その38「ようじょちほー」
「海上都市……?」
はい、とガイド幼女が頷いた。
「今、多くの人がそこで暮らしているんですよ」
「海の上ってことですか? この電車で行けるんですか?」
「電車じゃありません! 気動車ですよ! き・ど・う・しゃ!」
口を尖らせてガイド幼女が言う。
「もちろん行けます! 気動車はその気になれば空だって飛べるし、湖の水を飲み干すことだってできるんです。じゃーにーとぅーざすたーず、ですよ!」
宇宙まで行くのか?
「まあ信じようよ。不可能を可能にするのが幼女さんだし」
クオンが言った。その体を脇の下から抱き上げて、櫻宮薫子が膝に乗せた。
「な、なに?!」
「私の席が窓の近くじゃないですか。だからその……見たいかな?って思って」
「じゃあ席かわってくれたらいいよね?! なんで膝の上に?!」
「……さっきはすいません。無配慮に聞いてしまって……」
しゅんと、薫子が小さくなった。照れた様子で、クオンが窓の外を見る。
「別にいいよっ。先生にも、いつか伝えたきゃいけないって思ってたから。だから下ろして?」
「わ、私! 幼女さんたちのことはいまだに苦手ですけど! クオンさんのことはかわらずにペロペロできます! だからその……安心してくださいね?」
「安心できなくなったけど?! おろしてよ先生!」
「わびペロペロ」
「詫びる気ないでしょ?! おろせーー!! いいからおろせーーー!!」
「はあーーい、じゃあ止めてきますね〜〜」
おろせを『膝から』ではなく『気動車から』と勘違いした幼女ガイドが、とてちてと運転席へと去って行った。すぐに電車が止まった。
そこは荒野だった。アカシアの木がそこかしこに生えていた。
「ここは?」
「ここは幼女パーク。私は幼女の『ようじょ(幼女目幼女科幼女属ようじょ)』だよ!」
現地在住幼女(猫耳)が答えた。幼女がゲシュタルト崩壊しそうだ。俺は幼女ガイドのほうを見る。
「で、どこなんだここは。その海上都市には近づいているのか?」
「それはもうぐんぐん近づいていますよ! 年間1センチとか2センチとか」
「それはハワイ諸島が日本に近いってるって言う話だよな?」
現地在住幼女(猫耳)が止められたままの気動車に近づいて行った。
「すごーい! 何これ? 動くの?」
「あう……あ、はい、電車ですよ。線路の上を走るんです」
櫻宮薫子がしどろもどろに答えた。
「はしるんだ! とまれー! うごけー!」
「気動車ですよ、き・ど・う・しゃ! 最高時速は1000キロを超えるんですよ! すごいでしょう?」
「そうなんだ〜! さすがだね!」
「で! ここはどこなんだ?!」
大声で呼びかける。現地在住幼女(猫耳)が首を傾げた。
「だから幼女パークだよ?」
それがわからない。幼女ガイドがかわりに答えた。
「このあたりからはずいぶん昔に人間が撤退してしまったんです。彼女たちはここに人間を呼び戻すため、遊園地ごっこをはじめたんですよ。それが『幼女パーク』。すっごーい!」
「さっきから気になっていたんだが……その口調はいったい何なんだ?」
「……これみたいだよ」
クオンが向こうの方から歩いてきた。手になにやらパンフレットのようなものを持っていた。
「それは?」
「向こうに看板があって、そこにあったよ」
「何それ〜〜?! しらなかった! すっごーい!」
「パンフレットによれば、『合コン さしすせそ』だって」
さ さすが!
し しらなかった!
す すごーい!
せ せうゆ
そ そうなんだ〜!
合コン……?
地在住幼女(猫耳)を見ると、無邪気そうな顔が一変していた。
「ネタが割れちゃしょうがないし」
地在住幼女(猫耳)が頭の猫耳を投げ捨て、どこかへと去って行く。
「お、おい……どこに行くんだ……?」
「ここは私の『狩場』じゃなくなったし。別の観光客を探すし」
「なんだあいつ……」
「『ハンターようじょ』……決して群れない、サバンナの肉食女子ですよ」
「見て、日が暮れて行くよ。そろそろ電車に戻ろう?」
「き・ど・う・しゃ!」
ハンターが夕暮れの荒野をゆく。好奇心あふれる大きな瞳と、少なすぎる語彙力を武器にして。
彼女はいったいどこへ行くのだろう。別の人間にまた巡り会うことはあるのだろうか。
それと俺たちの気動車はいったいいつになったら目的地に着くのだろうか。




