その28「ANTI-LOLI①ルビコン川を渡る」
もしそのとき俺に意識があったのなら、上空に多数浮かんだ『ロリ人間コンテスト実行委員会』の船に、雨あられのごとくミサイルが着弾するのが見えたはずだ。船は粉砕され街に落ち瓦礫の山になったーーかつての人間の街と共に。
冷ややかな手が俺の顔に触れて、俺は目を覚ました。瓦礫の屋根に瓦礫のベッド。足元には街を覆う水が波打つ。そこは瓦礫で偶然生まれたビーバーのダムのような空間だった。
ほっとした顔の幼女が目に入ってきた。
「良かった! 無事だねっ、良かった!」
「クオン……いったいーー」
はっとして俺は、俺の頬に触れたクオンの手を見た。クオンが慌てて俺から手を離した。
「ミサイルだよ……多分、幼女が集まるのを待ってたんだ!」
「幼女を狙っているのか?! なんで?!」
「……きっとロリコンだからですわ」
すぐ近くでトゥインクルの声がした。瓦礫の山を押しのけて、トゥインクルが空間に入ってきた。肩には櫻宮薫子が担がれていた。
「なるほど。ロリコンだから『幼女を狙う』と」
瓦礫の中から声がした。一糸まとわぬLO-426が這い出てきた。乳房はあったが突起はなかった。なるほど、改めてアンドロイドだということがよくわかった。だが何故服を着ていないかは謎である。
「……笑えない冗談ですね、トゥインクルさん……」
櫻宮薫子が、静かに言った。
「死人が出ますよ……こんなやり方! 私たちが全員無事なのが、不思議なぐらいです」
「私たちが今無事なのは、幼女達が私たちを守ったからだよ。それに人間に幼女は殺せない、だから今は私たちの安全を考えないと!」
クオンが言った。
人間に幼女は殺せない……?
「とにかく! 一刻も早く街から脱出すべきですわ。上空の船は全て破壊されたようですから、もし第二波がくれば次は直接着弾します」
「それがいいよ! 早く行こう!」
トゥインクルが親指を自らの胸に押し当てた。
「トゥインクル・変・形! とうっ」
トゥインクルがまばゆい光に包まれた。光で良く見えないが服が消しとんで、頭部が胸部に収納、手足がゴムのように伸び縮み、脚部が腰を回転軸にありえない方向に180度ほどたたまれて、次の瞬間にはトゥインクルはボートになっていた。原理は不明。
『変形完了! トゥインクル・ボート!(アーレア・ヤクタ・エスト! クロス・ザ・ルビコン!) さあ、私に乗ってください!』
トゥインクルの声と謎の効果音が、ボートの正面左右に配置されたコンパクトスピーカーから聞こえてきた。ステレオサラウンドだった。
クオンが真っ先に乗り込んだ。櫻宮薫子が続いて乗った。
『あ、クオンさんと薫子は席を替わってください。前が薫子、後ろがクオンさんでお願いします』
「……え、なんで?」
クオンが訝しげに訊ねた。
「前の方が危ないからです! 何が起きるかわからないんですからね、安全が一番! 薫子も賛成ですよね?」
「まあ……クオンさんが安全ならば、その方がいいですね」
と言って、クオンと櫻宮薫子の席が入れ替わった。
『わーい完璧な位置! はぁはぁ』
その席は……安全なのか? むしろ危険ではないのか?
疑問が頭をよぎったが今は時間がおしい、俺もボートに足をかけた。
一人、動かない女がいた。俺は振り返って声をかけた。
「乗らないのか?」
「私は、この街を出るわけにはいかない」
『何を言っているんですのLO-426?! 危険すぎますわ!』
「病院が心配なんだよ。あそこにはまだ、コールドスリープの人間達が残っている。私には彼らを守る責務がある。私は医療従事用アンドロイドだからな……」
『だからなんだというのですの?! まずは自分が生きるか死ぬか! 違いますか?!』
「仕事が優先だよ、そのために作られたんだ。それにそもそも前提が間違っている……私はアンドロイドだ。生きているわけではない」
『ふ……ふざけないでください! あなたは……自分が何を言っているのかわかっていますか?!』
LO-426は何も答えなかった。
『……いいですわ! そんなに仕事と心中したいならそうなさればいい! 私たちは逃げますわ!』
トゥインクルボートの後部エンジンがうなりだした。
『早く乗ってください、トキワさん!』
俺は、ボートにかけた足を下ろした。
「何をしているんです、トキワさん?!」
「ダメだよトキワくん! 本当に殺されちゃうよ!」
クオンが懇願するように叫んだ。
「あいつらは、本当に殺すんだよ?!」
「……すまない」
俺は、一歩下がった。
上空からヘリコプターらしき音がした。
『もう行きます! 勝手にしなさい!』
トゥインクルが動きだした。クオンが身を乗り出して俺に手を伸ばした。櫻宮薫子が、落ちそうになったクオンに抱きついて止めた。トゥインクルのボート先端に傘のようなパーツが開いて、瓦礫を押しのけて去って行った。




