朝斗と真澄 ③
週末は、天気も良く最高の文化祭日和だった。
朝斗の体調も問題はなく、俺たちは学校の近くまでタクシーに乗り、そこから歩いて校門へ向かった。
「朝斗君のクラスは何やってるんだ?」
「うちのクラスは展示」
「展示?」
「そ。絵とか書とか、あと、音楽が得意な子は、曲作ってそこで流してる」
「へえ⋯⋯」
それはなんていうか、こう言ったら悪いが地味だな。
一瞬、もしかして朝斗がみんなと同じように参加出来るように、こういった出し物になったのだろうかと考える。
俺が思っていることが伝わったのか、朝斗が軽く肩をすくめた。
「別にうちのクラスだけじゃなくて、3年はどこもそんな感じ」
「そうなのか?」
「うん。受験勉強あるから、有志の子だけでやるか、全員参加でもうちみたいに準備も楽で、当日の当番とかもいらないことやってる」
「なるほど」
あくまで受験勉強の息抜き。その代わり、去年はかなり派手にやったらしい。
「体育館で演劇やったんだけど、途中で役者が体育館を抜け出して、校内走り回って中継で繋いで、その場にいた人をアドリブで巻き込んだりした」
「すごいな」
なかなか楽しそうだ。そんな感じだから、今年も2年生の出し物は期待出来るらしい。
校内に入ると、まずは朝斗のクラスに向かう。
「朝斗! 良かった、来られたんだな!」
「うん。準備手伝えなくてごめん」
「全然大丈夫! 大してやることなかったし。そちらは?」
「俺の主治医の先生」
朝斗が俺を軽く紹介してくれる。俺は差し入れのお菓子を朝斗の友人に渡した。
「これ、良かったらみんなで食べて」
「わあ! ありがとうございます!」
「先生ありがとう。ごめんね、気遣わせちゃって」
「そんなんじゃない」
大人として、ちょっと子どもたちにカッコつけたかっただけだ。
「主治医の先生って、なんか格好いいな」
「どういう意味? 先生がイケメンって意味?」
「いやそうじゃなくて」
聞こえてきた会話に聞き耳を立てる。朝斗の問いにちょっと期待したが即座に否定された。なんだよ。
「主治医がいるっていうのが、なんか格好いい」
「なんでだよ」
朝斗が楽しそうに笑う。その笑顔を見られただけで、今日ここに連れて来られて良かったと思った。
話も落ち着いたところで、俺は展示されている絵や書に目を向ける。朝斗の作品もあるのだろう。どれだ?
「朝斗君のはどれ?」
「探さなくていいから」
「いやいや。絵? それとも書?」
「ノーコメント」
ヒントも出してくれないらしい。作者の名前が書いてあるわけでもないので、本当にどれかわからない。
「当たったらちゃんと教えてくれよ?」
「まあ、当たったらね」
俺は1枚ずつ順番に見ていく。小児科とかなら、病室で絵を描いてる子も多いから、なんとなくわかったりもするが、高校生はあまりそういったこともないから難易度がかなり高い。
ゆっくりと眺めていると、ふと、1枚の絵が目に止まる。吸い寄せられるように、俺はその場で立ち止まった。
真っ青な空を、白い鳥が飛んでいる絵だった。
隣に立った朝斗の視線を感じたが、俺は絵から目を離さないまま呟いた。
「⋯⋯これか?」
「⋯⋯⋯⋯なんでわかるの?」
少し長い沈黙の後、朝斗が不満そうに唇を尖らせる。
わかったわけじゃない。これだったらいいなと思っただけだ。意味もなくただ、好きだ、と思った。
「この絵、文化祭が終わったらどうするんだ?」
「普通に持って帰るけど」
「買えないのか?」
「画廊じゃないから」
残念だ。朝斗はどこかに飾るつもりなのだろうか。
「先生欲しいの?」
「欲しいって言ったらくれるか?」
「⋯⋯考えとく」
そう言って目を逸らした朝斗は、少し顔が赤くなっていた。




