その20「クオンの眠れない夜」
幼女クオンは狙われていた。
「クオンたんかわいーですわ〜〜!!」
トゥインクルがクオンに迫っていた。
「わ! 寄らないで!」
クオンが俺の背中に隠れた。
「ちっ! またその男にべったりですのね!」
ぬっ、とトゥインクルの後ろからLO-426が現れた。
「彼女は今仕事中だ。悪いが邪魔はNGだよ」
426が、ポンとトゥインクルの肩に手を乗せた。
「幼女ならば私の部屋にもいる。一緒に来て幼女を愛でよう?」
一瞬お前を見直そうとした俺が馬鹿だった。
夜。
俺の寝床になっている病室に、布団を抱えたクオンが入って来た。
「今日はここで寝るとするよ」
「……トゥインクルがいるからか?」
「それとあの先生もね……」
クオンが抱えた布団を持つのを手伝って、俺のベッドの足元付近に敷いた。
「普通に空いているベッドで寝ればいいのに。空いているんだから」
「この方が落ち着くのさ。昔からそう」
この時代に目覚めてから、俺は随分眠りにつくのが早くなった。時間に縛られるということが無いのだから、別にいつまで起きていてもいいのだが、朝クオンが起こしにくる時間はだいたい決まっているし、何より起きていてもすることがない。テレビも雑誌も、もう今の時代にはないのである。
だが今日は違った。
布団に入ったクオンが、小さな声で口ずさみ始めた。
小人の子供が遊びに出たよ
左の道には小人のお墓
いろんな形のいろんなお墓
小人の子供もそのうちお墓
「……前から思っていたけれど、ずいぶん世知辛い歌だなそれは……」
右の道、後ろの道、左の道ときた。俺は尋ねた。
「その歌、まだ続くのか」
「続く、と思う」
「思う?」
「知らないのさ、この歌の続きを」
「知らない?」
「お母さんの歌なんだ。私はただ、聴いて覚えたの」
一つずつ荷物を置くように、クオンが語り始めた。
「お母さんは、よく歌う人だった。歌の内容は、私にはよく分からない内容ばかりだったけど、とにかく歌が好きな人だった。私たちのお家はね、ここからずいぶん遠くにある農村で、私とお母さんと、お母さんのお父さんと一緒に暮らしていたんだ」
ふと、畑の中で歌を歌う1人の女性と、それを聴いているクオンの姿が目に浮かんだ。
「天真爛漫な人でね……一緒にいると、いつも笑わせてくれたっけ……私もいつか、あんな風に誰かを笑顔にしたいって思ってさ……」
「だから、この病院でアンドロイドの手伝いをしている?」
「うん、まあ、そゆこと」
聞きたいことが、山ほどあった。だがそれを、聞いていいのかはわからなかった。
「なあ、あのさ……」
「うん」
「その、お母さんって、今は」
「死んじゃった。私がまだ小さい頃に」
「そう、なのか……」
俺は後悔した。何を聞いているんだ、俺は。この子に、つらいことを思い出させて……。
「……ごめんね。ずるいことしちゃった。この話をしたら、トキワくんがお母さんのこと聞いてくれると思ったんだ」
クオンが寂しそうな声で言った。
「聞いて欲しかったんだ……私、弱いから、自分だけじゃ抱えられないから……」
「……弱くなんてない、すごいよ、クオンは。俺なんかよりずっと……なんというか、大人だよ」
「えへへ、ありがと。そう言ってくれると……思ってた」
クオンはまた、寂しそうに呟いた。
夜が更けていった。
夜はずいぶんと長かった。




