その22「幼女こわい」
病院に幼女が増えた。
黒の幼女は海賊幼女達、見た目に違わず粗暴が悪く、部屋をちらかしても平気な顔である。元からいる病院の幼女達、相変わらずマイペースで、部屋を散らかしても平気な顔である。病院上空に停泊している円盤から来た近未来的幼女の一団(自称『ロリ人間コンテスト実行委員会』たち)、傲慢不遜で部屋を散らかしても平気な顔だった。
「うーん、これじゃあ当分お掃除にならないなぁ……」
クオンが頭をかかえた。
「まあ、できるところだけでもやるしかないんじゃないか」
俺が言った。クオンがぱっと目を輝かせて俺を見た。なんだ?
「そうだねっ! そうしようじゃないか!」
「なんだか急に嬉しそうだな……」
「そりゃそうさー」
クオンがしみじみと腕を組む。
「……変わったよね、トキワくんもずいぶんと」
「そ、そうか?」
「うんうん、いい感じだよ……いい感じ……」
「……なんだかいい雰囲気ですね……?」
どこかから静かな声がした。俺たちは慌ててあたりを見回した。
「今の……櫻宮先生の声か?」
「うん、そうだったね。そういえば今朝から姿が見えないけど」
幼女が増えて、櫻宮先生の姿が見えない。悪い予感しかしないのだがそれは。
「……探してくる」
俺が言った。クオンがうなずいた。
「私も! 手分けしようか」
二手に分かれた。
分かれてすぐに見つかった。廊下の曲がり角のすぐ先に彼女はいた。
「うわっ!」
思わず声を上げてしまった。言い訳をさせてもらうと、幽霊か何かのような雰囲気だったのである。
「……あの……トキワさん」
「は、はいなんでしょう」
思わず敬語になってしまった。
「匿ってくれませんか」
「……はい?」
「幼女が怖いんです」
「…………はい????」
幼女っけのない手術室に俺たちは来た(幼女っけってなんだ。自分で思っておいて自分でうんざりする造語だ……)。
血を連想させるこの部屋には、さしもの幼女達も近寄らないらしい。可能であれば俺も近寄りたくなかった。
休憩用の簡易的な丸椅子に俺たちは座った。お互いそっぽを向いていた。向かい合うのはなんとなく避けた。
「……私、実は昔はその……ちっちゃい子が好きだったんです」
「ああ……うん……」
相槌を打つので精一杯だった。
「ですが……『幼女』達が現れて、何もかも変わってしまいました。あれは人間の子供ではありません。あなたもわかっているとは思いますが」
「それはまあ、わかっているが」
「彼女達は……無邪気です。無邪気で……穢れがない。そんなものは生物じゃないんです。私はそれが……不気味でたまらなくて……」
不気味。その視点で見たことは、そういえばなかった。
人間に似て非なる何かが世界にあふれていく。自分が好きだったものに姿形『だけ』が似ているものが、日常を侵していく。そう考えると……
「それは……きっついな……」
相槌を打つのが精一杯だった。
そのつらさを、俺がどうすることができるとはどうしても思えなかったのだ。
「……でも……いつまでも、逃げてはいられないですよね……逃げてはまた……冷凍されてたことに逆戻りですもの……」
櫻宮先生が立ち上がって、俺の目の前に立った。こう目の前で見ると、意外と背が高い。
「トキワさん。あなたは責任をとるべきです」
「……責任?!」
思いもよらぬ言葉に、俺はむせかえった。
「そうです。この地獄みたいな幼女世界に、私を呼び戻したのはあなたなんですから。私、冷凍睡眠中にあなたがそばにいたこと覚えてますよ。寝てる私にあんなことこんなこと」
「してない!」
「話してくれたから私は目を覚ませたんです。責任を取るべきだとは思いませんか……?」
櫻宮先生が俺の両肩に手を置いた。俺は思わず俯いた。
「せ、責任って、な、なにを」
声が裏返った。なんだ。なんなんだ。
「わ、私とその!」
彼女もここに来て声を詰まらせた。
「私とあの……」
次の言葉までが長い。俺は唾を飲んだ。
「私と……私に協力してください。ロリ人間コンテスト……私は優勝します……優勝して、幼女の秘密を暴くんです。その手伝いをしてください!」




