その33「ANTI-LOLI⑥クオンの正体」
言葉にならない。否、言葉にしないことで『過ぎ去ってほしい』と願った。トゥインクルは言った、「自らがこの惨劇を招いたのだ」と。嘘であってほしい。何もかも悪い冗談で……LO-426が死んでしまったことも……トゥインクルがあの男たちを手にかけたのであろうことも、全て俺の見ている幻なのだということにしてほしい。
それが叶わないというならば、せめて今、何も語らず何も考えず、呆然とすることを許してほしかった。だがそのわずかな望みも、トゥインクルの言葉で断たれた。
「私の使命を思い出してしまった今、LO-426の身体をそのままにしておくわけにはいかなくなりました」
トゥインクルが近づいてきた。
「『お父様』の望みは、人間の手で作られたアンドロイドの抹消ですわ……。その亡骸は、私が回収します」
俺はLO-426の体を抱き寄せる。渡せない。渡すわけにはいかない。
「ずっと……俺たちを騙していたのか」
「『お父様』は周到ですわ。私のプログラムが発動したのはANTI-LOLIがここを襲撃してから。あなた方も、私自身も、全て『お父様』の脚本通りに動いているにすぎなかった……」
トゥインクルはすでに俺の目の前にいる。その手のひらがLO-426に向けられた。
「人間、あなたもそこをどいてください。"そのアンドロイドと運命をともに"したくないのであれば……」
「やめてっ!」
クオンが、トゥインクルの腰にすがりついた。
「お願いだからやめて! プログラムがなんなのかなんてわかんないけど、こうなる前のトゥインクルさんだって、こんなこと嫌だったはずだよ! お願いだから元のトゥインクルさんに戻って!」
「……実は前から疑ってはいたのですけれど、今抱きついている腕の温度で確信がもてましたわ」
トゥインクルが、機械的に言い放った。
「クオンさん、あなた『人間ではありませんね』」
トゥインクルがクオンを見た。クオンが思わず抱きついた手を離し、後ずさった。
「クオンさん、あなたは今まで直接的な体の接触を避けようとしていましたよね。私からはもちろん……そこの人間からも……それはあなたの『低すぎる体温』を隠すためですわよね?」
俺は思い出す、瓦礫から俺を救った時のクオンの手の温度。あれはたまたまそういう温度に冷えていたわけではなかったのか。思い返せば、クオンが俺に触れたことはほとんどなかった。あっても、俺が極端にうろたえていた時だけ……まともに判断できる状態ではない時だけだった……。
そして何より、さきほど聞こえたテロリストたちの会話。
「侵入者3名! うち2名には体温なし!」
侵入者3名とは、当然トゥインクル、薫子、クオンだったはずだ。うち2名には体温がなかったーー体温がない1名はトゥインクルで間違い無いし、薫子には確実に体温があるとするとーー答えはもう、一つしか導かれない。
「クオンさん、あなたも『アンドロイド』ですわね」
「ち、ちがうよ……そんなんじゃない……」
「『お父様』以外がつくったアンドロイドは排除する。それがプログラムですわ」
トゥインクルがターゲットを変えた。その手をクオンに向けた。
俺は怒りに任せてその腕をつかんだ。
「なんですの」
「俺も確信が持てた。お前はもう……俺たちの知っているトゥインクルじゃない。トゥインクルが! 仮にも幼女に手を向けるなんてあり得ない!」
体がふわりと浮いた。次の瞬間には、俺は何かに叩きつけられていた。衝撃で息が止まりそうになる。トゥインクルが俺の腕ごと、俺をつかんで放り投げたらしい。
「私は私ですわ」
トゥインクルが言ったが、もはや耳を貸す余裕はなかった。俺の耳元でささやき声がした。
「今のうちに逃げよう、トキワくん」
俺を支えていたのはクオンだった。トゥインクルがクオンのほうに俺を放り投げたのか。
そして俺を受け止めてしまえるのか、クオン……。
「いや、だけどLO-426はーー」
「トキワさん、残念だけど抱えて逃げる余裕はないと思います」
櫻宮薫子が言った。
「私も……同意見」
クオンも言った。しかたなく小さく頷き、体勢を整えた。だがどうする? 逃してもらえるのか? 逃げたところでANTI-LOLIの残党に捕まる可能性は?
考えていると、不意に建物に揺れが走った。揺れはどんどん大きくなり、おさまる様子がない。建物が崩れ始めているのか。トゥインクルの注意も、揺れの方に削がれた。俺は立ち上がった。
「走るしかない!」
俺たちが部屋を抜けたのとほぼ同時に、部屋の入り口が押しつぶされた。




