それぞれの気持ち ①
俺の家から安全な場所へ移動した翌日、朝斗と買い物に出掛けることにした。
「出かけて大丈夫なの?」
「こんなとこまでは副院長たちも来ないし、大丈夫だ」
一応、軽く変装はする。
買い物くらいは行かないと、なにせ朝斗はほぼ身一つで来てしまったので、着替えなどもほとんどない状態だった。
「って言っても、そんな頻繁には出かけられないだろうし。買い物の後、どこか行きたいところあるか?」
せっかくなので、少しくらい遊びに行ってもいいだろう。
そう言うと、朝斗は途端目を輝かせる。
「この辺何があるの?」
「そうだな⋯⋯」
スマホで検索すると、隣から画面を覗き込んでくる。
ショッピングモールで買い物をして、そのままモールの中ででも、結構色んなことが出来そうだ。
「あっ、これ行きたい」
スクロールしていた画面を止めて、朝斗が指差した店をタップする。
「ここか?」
「うん。いい?」
「いいよ」
「やった!」
嬉しそうな顔をする朝斗を見ていると、俺は少しだけ、胸が熱くなった。
✦✦✦
朝斗が行きたいと言った場所は、スイーツビュッフェの店だった。
買い物を済ませてから店に入る。結構あちこち回ったから、休憩するにもちょうどいい。
「聖一さんはケーキとか好き?」
「まあ、嫌いじゃないけど」
好き好んでスイーツビュッフェに行くほどではないな。今回は朝斗のリクエストがあったからだ。
朝斗は、手術をする前は甘いものはあまり食べられなかった。心臓に負担がかかるからだ。ショートケーキ1切れすら食べきれない。
だから、今こうして好きなだけ食べられるようになったことが、俺もすごく嬉しい。
「とりあえず1個ずつ取ってこうかな~」
「あんまり食べ過ぎるなよ」
「はーい。あ、パスタとかもあるよ」
ちゃんと聞いているのか謎な返しに、俺は苦笑した。
皿いっぱいにケーキを乗せて席に戻ると、朝斗はスマホで写真を撮る。
俺もそんな朝斗を写真に収めた。
それにしても、なんか、こういうことしてるとデートみたいだな。周りを見ても、カップルらしき2人組が多い。
「どうかした?」
俺が周囲に気を取られていると、ふと、朝斗が首を傾げてじっとこっちを見てくる。
朝斗はこの状況をどう思っているのだろう。
「いや、なんか、デートみたいだなと思って」
「えっ⋯⋯」
そんな気はなかったのか、朝斗は僅かに動揺した様子で視線を逸らした。頬が赤くなっている。
「デートなら、もっとちゃんとお洒落とかしたかったな」
「じゃあ、今日のはノーカンか?」
「⋯⋯うん」
頷きながらも、朝斗は満更でもなさそうだ。今日は服を選ぶ余地もなかったので仕方がない。また今度、落ち着いたらリベンジしよう。
スイーツビュッフェの後は特に予定は決めていなかったのだが、ぶらぶら散歩でもしながらのんびりすればいいだろう。
もう少しこうしていたくて、隣を歩く朝斗にそう提案しようとしたところで、ふと、人混みの中に見知った顔を見つけた気がした。
「朝斗、こっち」
「?」
咄嗟に朝斗の腕を掴み、すぐさま近くの通路に身を隠す。観葉植物の鉢が置かれていて、いい感じに隠れることが出来た。
緊迫した空気が伝わったのか、朝斗も緊張した様子で見上げてくる。
俺は植物の葉の影から、人混みの様子を伺った。けれど、知り合いだと思った人物は人違いで、その他も特段怪しい人はいない。
俺はほっと息を吐いた。
「悪い、気のせいだった」
「もう平気?」
「ああ」
心配ないと笑みを向けると、朝斗もほっとした様子で肩の力を抜いた。密着したところから、まるで全てを預けるかのように、安堵が伝わってくる。
俺は抱き締める腕に僅かに力を込めた。
「ぁ⋯⋯、聖一さん?」
手の平で頬に触れると、戸惑ったような目を向けてくるが、嫌がる素振りはなかった。
その唇にそっとキスを落とす。
今日のはデートではない、ノーカウントだとさっき話したばかりだったのに。
軽く啄んでから唇を離す。無意識なんだろうが、吐き出された吐息が頬にかかり、1度で止めるのに理性を総動員しなければならなかった。
「帰るか」
「⋯⋯うん」
朝斗は、赤くなった頬を隠すように俯く。俺はその手に、そっと自分の指を絡めた。




