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君が遺してくれたもの〜運命の番を亡くした医師とΩの心臓を移植された少年〜  作者: さくら優


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18/24

それぞれの気持ち ②

朝斗と2人で暮らし始めてから、10日ほどが過ぎた。


あれから、副院長側で特別動きはない。


朝斗の体調も問題ないようで、俺はそれが1番ほっとしていた。このままだと定期検診にも行けなくなってしまうが、元々俺が診ていたわけで、薬も多めに処方して持ってきたので、まだしばらくは余裕がある。


だが、出来ればあと1ヶ月くらいで決着を付けたい。


「大学受験もあるしな」


勉強している朝斗の横で、俺は溜息混じりに呟いた。


「んーでも、受験は別に来年でもいいよ? どうせ今年は、入院するなら無理だと思ってたし」

「せっかく頑張ってるのに、もったいないだろ」

「それはそうだけど」


朝斗は行きたい大学があるようで、以前からコツコツ勉強していた。


合格出来るかどうかはいったん置いておいて、試験に集中出来る環境にしてやりたい。


ただ、そのために現状俺が出来ることがないというのが歯痒い。


高梨とその友達は、引き続き副院長を調べてくれている。俺が下手に動いて、朝斗の居場所が見つかってしまったら元も子もない。


今のところ、俺の最も大事な仕事は朝斗の体調管理だった。


「そろそろ寝ろ」

「この後高梨さん来るんだっけ?」

「ああ」

「聖一さんと高梨さんって、どういう関係?」


なぜか高梨との関係を訊かれた。高梨が説明済だった気がするが、あの時は突然だったから、覚えてなくても仕方ないか。


「高梨は大学の後輩だ」

「それだけ?」

「それだけだよ」

「ふーん」


何を気にしているのか知らないが、もう1度そろそろ寝ろと言うと、朝斗は素直に部屋に入っていった。



   ✦✦✦


「ここにいる限り、朝斗君は安全だと思うッス」


作戦会議に来た高梨は、俺の心配とは裏腹にあっさりしていた。


「副院長も、わざわざ時間と大金をかけてまで探そうとはしないと思います」

「そうなのか?」

「坂下さん、目の前に100万円の賞金首がいたらどうします?」

「え? まあ、突き出す、かな。わかんないけど」


突然なんだ?


「じゃあ、顔は知ってるけど、居場所がわからない賞金首だったら?」

「⋯⋯そういうことか」


わざわざ探す手間はかけないだろうと。


「まあ、お金以外の目的があるなら、話は別なんすけどね」


今のところ、妙な金の動きがある以外に進展がない。


「ただ⋯⋯」

「なんだ?」

「副院長のこと以外なら、ちょっとわかったことがあって」


副院長以外となると誰だろうか。朝斗の親の方か?


高梨は、今までとは違い、なぜか言い辛そうに眉を顰める。


「坂下さん、第二性についての論文、結構読んだって言ってましたよね?」

「ああ」

「その中に、明帝大が協力してるもの、ありました?」

「ああ、あったな」


真澄の行っていた大学だったから、よく覚えている。


「それがどうかしたのか?」

「⋯⋯そこの、ある研究室が、副院長や例の宗教団体と繋がってるかもしれません」

「!」


なるほど。だから論文に明帝大の名前があったのか。


「じゃあ、そっち方向から何かわかるかもしれないのか?」

「⋯⋯そうっすね。ある学生が、研究室まで突き止めて、かなり決定的な証拠を掴んだっていう話もあります」

「えっ、それなら、その学生が誰かわかれば⋯⋯」


一気に解決するんじゃないか?


かなり希望が見えたように思えるのだが、なぜか高梨の表情は暗い。


何か問題があるのだろうか。


「坂下さん」

「なん、だよ」

「これはあくまで噂です。まだ、確証があるわけじゃありません」


高梨は、普段とは違う硬い口調で俺に言う。


「その学生は、すでに亡くなっています。事故で、数ヵ月前に亡くなったそうです」

「⋯⋯」

「でも、一部で噂になってるそうです。あれは、事故ではなく、制裁、もしくは見せしめだったのではないか、と」


研究室のことを調べていたから、だから殺されたのではないか、と。


「その、学生って⋯⋯」


聞きたくなかった。


聞かなくてもわかってしまう。


目の前が真っ暗になっていく感覚がして、ひどく気分が悪い。


「津田真澄君です」


サーッと血の気が引いていった。


制裁? 見せしめ?


真澄が、殺された⋯⋯?


「冗談、だろ⋯⋯?」

「⋯⋯噂です。あくまで。あの事故は運転手も亡くなっていて、真相はわからない」


頭が混乱して、感情がぐちゃぐちゃだった。


何も言えなくなっている俺に、高梨もしばらくの間、黙って付き合ってくれていた。


どれくらいそうしていたのか、ふと高梨がスマホを確認し、おもむろに口を開いた。


「坂下さん、真澄君の私物、残ってますか?」

「あ、ああ。ある⋯⋯」

「落ち着いたらでいいんで、調べといてもらえます?」

「わかった」


まだ、心ここにあらずな感じで返事をすると、高梨は少し泣きそうな顔で笑った。


「じゃあ、俺は帰るっすね」

「ああ⋯⋯」


部屋を出ていく背中を呆然と見送って、俺はしばらく何も考えられずに、妙に大きくなった時計の音をひたすら聞いていた。


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