その37「幼女栽培」
「この地方では、こうして春と秋に幼女を植えるのが習わしでして」
幼女ガイドが、気動車の窓の外を示して言った。帽子をかぶった農家幼女たちが、手のひらサイズの苗幼女を水田に植えていた。
「今はあれだけ小さな苗ですが、3ヶ月もすれば小麦色の麦幼女に育つんです。それはもう見事ですよ」
幼女ガイドが写真を見せてくれた。水田に無数の半裸の幼女が植わっていた。説明によれば、彼女たちの顔はつねに太陽を追うらしい。
「そう……なのか……」
相槌を打つのが精一杯だった。
西暦20XX年ーー世界はロリに支配されていた。
この異変が起きたのは今からおよそ30年前だと言われている。30年前に自殺した俺は、溺れて仮死状態になっていたところを幼女たちにコールドスリープで助けられ、この時代に蘇った。
いろいろあって治療を受けていた病院を追われた俺は、同じように病院から追われた元医者・櫻宮薫子、謎の幼女・クオンとともに人間の集落を目指しているところである。
気動車の個室で、俺たち3人と幼女ガイドは過ごしていた。
「それで、ここから人間の集落まではどれくらいかかるんですか」
櫻宮薫子が幼女ガイドに訪ねた。
「だいたい、1時間から2年間くらいです」
「はばが広いんだね……」
クオンは、あれから何も語っていない。病院での騒動で、彼女が『人間ではない』ことが明るみになった。だがそれで正体が判明したわけではない。
気にならない、といえば嘘になる。だが彼女から伝えてくれるまでは、この件に触れたくはない。それは櫻宮薫子も同じであるようだ。
「ところで……クオンさんって、アンドロイドなんですか? それとも幼女の一種?」
「おいちょっと待て」
前言を撤回する。櫻宮薫子がぶっこんできた。
「止めないでくださいトキワさん、これは重要なことなんです! 幼女なのか幼女でないのか?! 私気になります!」
「そうそう、育つと木になる幼女もいるんですよ」
「トキワさんだって、病院で知りたがっていたじゃないですか!」
途中ひどく気になる情報が幼女ガイドからもたらされたが、それはそれとして俺はクオンの顔色をうかがっていた。クオンはただの一度も自分の正体を語りたがらなかった。相応の理由があるのだとすれば、無配慮に聞き出したくはない。
「あの時は……気が動転していたんだ! 別にいいだろう?! アンドロイドだろうが幼女だろうが、クオンはクオンじゃないか」
クオンが寂しげに微笑んだ。
「いいんだ、トキワくん。もう二人には隠したりしないよ」
「クオン……」
クオンが俺たちに向かい合う。その膝を乗り越えて幼女ガイドが窓側に移動する。外が見たいのか?
「私はね、アンドロイドでも幼女さんでもないよ。もちろん、人間の女の子でもない」
「……え?」
「見てみて、窓の外。遠くの方に山が見えるでしょ。昔ね、あんな風な山の麓に、女の子がお母さんとお爺ちゃんと一緒に住んでいたんだ。でもあるとき大雨が降って……山が崩れてきた。女の子とお母さんは土に埋まって……掘り返されたのは女の子だけだった。でももう死んじゃっていたんだ。そこに幼女さんたちがやってきて、女の子の心を彼女たちがつくった入れ物に移しかえたんだ」
「それが……君なのか、クオン」
クオンが頷いた。薫子がうつむいた。
「あの……ごめんなさい……」
「あやまらないで。もともと……隠そうと思って隠していたわけじゃないし」
「それじゃあ君も……幼女たちに命を救われた人間なのか。その……俺や櫻宮先生と同じように?」
「そうなるね。でも私はもう人間じゃない。何なのかと言われると……わからないけれど」
俺は、今窓の外を眺めている一人の幼女を見る。何を考えているのやら……。
「あぁーー見てください、あれが『幼女の大木』ですよ」
幼女ガイドが興奮気味に言った。見ると、異様に巨大な幼女が地面から生えていた。両腕を朗らかに広げ、アルカイックスマイルで大地を見下ろしていた。なんだあれは。
「なんだあれは」
「『幼女の大木』です」
「うん、それは聞いた」
「降りて見て見ましょう! 私、運転手さんに言ってきます」
「え? いや別に……聞いてるか?!」
幼女ガイドは個室を抜け出し、運転席へとかけて行った。ものの数分とせず、気動車が止まる。
「これが『幼女の大木』です」
近くまで来ると、改めて大きい。幼女ガイドも心なしか誇らしげだった。
「おおきいねえ!」「やさしそうなかお!」「100めーとるくらいあるよ!」
気動車からぞろぞろと幼女が降りてきて、めいめいの感想を言い合っている。100メートルは大げさにしても、ちょっとした街路樹よりは明らかにサイズが大きかった。
「幼女って……こんなに大きくなるものなのですか……?」
櫻宮薫子があきれたように言った。
「よくぞ聞いてくれたけえの」
背中をまるめた幼女老人がやってきた。
「この地方では昔から、幼女栽培が盛んじゃった」
幼女栽培って何?
「そうなんです! 私から詳しく説明しましょう」
ガイド幼女が奮い立った。
「このあたりの土地は、大昔……今からおよそ2億年以上前は女子校だったと言われています」
「大きくでたな」
「それが地殻の隆起により、長い年月をかけて地表付近にまで押し上げられたんです! だからこのあたりの土壌は児童分が豊富で、苗幼女の発育もよく、G○○gle等の検索よけにもひっかかることがないんです。この大木も、そんな栄養豊富な土壌だからこそここまで育ったんですよ」
幼女の謎は深まるばかりであった。
助けを求めるようにクオンに目をやると、彼女は残念そうに頭を振った。
『私にもわからないよ』
幼女の大木がおだやかな笑顔で見下ろす昼下がりであった。




