした。
「テオって今月でやめるじゃない?」
「うん。入ったときに僕らと同じ7歳だったから、まだ先だと思ってたよね。ますます寂しくなるね」
「そうだよね。思ってもみなかったから、びっくりしたよね。……それでね、テオって今月が誕生日だって言ってたじゃない? だから、お別れ会のときにお誕生日会もするのはどうかなって」
「お誕生日会? やったことないけど、なんだか楽しそう!」
やったぁ! ハルトなら、そう言ってくれると思ったんだよね。
「でしょでしょ。今までのお誕生日って、お家で家族とお祝いするものだったけど、教室で会えるんだから、みんなでお祝いしたら楽しいかなと思って」
「うんうん。僕たちは子どもだから、大きなことはできないけど、ちょっとしたお菓子を持っていくだけでもいいよね」
「そうそう。もともとお別れ会でも、お茶してるからね。お菓子を食べながら、おめでとうって言うだけでもいいと思わない?」
「いいと思う! 僕、お母さんにお願いしてみるよ」
「バーバラおばさんなら、何か作ってくれそうだよね。わたしはどうしようかな? ちょっと、お父さんに相談してみるね」
「うん。折り鶴もあげたいし、お手伝いも頑張って、お小遣いも貯めなきゃだね」
「たしかに。わたしもお手伝い頑張る!」
夢中になって話していたら、あっという間にお家に着いた。いつもの通り、お家に帰ったらすぐにお昼ごはんだから、さっそくお父さんに相談してみることにした。
「――というわけでね。今月の最後の教室のときに、お菓子を持って行きたいんだけど、何がいいと思う?」
「うーん、僕は詳しくないからなぁ。あと、バーバラさんが何を作るかにもよると思うけどね」
「たしかに」
こんなときこそ、前世の記憶の出番だと思うんだけどね。どうも前世のわたしは、お菓子は買うものって感じだったみたいで、作り方が分からないんだよね。……まぁ作り方が分かったところで、今度は材料が分からないってことになりそうだし、結局は作れないと思うんだけどね。
わたしだって、ラノベっていうのに出てくる主人公みたいに、新しいものを作って周りの人たちを驚かせたいもんだよ。はぁ。
「あ、そうだ! マリーちゃんに相談してみようかな」
「マリーさん?……あぁ、たしかに。マリーさんなら、お菓子も作れるもんね。材料は僕が用意してあげるから、何か簡単に作れそうなものがあるか聞いておいで」
「え、お父さんが材料を買ってくれるの?」
「もちろんさ。レティのお友だちのためだからね」
「わぁ、ありがとう! お父さん」
嬉しくなって、思わずお父さんに抱きついちゃった。へへっ。
「マリーちゃん、今お家にいるかな。とりあえず、ちょっと行ってくるね」
「うん、行っておいで。もしかしたら、材料を教えてもらえるかもしれないから、ノートと鉛筆を持っていったらいいと思うよ」
「たしかに! お父さん、ありがとう」
さっそくかばんにノートと鉛筆を入れて、マリーちゃんのお家へ向かう。お隣だから、すぐに着いちゃうんだけどね。ノッカーで扉をトントンと叩いて声をかけると、すぐにマリーちゃんが出てきてくれた。
「あら、レティちゃん。どうしたの?」
「マリーちゃんがいてくれてよかったぁ。あのね、ちょっと相談したいことがあってね。実はね――」
「まぁまぁ、何かお話があるのね。それなら、一緒にお茶しましょ」
わたしがテーブルに着いて座っていると、マリーちゃんがお茶を淹れて出してくれた。
お茶を飲みながら、お誕生日会のことを話していると、マリーちゃんはニコニコしながら聞いてくれてね。あれこれ考えたあとに、1つのお菓子を提案してくれたんだ。
「ナッツを蜂蜜でキャラメリゼするのはどう?」
「キャラメリゼ?」
「そう。乾燥させたナッツに、蜂蜜を温めて絡めるんだけどね。材料もそんなに高くないし、手で摘めるお菓子だから、ちょうどいいと思うの。作り方も簡単だしね。ただ、火の通し方が少し難しいから、よかったら一緒に作らない?」
「えっ、いいの?」
「もちろんよ。だって楽しいじゃない」
お茶目なマリーちゃんらしく、ウィンクしながら笑って言ってくれた。
「ありがとう、マリーちゃん!」
ここでも嬉しくなって、思わずマリーちゃんに抱きついちゃった。へへっ。
「じゃあ、必要な材料はナッツと蜂蜜でいいの?」
「そうね、ナッツは乾燥したものを用意してね。ナッツの種類はどれでもいいんだけど、いろんなのが混ざってても楽しいかもしれないわね」
「ふんふん、なるほど。そしたら今度、お父さんと市場で見てくる! お誕生日会は今月の終わりだから、また声をかけに来るね」
「まだ少し先なのね。楽しみに待ってるわ」
「うん! マリーちゃん、本当にありがとう!」
「ふふっ。どういたしまして」
それから、ハルトと折り鶴を作ったり、お父さんと市場に行ってナッツを買ったり、マリーちゃんとお菓子を作ったりしたんだけどね。お誕生日会のことを思うと、どれもワクワクして楽しかったんだよ。
でもね、一番楽しかったのは、マリーちゃんとのお菓子作りだったんだ。だって、お菓子作りって初めてだったし、仲良しのマリーちゃんと一緒だったんだもん。
それにね、ちょっと味見したら、ちゃんと美味しくできてたんだよ。これなら、みんなにも喜んでもらえそう。もちろん、お父さんにもちょっとあげたんだけど、美味しいって喜んでくれたしね。
お誕生日会のことはね、テオには内緒だけど、アレクとカイとコニーには話しておいたんだよ。もちろん、何も用意しなくてもいいんだけど、知ってたら用意したのに、ってなったら嫌だなと思ってね。
そしたら、みんな嬉しそうにしてくれたんだよね。今まで、わたしとハルトだけで折り鶴を作って渡してたから、何かしたかったみたい。
コニーがお店のお菓子を1つ持ってきてくれることになったのと、カイはお店で売ってるナッツを安く売ってくれたんだ。二人とも市場のお店の子だからね。
アレクはというと、お小遣いが少ないって言ってたから、お皿を持ってきてもらうことにしたんだ。教室でコップは見たことがあるけど、お皿があるか分からなかったしね。
そうして、今月最後の教室の日。お別れ会のときに、みんなが自分で用意したものを持ち寄って準備していく。何も知らなかったテオも、今月から入った子たちも、みんなびっくりしてたんだよ。ふふっ。
「えーっと。今日でテオは最後だからお別れ会なんだけど、今月はお誕生日もあったから、お誕生日会も一緒にしようと思います!」
わたしがそう宣言すると、みんながわぁーっと拍手してくれた。みんながテオに「おめでとう」を言って、お茶が入ったカップで乾杯したんだよ。そしたらテオが
「みんな、ありがとう」
って言いながら、照れててね。いつも冷静な感じだから、そんな顔を見るのが初めてで、すっごく嬉しかったなぁ。それに、みんなも嬉しそうだったし、何より楽しそうにしてたしね。お誕生日会、やってみてよかったな。
お小遣いでできることだから、ささやかなことしかできないけど、これからも楽しいお誕生日会ができるといいな――弾んだ気持ちでそう思った。




