イリア皇妃殿下の心
勉強以外にも、ジルド皇太子に着いて行き、彼の傍で色々と学ぶ。
ライバルのはずなのに、ジルド皇太子はサーシャに色々と教えてくれるようになった。
帝国に接している五か国の事を更に、詳しく外務担当と共にジルドから教わって、サーシャは、ジルドの知識の広さに、叶わないと思った。
弟は優秀だわ。わたくしは勝てない。
傍にいればいる程、遠く感じる。
ジルドが皇帝になるべき。わたくしは女帝になれなくても、出来る事があるはず。
イリア皇妃に改めて夕食後に、面会を求めた。
皇妃の部屋で、サーシャは、
「わたくしは女帝になるのは無理です。でも、皇族として、この帝国の為に役に立ちたいと思っております」
「我が派閥の為にも貴方には女帝になって貰おうと思っていたのに。まぁいいわ。ジルドから話があったの。わたくしの派閥との対立を終わりにしませんかと。そして、ジルドの婚約者は我が派閥の令嬢が務めることになったわ」
「それはどなたですの?」
「レティシア・パレント公爵令嬢。歳は23歳で皇太子殿下より年上になるけれども、彼女は優秀よ。貴方もよく知っているでしょう」
レティシア・パレント公爵令嬢は一般知識をサーシャとユリウスに教えてくれる皇宮の教師だ。
彼女は教育に情熱を注ぎたいと、皇立学園の教師になることを目標としていた。
それを、イリア皇妃が一年間の約束で、サーシャの教育をするために皇宮に来て貰っているのだ。
厳しいレティシア。でも、彼女は真剣にサーシャとユリウスに知識を叩きこんでくれた。
「レティシア先生なら身分も教養も相応しいですね」
イリア皇妃はサーシャに、
「だから、貴方は皇族として、しっかりとデルト皇帝陛下や、ジルド皇太子殿下の役に立って頂戴。いいわね」
「承知致しました」
イリア皇妃は、ぽつりと、
「ところで、聞きたい事があるのだけれども」
「何でございましょう」
「妹のレティアは、亡くなる時の様子はどうだったの?」
母が亡くなる前、うわごとのように、皇帝陛下の名前を……
サーシャが13歳の時に亡くなった母レティア。
「皇帝陛下の名前をずっと呼んでおりました」
「そう……」
「でも、最後に、お姉様、ごめんなさい と、それが最後の言葉でした」
イリア皇妃は微笑んで、
「嘘でも嬉しいわ。あの子はね。幼い頃は可愛かったのよ。わたくし、妹が出来て嬉しかったの。花冠をお庭のお花で作って、被せてあげて。あの子はとても喜んでくれた。ああ、いつから憎まれるようになったのかしら。わたくしが皇帝陛下の、当時の皇太子殿下の婚約者になってから?あの子、ずっとデルト様は素敵だって言っていたから……」
そして、扇をテーブルに置いて、
「わたくしはベリス帝国の為にも、皇帝陛下と結婚する必要があった。妹では皇妃は務まらなかったから。でも、皇帝陛下のお心はずっと、妹の傍にあるがまま……亡くなってからもずっとずっとずっと……わたくしが皇帝陛下と結婚したのは間違っていたのかしらねぇ」
雨が降って来た。
サーシャはイリア皇妃に向かって、
「それでも、皇妃様は帝国の為に必死に働いてこられました。帝国民達は皇妃様の働きを感謝していると言っておりますわ」
「そうね。そうよね……そうでなくては、わたくしは妹に憎まれながら、デルト皇帝陛下と結婚した意味がないわよね。さぁ、もう部屋に戻りなさい」
サーシャは一言、
「本当に、お母様は最後に皇妃様に謝罪を言って亡くなりました。どうか母の亡くなる前の言葉を受け取って下さいませ」
イリア皇妃は何も答えなかった。ただただ窓の外に視線を向けて、雨を見つめていた。
ドアをそっと閉め、廊下に出て、サーシャは思った。
ユリウスが廊下で待っていてくれた。
二人で外は雨の降る静かな廊下を歩く。
廊下に設置されている蝋燭がゆらゆらと薄暗い廊下を照らして。
ユリウスに向かって、
「ねぇ。明るい事を言ってよ。わたくしの気持ちをいつものごとく引き上げて」
「サーシャは私の事をどう思っている?婚約者として考えていてくれるのか?」
「わたくしは皇族よ。好き嫌いだけで結婚出来るとは思えない。でも、わたくしにとって、貴方は必要だわ。いえ、傍にいることが当たり前になっているの。そうよ。わたくしの婚約者は貴方しかいないわ。ユリウス。わたくしと結婚して頂戴」
ぎゅっとユリウスに抱き締められた。
「嬉しくて。いいのか?こんな私のような男でも」
「わたくしの傍にいる為に、騎士団長を辞めたのでしょう。責任を取ってあげます。ユリウス。わたくしと結婚して」
ユリウスに口づけをされた。
心から幸せだとそう感じた。




