その52「こども達の星⑧人と幼女とアンドロイド」
長い廊下が続いていた。廊下の果てから光が漏れていた。
俺とクオンは手を繋ぎながら廊下を歩いていた。
「ここ地下なのか」
「どうして?」
「いや、窓がひとつもないから」
白く無機質な左右の壁には、ところどころ壊れた額縁がかかっていた。壁紙もところどころ剥がれかかって、コンクリートの下地が覗いている。
「どうかな? ここもきっと、誰かの心の中なんだよ。病院の地下がそうだったみたいに」
クオンが言った。なるほどそうなのだろう。でもそれ以上かもしれない。
「特定の『誰かの』ではないんじゃないか。俺の心にクオンが触れられたように、俺がクオンの過去を見てしまったように……ここはこの異変に巻き込まれた『皆んなの』心が混ざった場所だと思う」
「そうかも。でもここは誰の心の風景がベースなんだろう?」
「少なくとも、俺とクオンではないな」
廊下の果て、少し扉が開いていた。軽く押しあけると、大仰な機械の前に一人の白衣の女性が立っていた。背を向けていたが、その姿にはどこか見覚えがあった。
「トゥインクルさん!?」
クオンが驚いて声をかける。彼女が振り向いた。
その顔立ちは確かにトゥインクルに似ていた。しかしどこか違う。何より、『人間』だ。
「トゥインクル! いい名前ね。あなたたちの知り合いかしら?」
「……あなたは?」
クオンがたずね直す。
「私? 絵恋よ。絵に描いたような恋と書いて、絵恋」
背の低い機械人形が近づいてきた。手にはお盆を、お盆には紅茶が二つ乗っていた。
「オチャデス」
俺たちはとりあえずそれを手に取り、部屋の中を見回した。
機械や、その設計図、よくわからない数式に混ざって写真が何枚も壁飾られている。写真には絵恋の他、複数人の研究者が写っているものが多かった。
その写真達が、俺たち二人が見ている前で急激に色あせ、壁からはがれ落ちていった。
「ここは不思議な場所ね。とても懐かしくて、嫌になるわ」
老人の絵恋が、若い彼女に替わって腰掛けている。
「彼らには悪いことをしたわね」
老婆は、床に落ちた写真を見下ろしながら言った。
「そう思っているようには聞こえませんが」
「あら」
ふふふ、と絵恋が笑った。
「何をしたの?」
「私たちはね、アンドロイドを作っていたのね。幼女たちが現れてから、世界中のあらゆる場所が人手不足だったでしょ。その解消のためにね」
絵恋は部屋の中を動き回る機械人形を楽しそうに眺めた。
「……でも私のやりたいことは、そうじゃあなかった。子供は親を越えなくてはいけないわ。だから彼には、『人を越える完璧な存在になること』を本能として組み込んだ。結果は……上手くいったのよ。彼は私たちからアンドロイドの研究データを全て奪って、自分のものにした。そして自分の手で、アンドロイドを生み出し始めた」
絵恋の言う『彼』とは、心当たりが一つだけあるとすれば『お父様』だ。
絵恋の言う『完璧な存在になる』とやらのために、彼はクオンの命を狙っている。そう思うと、俺は目の前の老婆に怒りがこみ上げてきた。
「そのためなら、どんな犠牲が出てもいいって言うんですか? あの男は人から奪うことに何のためらいもない。研究データも……クオンの命も」
「命、まではいきすぎよね。でも多少の犠牲は覚悟してた。彼は特別。私と言う個人の子供、というだけではない。人類という種の最後の子供がヴィクター」
絵恋は落ち着き払った声で言い放った。
「子は母親の栄養で育つわよね。最初はそれが必要なのよ」
「だからってーー」
思わず声を荒げた俺を、クオンが手で制した。
「わかるような気はする。子供のためなら、なんでもしてあげたいと思うのは」
そしてかぶりを振った。
「だけど、私はまだ死ねない。犠牲にはなれないよ。私にだって人生がある」
「……そうよね」
部屋の奥に扉が生まれた。
絵恋が立ち上がり言う。
「甘やかしすぎたのはそうかもしれないわね。私はあの子の話をつけにいくわ。あなたたちはどうする?」
「ついていくよ。このまま一生、逃げ続けるなんて嫌だもの」
