その31「ANTI-LOLI④銃声」
俺とLO-426は、静まり返った病院を進んでいた。
「ここだな」
LO-426が言った。旧霊安室。今はコールドスリープの人間たちが眠る部屋。
ここで俺や櫻宮薫子は30年近く眠っていたのである。そして今もなお、数名の患者が冷凍されていた。
「具体的にどう連れだすんだ、この人たちを」
「連れだすわけではない」
LO-426がかぶりを振った。
「どういうことだ?」
「こんな大きさのものを持ち出せるわけがないだろう? 担いでいくとでも?」
「いや、それは確かにそうなんだが。どうするんだ?」
「何、ここを閉鎖するのだ」
こともなげにさも当然のように、LO-426は言った。
「閉鎖?!」
「そうだ。わかると思うが、この水の中は実際には『少し現実世界とずれている』幼女空間なのだ。だからこそこの水の中では……いや水のように見えているだけで水ではないのは明らかだと思うが……息ができたり、思考が周囲に反映されたりするわけだが……現実世界とのずれを、今よりも大きくすればいい。そうすれば、現実世界からこちらへ干渉することも、侵入することもできなくなる」
つまり、今の攻撃から完全に身を隠すことができるということか。しかしそれでは……
「これでわかったな? なぜ『私の答えは変わらない』と言ったのか。私はここに残るのだ、これから永い間。外が静かになればまたこの世界にも戻ってくるだろう。しかしそれがいったいいつのことなのか、戻って来てなお人類が生き残っているのか、それはわからない」
俺は拳を握りしめた。
なぜ? なぜそうまでしてーー
不意に水が震えた。思考は強制的に中断され、続いてもう一度大きく震えた。俺の目の前で、ゆっくりとLO-426が倒れていく。
「動くな。動けばそのアンドロイドと同じになる」
迷彩服の男達が部屋の入り口に立っていた。男たちの手にはライフルが握られていた。俺は凍りついた。判断が麻痺をした。それでも言いようのない憤りが、腹の底から湧き上がって来ていた。
殺したのか、こいつらは? LO-426を、俺の目の前で?
「なんだ……なんだあんたらは。なんで撃った……」
「このゴーグルは熱源を感知できる。だからアンドロイドか人間かの見分けはつく」
「そうじゃない! なんでLO-426を撃ったんだと聞いているんだ!」
「誤解があるようだな? 我々は君たちを助けるために来たんだ」
男の表情はゴーグルごしでわからなかった。しかし声は落ち着いていた。
「ここに『連中』が集結を始めていたことはわかっていた。そのアンドロイドが随分前から『連中』に肩入れしていたこともな……。『連中』は我々人間をたやすく洗脳する。アンドロイドすら機能が捻じ曲がってしまう。君も危ないところだったな」
「ふざけるなよ……あんたらか?! あのミサイル攻撃は?! 俺たち全員を殺しかけて、LO-426を殺しておいて、助けに来た?!」
発砲。俺の足元のタイルが吹き飛んだ。
「……次は当てるぞ。いいか? 『連中』は我々人類を滅ぼそうとしている元凶だ。それが集結して何かを企んでいるとなれば、こちらとしても見過ごせない。そのために少々の犠牲が出るのは止むを得ない。だがこの病院は攻撃しなかった。我々とて、無意味な犠牲は避けているのだ。わかっただろう、さあ一緒に来ーー」
「隊長! 廊下奥より侵入者あり!」
男達があわてて廊下に飛び出して行った。俺は倒れたLO-426に駆けつけた。
「侵入者3名! うち2名には体温なし!」
「人間は極力狙うな! もう2人を撃て!」
LO-426が小さく唸った。まだ生きている! 死んでいない!




