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新・ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
第4節-結
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その39「幼女鉄道の夜」

「部屋割りを決めるよ!」

 日がすっかり落ちた頃、クオンが言った。寝台部屋などはないため、座椅子をソファーのように利用して寝ることになったのである。

「2ボックスに別れよう! 櫻宮先生と幼女ガイドさんのボックス、私とトキワくんのボックスでどう?」

「待ってください! そこは普通男性と女性で別れるのでは?! トキワさんと幼女ガイド! 私とクオンさん!」

「やだよ! それぜったいちょっかい出してくる気でしょう?!」

「出しませんよ! 私の目を見てください! これが嘘をついている目に見えますか?!」

 クオンが櫻宮薫子の目をじっと見つめる。とたんに息を荒げ始める薫子。

「やだ……そんな見つめないでください……はぁはぁ……」


「で、なんで最終的にこうなるんだ?」

 俺の対面の席に、櫻宮薫子がいた。

「しかたありません。クオンたんには信用されなかったですし、クオンたん以外の幼女と二人きりの空間は怖いですし……」

 さりげなくクオンの呼び方が『クオンたん』に変わっているのを俺は聞き逃さなかった。

 薫子がおもむろに白衣を脱ぎ始めた。

「何はじめてんだ?!」

「これじゃ眠れないじゃないですか」

「別のボックスで着替えてくればいいだろ!」

 慌てて窓の外に目をそらす。満天の星が目に入った。

「はい、もういいですよ」

「お…………おおう?!」

 向き直ると、全裸の女がそこに座っていた。局所を隠しもしていなかった。

「は? いや……は?!」

 適切なコメントを失ってしまった。青ざめてまた窓の外に目をそらす。

 何が起きているんだ? ターゲットをクオンから俺に変えた?! 薫子のターゲットは人間の幼女……つまり俺は幼女だったのか?!

 頭が正常に働いていないのが自分でもわかった。

「例のコンテストで……水に溶ける水着を下に着用していたのですが(27話参照)……脱ぐタイミングがないまま騒動に巻き込まれまして、水に潜って……今にいたるわけです」

 着ていたな、そういえばそんなものを。

「と、遠い昔の話に聞こえるな。服着てくれ」

「……そうですね。つまらないからそうしましょう……」

 車輪の音にまじって音が聞こえてくる。考えるな……何も考えるな……。

「トキワさんは、人の集落に行ってどうするつもりですか?」

「……わからない。でもトゥインクルと約束した。何かしら……できることを探すつもりだよ。櫻宮先生は……」

 見ると、全裸のままだった。物憂げに窓の外を見ていた。油断した。慌てて目をそらし直す。

「服着てくれ! 頼むから!」

「私はまだ……どうしたらいいのかわからないんです」

「その格好で真面目な話は無理があるだろ?!」

「私! さっきから大真面目ですよ!」

 俺の肩を掴んで、強引に薫子が振り向かせた。

「……コンテストの日の続きですよ、これは。ちゃんと私を見てください、聞いてください。私は……トキワさんの人間らしいところが見たいんです……トキワさんの欲望を……じっくりと見たい……」

「……見て……見てどうするんだ?! 見るとどうなるんだ?!」

「トキワさんのこと、好きになれます」

「今は……違うのか」

「そういうの、意地悪っていうんですよ」

 俺の肩に触れていた手が、ゆっくりと頬に上がってくる。月明かりに、薫子の肢体が白く浮かび上がっていた。

 綺麗だった。怖いくらいに。

「……キスしても、いいですか」

 俺はゆっくりと、だが明確に、頭を振った。

「ダメですか……?」

「櫻宮先生、俺だって……人間だし、これでも男なんだ。今キスしたら……それだけじゃすまないことくらい、俺でもわかる」

「……私はそれでも」

「ダメだ! わかってるだろ?! もしそれで妊娠でもしたら……君の腹に宿るのは、君の子じゃない。俺の子でもない。人間の子供じゃないんだ!」

 薫子がうつむいた。力なく、自席に戻った。

「……そういうの……意地悪っていうんですよ」

 いたたまれず、俺は立ち上がった。

「クオンの様子……見てくる」

「……勝手にしてください。この部屋にいたくないだけでしょう?」

 その通りだった。俺は無言で部屋を出た。


 車両の後ろの方へ、静かに歩いて行く。行きがけ、ちらりとクオンのいるボックスを見た。幼女がたくさん押し寄せて寝ていて、姿が見えなかった。

 デッキは外にあった。扉を出ると、クオンがいた。手すりにもたれかかっていた。

「さっきはお楽しみだったね」

「聞いてたのか」

「途中までね」

 俺も手すりにもたれかかった。車両の明かりに照らされた線路が、夜の奥へと消えて行く。あるいは、見えなくなった線路は本当に消えて行っているのかもしれない。そんな風にも思えた。

「別にどうにもなってないよ。逃げてきてしまったから」

「……そうなんだ」

「逃げてばっかりだ、俺は」

 思えば、最初からそうだったのかもしれない。故郷から都会に逃げ、何の目標もない人生から重労働に逃避し、それすらも立ち行かなくなると、今度は人生から逃げ出そうとした。

 さっきだってそうだ。逃げ出したくてたまらなくなってしまった。だから衝動的に逃げてしまった。薫子のためでも何でもない。

「私もだよ。大切なことを伝えなかった。トキワくんに言いにくかったからじゃない。トキワくんのことはずっと信用してた。私が……向かい合いたくなかっただけなんだ。それにまだ……」

 クオンが俺の顔を見上げた。そのまま空を見上げた。

「……ああ、今日は新月なんだね。どおりで星がよく見えると思ったんだ」

 俺も空をあおった。白くぼんやりとしたもやが、空を大きく横断していた。

「星だけでもこれだけ明るいのか……ちょっと意外だな」

「目が慣れてきたんだよ。ほら、線路だってよく見える」

 不意に、気動車がぼろぼろになった駅を通った。コンクリートでできたホームが、闇夜の中に遠ざかって行く。

「止まらないんだな。昼間はあんなに頻繁に止まってたのに」

「電車に乗る人がいないんだもの、止まるわけないよ。幼女さんだって、この時間には起きてない」

「誰かがあそこにいた気がしたんだ」

「……奇遇だね、私もだよ」

 クオンが頭を振った。

「消えるわけじゃないんだよね、暗闇の中のものは。私たちは目が悪いから、見えないだけなんだと思うよ」

 俺はまた、消えて行くレールに目をやる。ふと身を乗り出し、車両の進行方向を見た。こちらもこちらで、何も見えなかった。

「今……ひとつ決めた」

 俺が言った。クオンが俺を見た。

「決めた?」

「過去の自分に対する……まあ……けじめというか、なんというか……今更向かい合ったって、もう遅いのかもしれないけれど、でも……向かい合ってからじゃないと、何も選べない気がするんだ。誰とも向かい合えない気がするだ」

 握りしめた俺の手に、クオンがそっと手を重ねた。

「……じゃあ私も、頑張って見るね、私自身のこと。二人の約束にしよう。クオンくんに私の勇気を少しだけ貸すよ。だからクオンくんの勇気も、少しだけちょうだい」

 俺は拳を少しだけゆるめて、少しだけ握り返した。


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