その30「ANTI-LOLI③人類解放同盟」
『尊厳ある絶滅』、それがカルト集団『人類解放同盟《ANTI-LOLI》』の目的。LO-426の語った言葉が、俺の記憶の中をかき回していた。水が俺の動揺を勝手に反映し、周囲の景色が変わった。
水の中に摩天楼が現れた。疲れ果てた一人の男が、歩道を歩いて向かって来ていた。向かう先には橋がある。俺の後ろには俺が入水した橋があるーー
「違う!!」
俺はかぶりを振った。俺は違う。俺に限って、そんなはずはない。頭に浮かんだその最悪な可能性を、俺はすぐさま否定した。
「さあ、着いたぞ」
LO-426が言った。目の前に水中のエントランス。病院の正門にたどり着いていた。
俺たちの頭上、水面はすでに日が落ちたのか黒々としていた。そして静かであった。
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「クオンさん、あなたに聞きたいことがあるんです」
トキワと別れてすぐ、私は切り出した。私はこの後、トキワとLO-426のところへ戻るつもりではあったが、その前に確かめなければいけないことがあったのである。
「さっきクオンさんは、『あいつらは本当に殺す』と言いましたよね。知っているんですね、この街を……幼女たちを攻撃した連中の正体を」
「……ANTI-LOLI」
アンチロリ……反幼女?
「ううん、正式には人類解放同盟。でも私たちはANTI-LOLIって呼んでる」
「なんですか、それは」
「人類を幼女の支配から解放するためなら、連中は何だってするんだ。幼女を攻撃し、その近くに他の人がいてもおかまいなし。だって連中にとっては、幼女のまわりにいるような人間も幼女の仲間だから」
「それは……幼女が人間を絶滅させる存在だから?」
「そう。……幼女に滅ぼされるくらいならば、人類とともに幼女を滅ぼす。それすらできないのであれば、滅ぼされる前に自分たちで人類を滅ぼす」
なんだそれは。完全に本末転倒ではないか。
「……ふざけた連中ですわね……」
トゥインクルの声は静かだったが、明確な怒りが感じられた。
私はといえば、あらためてこの場から逃げるのが最善という認識だった。聞く限り話が通じそうな相手ではない。逃げるならば、一刻も早くトキワとLO-426を捕まえなくてはならない。たとえ二人がそれを望まないのだとしてもだ。
私を死のまどろみから目覚めさせたのはあの男なのだ。
私を置いて、自分だけ死の世界に戻るつもりか?
「……もうひとつ、いいですか」
私はかねてよりの疑問を聞こうと思った。
「クオンさんはーー」
トゥインクルボートが急速に旋回した。遠心力で私とクオンは船体に押し付けられた。
「トゥインクルさん?!」
トゥインクルは答えず、どこかへと向かっていく。病院の上空から、1機のヘリコプターがゆっくりと降りて来ていた。
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病院の中。俺とLO-426は、違和感に神経をとがらせていた。
「幼女がいない」
LO-426が言った。確かに、さっきまであれだけうるさくせわしなく騒ぎ回っていた幼女たちの姿がどこにも見当たらなかったのである。
「とにかくいこう。この病院に残っている人間……コールドスリープ状態の人間を全て助け出せれば、LO-426もここから逃げられるんだろう?」
「……トキワ、もしかして君は私をここから連れ出すためについて来たのか?」
「それは……」
「私の答えは変わらない。そのつもりならば君はここから逃げた方がーー」
「にげたほうがいい」
俺たちの目の前に、一糸まとわぬ幼女があらわれた。金髪碧眼。妖精のごとき白い肌。その表情は幼女と思えないほど無機質で、不気味で、美しかった。
「今、上でカレルレンたちが足止めをしている。しかしじきこの階にも降りてくるだろう。人間に我々は殺せないが、我々も人間は『殺さない』」
幼女が言った。殺せない、ではなく『殺さない』か。
「だが人間は人間を殺す。我々にとっても、それは不利益だ」
「生憎だが、私は人間ではない。私よりも大切なものがあるのだ、すまないがそこを通してはくれないか」
「……通るというなら、止めはしない」
LO-426が進んで行った。俺はその後を追った。
「君も行くのか?」
俺は答えなかった。なぜ進むのか、俺自身にもよくわかっていなかった。
だが進まなければ、後悔する。その確信だけが、なぜかあった。
俺は今、死に向かっているのか? これはゆるやかな自殺なのか? いや、と俺は頭を振る。違う、そうではない、確かに、死ぬかもしれない。だが二人で生き残る、かもしれない。なによりも、俺はLO-426に対して静かに怒っていたのである。




