ずっと一緒に ①
「これが例のスマホっすか」
情報共有のためにうちに来た高梨は、パスワードの画面から動かないスマホを見て言う。
「まあパスワードの解析とか、そういうのも、頼めば出来なくはないっすけどね」
「例の探偵の友人か?」
「そっすね。そっち方面もツテがあります」
だが、それだと時間もかかるので、出来れば自力で解決したい。
「なんかこう、ヒントになるようなこと言ってなかったっすか? 真澄さん」
「そうだな⋯⋯」
今日は朝斗も俺の隣で話を聞いていた。楽しい話ではないとは言ったけれど、自分にも関わることだからと言われて同意した。
ヒントになるようなこと。なくはないが⋯⋯。
「多分、最初の数字は8とか9とか、後半の数字だと思うんだよな」
「なんでですか?」
「前に、映画かなんかでそういうのの解析をしてるシーンがあって⋯⋯」
1から順番に数字を打ち込んで調べていた。やっぱりこういうのは1からやるよね、と話していて、それなら、9スタートにすれば多少は時間稼ぎが出来る、と言っていたのだ。
「なるほど」
「いやまあ、なんの時間稼ぎだよって話だけどな」
「けど、調査のデータを保存してたなら、納得も出来ますね」
試しに、9999などの数字をいくつか入れてみるが、やはりロックされたままだった。
「ダメっすね」
「うーん⋯⋯」
「大事なものなら、その、最後に聖一さんに伝えようとするんじゃない?」
最後、か。あの時は朝斗に心臓をあげてって言われたことのインパクトが強かったけど、他に何かあっただろうか。
――そういえば。
「⋯⋯財布に⋯⋯」
「財布?」
「ああいや、あの時、財布を見るように言われたけど、ドナーカードのことかと思って、それ以上は見てなかったなと思って」
「それ、残ってますか?」
「ああ」
現金やクレジットカード類、身分証となるものは家族に返したが、財布事態は俺が持っている。
「貴重品だけ抜き出して返すところが、さすが坂下さんっすね」
「亡くなった後の手続きって面倒だろ。少しでも整理して返そうと思って」
財布の中には、ポイントカードの類やレシートなどが雑多に入っていた。クレジットカードなんかはすぐに手続きする必要があるだろうから、整理して家族に返したのだ。
真澄が大雑把な性格で、財布の中もごちゃっとしてたのは、俺もわかってたしな。
あの時中身はだいたい見たはずなのだが。
「これは?」
ふと、朝斗が財布の奥のポケットから紙切れを取り出した。何かのメモのようだ。
期待しながらも開いてみると、書かれていたのは電話番号だった。しかも、
「この番号、俺のケータイ番号だ」
「なんで聖一さんの番号? スマホ壊れちゃった時用?」
確かに、今は他人の電話番号なんてわざわざ覚えないし、スマホが壊れたら連絡出来なくなってしまう。
「⋯⋯ちょっと、その番号入れてみてください」
「え? ああ」
高梨に言われて、俺は電話番号の下4桁をパスワードに入力した。しかし、やはり開かない。
「真ん中の4桁は?」
「普通下4じゃないか?」
疑いつつも入力してみる。すると、
「開いた⋯⋯」
「おお!」
朝斗と高梨が嬉しそうな声を上げる。俺はと言えば、なぜ自分の電話番号を真澄がパスワードに使っているのか、いまいち理解出来ない。
「やっぱ万一の時に、連絡つかなくなると困るから、覚えようと思ったとかじゃないすか?」
「メモだって残してるのに?」
「身一つになった時に困るじゃないすか」
「真ん中の4桁がわかれば、後は勢いでなんとかなりそうだよね」
2人の言うこともわからなくはない。
ともかく、これでようやくスマホの中身が見れるようになったので、俺は早速保存されているデータを見てみることにした。
「これ⋯⋯」
真澄が保存していたデータは、主に写真だった。充分証拠になり得る書類の写真。他には音声データもあるようだ。
俺は高梨に視線を向ける。高梨も小さく微笑んで頷いた。
これで、全てが解決するはずだ。
写真のデータはかなりあるようなので、スクロールして見ていくと、だんだんと別の写真も増えてきた。俺が写っているものもかなりある。
真澄はよく、こっちのスマホも弄っていた。証拠として撮った写真を見ていたのかと思っていたが、もしかしたら、そうではなかったのかもしれない。
「朝斗君、メシ行きましょうか」
「え? ⋯⋯はい」
高梨が朝斗と2人で部屋を出て行こうとする会話が聞こえたが、俺はスマホから目が離せなかった。
まだ、真澄と付き合う前のものから、一緒に住み始めた頃のものまで、懐かしい写真が多かった。
「ッ――、」
視界がぼやけて目許を袖で拭う。
2人が部屋にいなくて、良かったと思った。




