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新・ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
第4節-結
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46/53

その46「こども達の星②ジェットばばあ」

「つくぞ」

 フラスコの中の幼女が唐突に言って、唐突に船が止まった。俺やクオン、櫻宮薫子は何ともなかったが、室内の備品が恐ろしい勢いで宙を飛び、進行方向に投げ出された。それらは壁にぶつかると原型を留めず霧のようなものになった。

「いったいどれくらいのスピードが出ているとああなるんだ?」

「これでもカクユウゴウしないテイドにはおさえていたつもりだが」

 核融合する可能性もあったのか……。

「トキワくん、外!」

 クオンがそう言って甲板に駆け出す。つられて出ると、そこには異様な光景が広がっていた。海の上に巨大な工場があった。鉄筋の骨組みがあり、巨大なマニュピレーターアームがあり、資材をせわしなく運ぶドローンがあり、そしてそれらは今まさに稼働しながら、その足元の小型船舶の集団を取り込んでいた。

「なんですか、あれは……船を、食べてる?!」

「むごーーー!! むごーーー!!」

 櫻宮薫子がそう言いながら、自分のシャツの中にクオンの上半身を取り込んでいた。必死に抵抗するクオン。例えとしては最悪に近いが、確かに状況は似ている。巨大な建造物が、より小さい船を捕食している。

 洋上の巨大工場から、ワイヤーフックのようなものが衝撃と共に甲板に突き刺さった。

 ワイヤーが引かれ、船は徐々に工場基部に近づいていく。

「ねえ、なんか近づいてない?!」

 薫子から脱出したクオンが叫ぶように言った。俺たちは船内に駆け戻り、フラスコの中の幼女に尋ねた。

「なあ! このままだと俺たちの船も、あの工場に食われるんじゃないのか?!」

「わたしはオマエタチを、ワザワザこんなとおいトオイところまではこんだのだ。ホメてもらってもいいとおもうガ?」

「うんうん! すごいよ!! とっても助かったよ!」

 クオンが早口で幼女を褒めた。

「そうであろう」

「このあとどうなるのかも教えてくれるとうれしいな!」

「なに、シンパイするでない。あのテイドのキカイに、わたしをどうこうはできぬ」

「そうなんだ……安心したよ。ちなみに私たちはどうなるの?」

「このフネはあのキカイのイチブとなる。ひつようのないパーツはハイキされる」

 船全体に衝撃が走った。見ると、機械のアームで海面から持ち上げられていた。

「廃棄って!? 必要のないパーツって!?」

「オマエタチはブンベツされたあと、もやされる」

「ダメじゃない!!!!」

 俺は慌ててフラスコを掴み、もう片方の手で、クオンの手を引いた。

「とにかく海面に逃げよう! 櫻宮先生も!」

「ダメです、トキワさん!」

 甲板の手すりに必死につかまりながら、薫子が叫んだ。

「もうだいぶ持ち上げられてます! この高さから飛び込むのは危険すぎます!」

「イヤ、なにもシンパイは」

「いや!! だけどもやるしか!!」

「わたしのハナシを」

 そのとき、拡声器ごしの声が響いた。声はしわがれた老婆のものだった。

『あ、あーー。あんた達、日本人? この呼びかけで理解できる? まいいや、動かないでね〜! Freeze! Don't move ! FBI!』

 次の瞬間、薫子が悲鳴を上げながら、突如飛来した翼の生えた人形の何かに攫われて行った。

「櫻宮先生!?」

『あなた達も動かないこと。狙いにくくなっちゃうわ』

 船の屋根が力任せにもがれ、逆光にシルエットが浮かび上がる。迷彩色のスーツに、背中には巨大な機械の翼。手足は外骨格のようなものが張り付き、肩部分から伸びたサブアームが悠々と船の上部をつかんでいた。顔はマスクで覆われておりよく見えないが、むき出しの首には深いシワが刻まれていた。人間だし、しかも老人だ。

『オッケー、あと二人ね。余裕ザメ』

 もう片方のサブアームがクオンをつかみ、老人の手元へ引き寄せられた。

 船の上部が投げ捨てられ、空いたサブアームが俺に伸びる。万力のように固定されたが、不思議と痛くない程度の力で止められていた。

『離脱しましょ』

 体が浮く。老人が宙を舞う。俺たちの背後で、船が工場の中に取り込まれて行った。


 工場の一部にヘリポートのような空間があり、そこに俺たちは降ろされた。櫻宮薫子が先にそこにいた。

「櫻宮先生! 無事だったのか!」

 俺とクオンが薫子にかけよる。

『若者って感じだわ。奥さん? 彼女? そっちのちっちゃいのは子供?』

 翼を背負った老人が言う。声からして老婆か。しかしなぜあんな格好なのか。

「まだどちらでもないです」

 薫子が言った。老婆は笑った。

『まだ! まだね! オッケー、ガツガツした女の子は好きよ』

 俺は老婆に尋ねる。

「助けてくれてありがとうございます。あなたは?」

『ああ、マスクしたままだった』

 老人が頭の横のボタンを押すと、マスクが外れた。声の通り老婆だった。白く、深いシワの刻まれた肌。ボサボサの白髪。3Dメガネのように、左右で色の違うゴーグル。

「ハアイ、私の名前は絵恋。絵に描いたような恋って書いて絵恋。見てのとおり、17歳の乙女よ」

 クオンが吹き出した。

「背中のそれは……」

「これ? ジェットパックよ。マッハまで加速できるわ」

「できるんですか?」

「人間がやると死んじゃうけどね。これが本当の鳥葬ってやつね。アハハハハハ!」

「いや……あの……そういうことが聞きたいわけではなくて、ええと……あなたは一体この街の何なんですか? 人間……ですよね?」

 絵恋と名乗った老婆が、含んだ笑みで再びマスクを被った。

『乙女はミステリアスな方がかわいいと思わない? この街もね。ちょっとガサツなところもあるけど、いいところよ。それじゃあね!』

 老婆がジェットエンジンをふかしながら飛び上がった。俺は大声で呼びかける。

「いや、ちょっと待ってくれ!!」

『待てないわ〜。ゲートボール大会の司会頼まれてるもの〜』

 ヘリポートから老婆は去って行った。

 ヘリポートの横に、『順路 →』と書かれた看板がビーズでデコられて立っていた。

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