それぞれの気持ち ③
真澄の私物は、家族に返したものもあるが、形見分けということで、俺の家にあったものはそのまま俺が引き取ったものも多い。
俺はいてもたってもいられず、翌日すぐに家に帰って、真澄の私物を確認した。
何か掴んでいたなら、きっとこの中に残っているはずだ。
そう思いつつも、同時に何も出て来なければいいと思っている自分がいる。そうすれば、きっと証拠を掴んでいた学生というのは別の人の話で、どこかで噂が真澄の名前に置き換わってしまったのだろうと思える。
真澄は殺されたわけではなく、本当に不運な事故だったのだと思える。
真澄の私物は、大学の講義で使ったのだろう雑多なプリント類が多かった。大事なものはタブレットに記録していたようで、紙のプリントの方は整理もせずに箱に突っ込まれている。
タブレットの中身も確認したが、こちらも大学の講義の内容ばかりで、これと言って不審なものは見当たらない。
「後は、スマホか」
真澄はパソコンを持っていないので、何かあるならスマホに保存しているはずだ。
充電ケーブルに繋いで電源を入れる。パスワードは誕生日で簡単に開いた。
しかし、特に何も見つからない。
悪いと思いつつも、SNSやメッセージアプリを開いてみる。すると、
「こいつ⋯⋯」
明らかに、妙なやりとりをしている相手がいた。ただ、真澄が調べていた相手なわけではなく、真澄が危ないことに首を突っ込んでいるのではと、心配している様子だ。
これ以上はやめた方がいいだとか、俺も面倒見切れないだとかのやり取りがあった。
それ以外のメッセージのやり取りから、真澄と同じ大学4年だろうことが予想がつく。名前は汐見。
俺は真澄のスマホを操作し、俺と真澄、そして汐見の3人でチャットのグループを作成し、メッセージを送った。
✦✦✦
会って話がしたいとメッセージを送ったところ、汐見は了承してくれて、大学の近くのカフェで会うことになった。
早めに行って待っていると、しばらくして汐見が店に入って来る。
「坂下さん、ですか?」
「ああ。ありがとう、わざわざ来てくれて」
「いえ⋯⋯。突然真澄が入ってるグループが出来て、心臓止まるかと思いました」
「それは⋯⋯悪かった」
俺が突然メッセージを送っても会ってくれないと思ってそうしたのだが、亡くなった人からグループの招待が来たら、そりゃあ驚くだろう。
「真澄のことで訊きたいことがあるって⋯⋯」
「ああ。君は真澄のことを心配するようなメッセージを送っていただろう? 真澄が何を調べていたのか、知ってるのか?」
「⋯⋯」
汐見は、注文したアイスコーヒーを一口飲んでから、チラリと周囲を伺った。
「俺も、詳しいことは知らないんです。聞かないようにしてたんで。けど、こんなことになるなら⋯⋯、もっとちゃんと、止めるべきだった」
後悔しているその様子に、俺も眉を寄せる。
「⋯⋯真澄のあれは、事故じゃなかったのか⋯⋯?」
「いや⋯⋯、事故だったと思います。妙な噂も色々あるけど」
「けど⋯⋯!」
じゃあどうして。事故ならそんなに後悔しているのはおかしいだろう。ちゃんと止めるべきだったっていうのは、そういうことじゃないのか。
叫びたくなるような気持ちを必死に抑え、彼が口を開くのを見て、俺は言葉を呑み込んだ。
「俺が知ってるのは2つだけです。真澄は、野崎って名前の院生の先輩と、割とよく飲みに行ってました」
「野崎。じゃあその院生に話を聞けば⋯⋯」
「いや、色々黒い噂があるので、会うのはやめた方が⋯⋯。真澄にも、何度も止めたんですよ」
ということは、そいつがまさに副院長たちと繋がってるんじゃないのか?
名前がわかったので、その院生については本業に任せよう。
「わかった。忠告ありがとう。もう1つは?」
「もう1つは、真澄はいつも、スマホを2つ持ってました。片方は機種変する前に使ってたもので、通信が切れてるのにいつも持ち歩いてて」
WiFiが繋がってるところでしか使えないスマホを、どうしてわざわざ持ち歩いてるのかと聞いたことがあるそうだ。
「その時言ってたんです。こっちは大事なデータを保存する用だって」
「っ!」
そう言えば、真澄はよくスマホを弄っていた。全く気にしていなかったが、今使っている方ではないスマホを見ていた時も多かった気がする。
「じゃあ、あの中に⋯⋯」
古い方のスマホ、荷物の中にあっただろうか。家族に返した記憶はないから、まだ家にある気がする。
「ありがとう。助かった」
「坂下さんは、どうしてそんなことを調べてるんですか?」
事故ではないと疑っているのか?と、汐見は訊く。
あの事故について疑ったことはなかった。朝斗のことがなければ、こうして調べようなどとは思わなかっただろう。
朝斗のことは汐見には話せないし、話す必要もない。ただ、
「もっと、ちゃんと知らないといけないと思って」
これも、運命なのかもしれない。真澄から俺に託されたもの。
「そう、ですか⋯⋯」
汐見は何度か頷いて、もし何かまた進展があれば連絡をくれると言い、帰っていった。
俺も会計を済ませると、真澄の古いスマホを取りに、急いで家に戻った。




