ずっと一緒に ③
校門の前に行くと、ちらほらと生徒が出て来るところだった。ちょうど卒業式が終わって帰るところのようだ。
朝斗にはついさっき、校門に来ていることを連絡した。もし会えるなら会いたいと。すでに先約があれば仕方がないが。
「聖一さん!」
そんなことを考えていると、中から朝斗が出て来た。
「朝斗。悪いな、突然来て」
「いいけど、急にどうしたの?」
「うん。会いたくなったから。卒業おめでとう」
「あ、ありがとう⋯⋯」
朝斗は、照れくさそうに頬を染めた。
「少し、歩けるか?」
「うん」
駅とは反対方向へ向かって歩き始める。こっちは人通りが少なくて、話をするにはちょうど良かった。
「今日、親御さんは?」
「式には来てたよ。もう帰ったけど」
「そうか。相変わらずだな」
「俺は気楽でいいけどね~」
朝斗は心底そう思っている感じだった。それなら俺が言うことは何もない。
「そうだ、卒業祝いあげないとな。何がいい?」
「え、いいよそんなの」
「いや、良くない。大学の合格祝いもあげられてないし」
「俺、聖一さんに色々買ってもらっちゃって、その分も全然返せてないのに」
一緒に住んでいた間に、服や参考書なんかを揃えた時の話をしているのだろう。いつかちゃんと返すと言われている。
「その分は、大人になって働いて返してくれるって言ってただろ。卒業祝いは俺があげるものだから別物だ」
「うーん。考えとく」
こういう、なんてことのない、ちょっと先の未来の話を出来ることが、すごく嬉しかった。
きっと、ほぼ確実に現実になる未来。
真澄とはもう出来ない話。朝斗とも、手術の前はどこか現実味よりも希望が強かった話。
「そうだ、俺、これ渡そうと思ってて」
「ん?」
ふと、朝斗はバッグの中から折り畳んだ紙を取り出した。広げて見てみると、それは、文化祭の時に俺が欲しいと言った、朝斗が描いた絵だった。
「覚えててくれたんだな」
「まあ、ね。なんでそんなに気に入ってくれたのかわかんないけど」
「ありがとう。大事にする」
丁寧に折り畳んで胸ポケットにしまいながらそう言うと、朝斗はまた、照れた様子で顔を赤くした。照れるとすぐ顔に出るところも、すごく可愛く思えてしまう。
「今日、夢に真澄が出て来た」
この歳になって、他人に夢の話を語るなんてと思ったけれど、朝斗は馬鹿にするでもなく、穏やかに微笑んで訊いてきた。
「真澄さん、なんて?」
「無事に解決して良かったって」
「そっか」
「それから⋯、ドナーになったのは、俺の側にいるためとかじゃないって言われた」
朝斗がどの程度気にしているのか、はっきりとは俺にはわからないが、少なくとも、真澄ではなく自分が側にいることに対して、罪悪感を抱いているように思えた。
真澄が死んでしまった原因に朝斗は無関係で、仮に朝斗が移植を拒否したら、別の患者に真澄の心臓が渡っていただけで、真澄が生き続けられたわけでもない。
頭ではわかっていても、ふとした瞬間に感じる罪悪感のようなものを、なくしてしまうことは難しいだろう。だからこそ、ドナーのことは本人には伏せられているのだ。
「ごめんな。俺が規定を破って、真澄のことを話したから」
「⋯⋯聖一さんのせいじゃない。聞かなくても、わかってたし」
「それでも⋯⋯。朝斗は、何も気にしなくていいから。二人分の人生を背負う必要もない」
きっと、そんなことは真澄も望んでいない。俺の人生は俺だけのものだから。あいつならそう言うだろう。
そして俺も、あいつに一生囚われる、なんてことはないから。
「朝斗」
「――はい」
「好きだ」
朝斗は、一拍おいて大きく目を瞠った。
「多分、真澄のことを忘れることは出来ないし、こんなこと言ったら二股だって幻滅されるかもしれないけど、真澄が生きていた時も朝斗のことはずっと気にかかってて、」
はっきりと恋愛感情に変わったのは、真澄と同じΩのフェロモンがきっかけだったかもしれない。それでも――
「これからも、ずっと⋯⋯。一緒に生きていきたいと思ってる」
「ッ――、うん⋯⋯っ」
はっきりと頷いた後、朝斗は涙を隠すように両手で顔を覆った。
そっと肩に触れた後、腕を背中に回して強く抱き締める。
暖かい春の陽射しが差し込む下で、俺たちはそっと唇を触れ合わせた。