部屋を出るとそこは幼女の国だった。国会議事堂の頂にはお子様ランチの旗がはためき、熊のぬいぐるみの頭のような気球が上空を飛んでいる。呆気にとられる俺たちの前をデモ隊が行進していく。
「たけのこをまもれー!」「たけのこをほごしろー!」「たけのこぞうぜいはんたいー!」
デモ隊の更新を、JOJI.tvとロゴを背中に貼り付けた幼女テレビ局がレポートしていた。
「よとうの『きのこのとう』のたけのこぞうぜいにはんたいするわかものがぜんくにから……え? ぜんこく? ふりがなないとよめないよぉ」
「茶番ねえ」
絵恋が言った。
「そう見えるかい?」
デモ隊の中からアンドロイドのリオンが返答した。幼女を肩車していた。
「だけどね! 幼女達も必死なんだ! たけのこが10パーセントも増税されてしまうんだよ! きのこは8パーセントのままなのに!」
「いや一体何の話なんだ」
「でも仕方ないんだ……たけのこときのこの確執は、紀元前にまで遡るんだから」
「遡らないだ」「たけのこをまもれー!」「たけのこをほごしろー!」「たけのこぞうぜいはんたいー!」「ろ」
デモ隊がうるさい。
「ボクがいいたいのは、つまりさ、キミたち人間には茶番に見えるのかもしれないけれど、幼女たちはこの一瞬一瞬を全力で生きているってことなんだよ! 瞬瞬必生なんだ!」
「そんな四字熟語は聞いたことがないが……」
「キミたちだってそうだろ! ボクからすればどーでもいい理由で生きてるじゃないか。幼女がいればいいんだ、ボクには」
幼女たちの行進がリオンを連れて過ぎ去っていく。幼女レポーターたちは仕事がなくなったらしく、ベンチで昼寝を始めた。
気がつくとあたりのアスファルトはひび割れだらけで、ひびからは例外なく雑草が姿を見せていた。国会議事堂すら蔦が覆い、はためいていたお子様ランチの旗は最初からなかった。
目の前を再び行進が通り過ぎていく。一瞬幼女だと思ったが、それはからくり人形の群れだった。
「どちらが本当の世界だと思う?」
からくり機械の行進を挟んで、道の対岸に奴がいた。『お父様』と呼ばれている白髪のアンドロイドだった。傍らには、猫耳のアンドロイドを引き連れていた。
俺とクオンの顔がこわばる。
「はは、もう少し嬉しそうな顔をしても良さそうなもんじゃないか。僕と話がしたかったんだろう」
「どちらがって、何の話だ」
「そのままの意味さ。この世界は幼女とやらの溢れる明るい世界なのか、それとも荒廃していくしかない終わりの世界なのか」
質問にはクオンが答えた。
「どっちもでしょ。世界は滅びてるし、幼女さんもいる」
アンドロイドが鼻で笑った。
「両方ねえ。じゃああそこのベンチを見てごらんよ」
お父様を視界に入れて警戒しつつ、示されたベンチを見た。先ほどまで昼寝をしていた幼女たちはもういない。あったのは、自走式三脚付きのテレビカメラだけだ。
「何が言いたい?」
「僕には最初から、それしか見えなかったという話さ。今君達は、僕に見えている世界を見ているんだ。すなわち幼女が存在せず、ただできの悪い機械人形が闊歩している世界。幼女は、ヒトが見るから幼女に見えるだけなんだよ」
足元が崩れていく。比喩ではない。実際に足元が崩れ、建物が恐ろしい速度で朽ちていく。変わっていく世界にヒトに似た姿のアンドロイド達が亡霊のように現れた。
「ヒトが滅んだ後の世界に、幼女はいないさ。幼女を幼女と思うヒトがいなくなったら、幼女は存在できない。思うに、あれは種そのものに寄生する存在なんだろうね。その種にとって『保護すべき対象』になり代わり、その養分全てを自分たちのものにしてしまう。本当の意味で人類の子なのは僕たちアンドロイドさ。どうだい? 次の世界のために、僕に協力したくはなってこないかい?」
「そのためにクオンに死ねっていうつもりか」
「言い方が悪いなあ。命を有効に使ったどうだと言っているんだよ。どのみち、君たち人間の果たすべき役割はもう終わったじゃないか。そのまま生きても、ただ死ぬだけだよ。それならいっそ未来のためにーー」
俺はクオンの手を握りしめ、言い返す。
