その53「こども達の星」(終)
「重くないのか?」
「もちろんだ! ヨウジョリオンに不可能など何もないぞ!」
ヨウジョリオン
幼女とリオンが合体した(肩車しただけだ)リオンの最終形態だそうだ。そうですか、と軽く流して俺たちは歩みを進めた。母を抱えてもらっている手前、あまり無碍にもできないが。
ずいぶん長い旅だった気もするが、ほんのわずかで帰ってきたような気もする。俺たち、つまり俺とクオンと薫子と、それから新たに増えたリオンと俺の母親は再び『病院』に戻ってきた。俺が命を救われた場所。今となっては行くあてもここしかない。
あいかわらず妙な場所だ。水平線に見えてきたそこは水に半分沈んだ旧世界の街だ。病院もまた、一階部分は水没している。
母はーー
母は相変わらず、俺のことを息子だと認識していない。この人はもうこうなのだと、そういった諦めのような気持ちもある。肉親として放っておく気はないが。
「病院、まだ使える状態なのでしょうか?」
薫子が至極まっとうな疑問を口にする。病院はお父様や人間の過激派集団との戦いでずいぶん崩れてしまっていた。
「わからない。けど、使える機材を運び出すなりして、なんとかするしかないんじゃないか」
「そうだね。私たちが生活してればまた幼女さんたちも集まってくるだろうし、なんとかなるよきっと!」
「あ! ママ!」
リオンがうれしそうに声を上げた後、顔も真っ赤にして「お母様」と訂正した。
病院の屋上に、見慣れた姿があった。金髪のアンドロイド、トゥインクル・トゥインクルだった。傍らには、立体映像のLO-426もいる。
「おかえりなさい! ですわ!」
トゥインクルが俺たちに向かって叫んだ。きゃっ、とクオンが悲鳴をあげた。薫子がクオンを持ち上げて肩車したのだ。
「お二方によく見せなくちゃいけませんから! クオンさんのお姿を!」
「そっか。それもそうだね! おーい! ただいまー!!」
また賑やかになりそうだと、俺は思った。
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人類はこの地球に10万年と少し生きていた。その時間の何十倍もの時が流れて、今や当時を思わせるものは何も地上に残っていない。かつての街並みやコンクリートは地面の下。掘り返そうと思う人ももういない。
かつて「幼女」と呼ばれた存在は、今なおこの地球にいる。しかし彼女達を幼女だと認識できる存在がいなくなった今となっては、その姿を幼女と呼ぶのは難しいだろう。
一人だけ、たった一人だけ、今なお幼女の姿を見ることのできる存在がいた。
丘のふもとの平野に小さな家があって、そこで少女は暮らしていた。
少女は空を見上げ、そこにいる「幼女たち」に声をかけた。空は幼女だった。丘も幼女だった。長い年月をかけて幼女は星と一体化を進めていた。もう何億年かすれば星そのものが幼女になるのかもしれない。
「きょうは そよかぜに なったの!」
空になった幼女が、少女を抱きしめるように吹き抜けていく。その姿を見て少女は笑って、歌を歌った。
黙っていると忘れてしまう。だから彼女は歌を歌った。
少女の歌は夕暮れ時まで続いた。夕暮れ時、東の空に光がきらめいた。巨大な円盤が、星の海の彼方から地球に帰還したのだ。彼らはかつてアンドロイドと呼ばれていた。今もそうなのかは少女にはまだわかっていない。そうであればいいなと思いながら、少女は円盤に「おかえりなさい!」と叫んだ。
おわり




