朝斗と真澄 ②
「ねー先生、お願いがあるんだけど」
いつもの通り朝斗の問診に行くと、開口一番そう切り出してきた。
「なんだ?」
「外出許可、出して?」
外出許可?
急にどうしたんだと話を聞くと、どうやら今週末に学校の文化祭があるらしい。
「文化祭か。親御さんは?」
「来れないって」
「そうか。うーん」
ここ数日は調子も良さそうだし、週末までこの様子なら、付き添いがいるなら問題はない。ただ、1人で外出はな⋯⋯。
俺は悩みつつも自分のカレンダーを確認し、頷いた。
「わかった。当日まで今の状態ならいいぞ」
「ほんと?」
「ただし、文化祭には俺も一緒に行く」
「先生が?」
運よく週末は休みになっている。俺も付き添うことを条件に、外出許可を出そう。
そう言うと、朝斗はパッと顔を輝かせた。
「やった! ありがとう先生」
「まだ確定じゃないからな。当日まで無理しないこと」
「はぁい」
朝斗にとっては高校最後の文化祭だ。なるべく参加させてやりたい。
俺は楽しそうに文化祭の話をする朝斗に、時間が許す限り付き合った。
✦✦✦
すっかり遅くなってしまったなと思いながら、家路を急ぐ。外からマンションの自室を見ると、明かりはついていないようだ。真澄はもう寝てしまったのか、それとも帰ってきていないのか。
どっちでもいいかと軽く溜息を吐きながら玄関を開けると、脱いだまま揃えられていない靴が目に入り、次いで香りの強い植物のような、甘い匂いが漂ってきた。
「っ!」
俺は慌てて寝室にかけこむ。そこは更に強い匂いが立ち込めていて、真っ赤な顔をした真澄が床に座り込んでいた。
「⋯⋯遅いよ」
俺の姿を見るなり、真澄は力なく文句を言う。
ヒートを起こしている彼は、辛そうに荒い呼吸を繰り返し、抱き締めていた俺のシャツに顔を埋めた。
「悪かった」
予定ではヒートが来るまではまだ日があったはずだが、少し早まったようだ。
俺は真澄の身体をベッドの上に抱え上げ、噛み付くように唇を塞いだ。
✦✦✦
窓を開けて、外の空気を思い切り吸い込む。室内に漂っていた蠱惑的な香りが、次第に薄まっていくのを感じた。
真澄はベッドの上で、今は静かな寝息を立てている。乱れたその髪を、そっと何度か梳くように撫でた。
少し、無理をさせてしまったかもしれない。起きたら謝らないとな。
「はぁ⋯⋯」
普段から俺は帰りも遅く、同棲しているとはいえ大して甘い雰囲気にもならない自分たちを、真澄はどう思っているのだろう。やっぱり不満を感じているんだろうか。
いっそ真澄も身体目的だと思ってくれているなら、その方がラクだと思ってしまう自分がいる。ヒートを収めるのに都合の良い存在。
だいぶ空気も入れ替わったので、窓を閉めて俺も布団に入る。疲れていたのか、目を閉じると何を考える間もなく眠りに落ちていってしまった。