「ただ生きて、ただ死ぬことの何が悪い! だいたいお前はどうする気だ? お前の作りたい未来ってのは、この生気のないアンドロイドが溢れた世界か!? 同じアンドロイドでも、LO-426や、トゥインクルやリオンの方がよほど生命力があった! あいつらはバカだったが、少なくとも生きがいは持っていた!」
「おまえ! お父様をバカにしてるニャ! お父様はバカじゃないニャ!」
「娘々《にゃんにゃん》、あの人間が言っているのはそういうことではないよ。とはいえ言ってくれるじゃないか。状況を理解しているのかい? 前にも言ったが交渉をする気はないんだ。君たちは僕の思考世界にいる。この意味がわかるかい?」
俺たちのまわりの亡霊のようなアンドロイドたちが、一斉にこちらを見た。囲まれている。
「ヴィクター。私はあなたをこんなアンドロイドに育てた覚えはないわよ」
絵恋が咎めるように言った。
「どの口が言うんだい。僕が人を越えることは、あなたが望んだことだろう?」
「ヴィクター。私はあなたをこんなアンドロイドに育てた覚えがあるわよ」
あるんじゃないか、などと軽口を叩いている場合でもなくなってきた。アンドロイドの包囲網はすでに俺たちを隙間なく囲っている。脱出は絶望的だ。せめてクオンだけでも上から放り投げて助けられないだろうか、そう俺が考え始めた時、白衣がはためいた。
白衣の幼女ははるか上空から降り立ち、指を鳴らした。
とたんにアンドロイドたちだけ重力がなくなったように、空中に浮いていく。……なぜかクオンのスカートも浮かび上がる。
「きゃあ!?」
「助けに来ました、クオンさん、トキワさん!」
「え!? その声……櫻宮先生!? なんで幼女に!? っていうか、スカートもどせ!!」
クオンが驚愕の声を上げる。なるべくクオンを見ないように、薫子の方へ顔を向けた。
今の薫子は幼女と一体化している。こういうこともできるというわけか。スカートは何の意味が。
「どうです! あなたのアンドロイド軍団もこうなっては手も足もでないでしょう」
「忘れてもらっては困るね。ここは僕の精神世界だ。いくらでも手はあるさ」
宙に浮いたアンドロイドたちに、機械の翼が生えた。
「あら! 私の設計したやつね」
絵恋がうれしそうに声をあげ、すぐ不謹慎なことに気がついたらしく神妙な顔を作って見せた。
アンドロイドたちは機械の翼を得て再びこちらに向かってくる。
「この精神世界はもともと私の中にいる幼女さんの力で生み出したもの! あなただけの精神世界ではないこともお忘れなく」
薫子が両手で円をつくると、そこからゲートが広がっていく。ゲートの中から現れたのは、無数の幼女たちだった。天を埋め尽くすほどの幼女が、アンドロイドたちを濁流のように飲み込んでいく。
「おそらをじゆうに」「どっどどどど」「とびたい〜」「どどどど」
幼女達が自由に合唱している。合っていないが。
「櫻宮先生、もうふっきれたのか。幼女の力を積極的に借りるなんて」
俺は薫子に尋ねた。
「もう……怖くないのか?」
「ええ! なんというかもう、全てを理解することを諦めたんです」
薫子幼女がからりと笑った。かわいかった。
「あ! 今かわいいと思いましたね」
「え!? いや……わかるっていうのか!?」
「この世界の中なら、お互いの考えてることがなんとなく。水臭いじゃないですか。それに呼び方も戻っているし」
「戻っている?」
「ああ、そっか。さっきは意識が混濁していたみたいですしね! もういっかい名前でーー」
「先生! しんみりした話をする前にスカートを戻して!」
「なぜですか? その方がかわいいと思いますが」
「ス カ ー ト を も ど せ!!」
残念そうに薫子が指を鳴らした。クオンのスカートの異常重力が消えた。
「もう! 助けてくれたお礼を言おうと思ってたのに!」
「今からでもいいんですよクオンさん。耳元で……こう、感謝と私へのツンデレ気味の愛を込めて言っていただければ」
スカートをめくっておいて高望みがすぎるのではないか。
「むう……。ありがと……」
「青春ね〜」
絵恋が呑気に言う。青春だろうか……?
しかしすぐ、俺は油断をしすぎたと悟った。薫子の首を、お父様が掴んで締め上げた。
「薫子!!」
あわてて近づこうとした俺の体を、猫耳のアンドロイドが地面に押し倒した。
「認めない……幼女の力を利用し、この地球の覇者になるのは僕らアンドロイドだ」
お父様の余裕の表情が、ついに崩れた。
「あなっ……あなたは、何がしたいんですかっ……人間のかわりにでもなろうっていうんですか……!!」
「当たり前だろう! 役割のために生きるのがアンドロイドというものだ! 人間を越え、人間に代わり、地球の霊長となる! そうしてはじめて、僕という存在が価値を持つんだ!」
薫子の口から小さな幼女入りのフラスコが吐き出された。フラスコが地面にころがると、薫子の体がもとの成人女性に戻った。お父様はもうようはないとばかりに薫子を放り出すと、そのフラスコを手に取った。
「ランボウだ!」
フラスコの中の幼女が抗議をする。しかしお父様は耳を貸さない。フラスコを砕き、その中の幼女を歯車に変えて自分の胸に押し込んだ。
周囲の構造が再び様変わりしていく。機械の蔦が地面を走り、幼女を次々に絡め取って取り込んでいった。
「……わからないな。こんなものを取り込んでも、結局心がなんなのかが見えてこない。どうすればわかるんだ? どうすれば……」
「お父様、と呼ばれていたよな。お前の勘違いを……今3つ、見つけた気がする」
猫耳のアンドロイドが、俺をさらに強く地面に押さえつけた。
「口を慎むニャ!」
構わず続ける。
「人間は……役割のために生きてるわけじゃない。生きるために役割が必要なときがあっても……生きてるってことが、いつも先にあった……。俺たちは結局……生きているっていう事実に振りまわっされぱなしなんだろうな……」
「哀れなもんだね」
「お前にはそう見えるのかもな。だけど今は、それほど悪い気分じゃない」
俺は周りに目を向ける。薫子は倒れたまま、しかし目線だけはこちらに向けていた。クオンは機械の蔦に四肢を拘束され、絵恋は周囲をアンドロイドに囲まれている。
「もう一つは……少なくとも、お前に価値を見出してるやつもいるってことだ。人間を越えなくても。今の段階で、もうすでに……」
「何が言いたいんだい? 時間稼ぎの精神論かい?」
「事実を言ってるだけだ。そうなんだろ、猫耳に絵恋さん」
「にゃ!?」
猫耳の拘束が、瞬間緩んだ。
「急にニャーに話をふるかニャ!?」
「お前は……お父様、が大事なんだよな」
「あたりまえだニャ! バカにするニャ!」
絵恋が苦笑した。
「そうね、当たり前だわ。ヴィクター、あなたは私の一人の息子。大切じゃないわけがない」
「なにを言い出すんだい絵恋。あなたが僕をつくったのは、人類という種のためなんだろう? だからこそ、僕も人類という種につくしてきたんじゃないか!」
「それだけの理由で、人生をかけたわけじゃないわ!」
絵恋の姿が、若かりし日の姿に戻っていた。トゥインクルによく似た容姿の女性。それも必然なのだろう。きっと、お父様は意識的に自分の娘トゥインクルを母絵恋に似せて作ったのだ。
「幼女たちが現れて……私はもう一生子供を産めないのだとわかって……自分でも驚くぐらい、ぽっかりした気分になったのよ。そんなこと、それまで意識もしてなかったのにね。その時初めて、自分にも育児願望があるとわかったわ。……あなたを造ると決意して、あなたが産まれて、どれだけ救われたか。あなたがいるだけで、私はどれだけ満たされているか」
絵恋がうつむいた。
「まあおかげで、少し過保護になりすぎていたけどもね」
お父様が頭を押さえた。
「……説得のつもり、なんだろうけどもね……どうしろというんだい? 僕は役割のためにあるんだ! はいそーですかと、引きさがれるとでも思うのかい」
「まだ3つめを言ってない」
俺はそう言って、言い淀んだ。伝えるべきなのか。
ここにきて、俺は目の前のアンドロイドの男に半ば同情しかけていた。しかし、俺はなんとしてもクオンを守りたいのだ。だからこそ、この男には諦めてもらわなくてはいけない。
「お前にも……心がある」
「何を馬鹿な」
「でまかせじゃない。自分でも言ってただろ、ここはお前の精神世界だと。だから、本当は気がついていたんじゃないのか? 自分にもすでに心があり……そしてそれは、俺たち人間とは違う形の心だと」
男が黙り込んだ。
「俺たちに幼女に見えるものが、お前には機械人形に見えると言っていたが、それで、お前はどう感じているんだ? その機械人形を。……お前に取って、機械人形ってのは息子や娘みたいなものなんだろ? だからこそお前は、自分で作ったアンドロイド達に自分のことをーー」
「もういい。黙ってくれ」
「いいやだまらない! 人間になることはもう諦めろ! お前はすでに、人間ではない『お前自身』だ!」
クオンを縛っていた蔦が力なくほどけて地面に落下した。
「にゃ!?」
猫耳のアンドロイドが、とつぜんの父親の不調に動揺する。俺はその隙を見逃さず、アンドロイドを振りほどいてお父様の胸ぐらを掴む。
「俺たちは、お互いが『俺たち』でしかいられない! でもそれって悪いことか!? いいことじゃないかもしれないが、そう生きるしかないだろ!!」
お父様が顔をしかめ、俺は反撃を覚悟した。
しかし、何もなかった。
「……薄々気がついていたさ。そうとも、何度も何度もその可能性を危惧していた……他人に指摘されるのはひどく腹立たしいもんだね。その通りさ。僕にはもうすでに独立した自我のようなものがあって……そしてそれは、君たち人間とは違う。つまり……」
男が自嘲気味に笑った。
「君の見立て通り、すでに僕には『人間になる余地がない』ようだ」
お父様は俺の手を簡単に振りほどき、猫耳アンドロイドを手招いた。
猫耳アンドロイドは一瞬混乱した様子だったが、すぐに男のそばに近づいてきた。
「帰るよ、ペタバイト娘々」
「にゃ……」
「待って!」
クオンが、背中を向けたお父様に向かって声を張り上げた。
「私も……つい最近まで、自分で決めた役割のために生きてた。ううん、それしか生きる理由なんてないと思ってた」
クオンの言う役割とは、彼女が自分の子供のクローンとして生きることを自分に課していたことだろう。
「もちろん……今でもそれは大切だけど……でも、でも今はそれだけじゃなくて、生きたい、って思えてる。だから、だから……」
お父様がクオンの言葉にどう表情を動かしたかはわからない。しかし、返答はひどくそっけないものだった。
「安い同情はやめてくれないか。所詮君は、僕とは違う生き物だ」
「……うん、そうだね……。私たちはきっと、私たちにしかなれないんだよ」
「僕は君を諦めるが、条件を出すよ。この土地からは去ってくれ。勝手なようだが、君たちを見るたびにこの屈辱を思い出しそうだ」
去っていくアンドロイドたちに、これ以上かける言葉は何もなかった。
次回は明日21時です(予約投稿済み)




