作戦決行 ①
「まずいことになりました」
出張から戻って来て早々、高梨に呼び出されて彼の家へ行くと、開口一番そう言われた。
「な、んだよ⋯⋯」
今朝も相変わらず、朝斗の可愛い⋯⋯じゃない、無事な様子の写真が送られてきて、安心していたところだったのに。
「朝斗君、入院することになったらしいっす」
「入院?」
そんな話は初耳だった。今はもう体調的にも、入院の必要は全くないのに。
「今日、友達が放課後の朝斗君たちを尾行して、ファミレスで喋ってるのを聞いてたんですけど、そこでその話をしてたらしくて」
どうやら突然決まったことで、朝斗も困惑した様子だったようだ。周りの友人たちも、せっかく戻って来たのにと残念がっていたらしい。
「明日から学校も休むって言ってたそうなんすけど、これ、もしかしたらもう家から出さないつもりかもしれません」
「え⋯⋯?」
「今はまだ家にいるのは確認出来てますけど、このまま、数日以内にもどこかに連れて行くつもりかも」
「どこかって⋯⋯」
例の、中国にある施設のことだろうか。
高梨は、そこまではまだわからないと言う。
「親に話を聞こうと思ったんすけど、なんか親も様子が変なんすよね」
「ああ、あの親は、元々あんまり朝斗に関心がないから」
入院中もほとんど見舞いにも来なかったことなどを話すと、高梨はチッと舌打ちをした。
「クソ親か」
「高梨」
「すいません」
「まあ気持ちはわかるけどな」
しかし、そうなると親を説得するのは難しいのだろうか。
「副院長側に騙されてるだけなら、説得も可能なんすけどね。今のところ、味方なのかがわかんないし」
「そうだよな」
もし敵側だった場合、こっちの動向が筒抜けになってしまう恐れがある。そうなったら詰みだ。
「坂下さん、朝斗君のスマホの番号とかわかります? 連絡取れないっすか?」
「いや、聞いてない」
「手ぇ出してるくせに肝心なとこは使えないっすね」
「悪かったな」
まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかったし。
「家の番号ならわかるんで、ちょっとかけてみてください」
「わかった」
すぐに電話をかけると、数コールで朝斗の母親が出た。主治医なので当然会ったことはあるが、なんというかツンツンした感じの、こっちは忙しいのでさっさとして下さる?みたいな感じの人だ。
朝斗に代わってほしいと言ったが、すでに休んでいると言われ、通話を切られてしまった。
「なんかぁ、繋ぐ気ないって感じしません?」
「ああ。けど、起こしてくれとも言えないし」
医者としてかけているのに、それはあり得なかった。
「こうなったら、乗り込みますか」
「ええ?」
「俺、朝斗君と同じ高校出身なんで、制服残ってますよ」
「⋯⋯は?」
高梨はいったん寝室の方に姿を消すと、見覚えのあるチェックのスラックスとブレザーを持ってきた。
「ほら」
「⋯⋯まじめに考えろよ」
「大真面目っすよ。坂下さんは残念ながら親と面識があるので、俺が朝斗君のクラスメイトのふりして乗り込みます」
全く残念ではない。というか乗り込むって。
「いや、バレるだろ。コスプレになるぞ」
「いやいや。俺を甘く見ちゃいけないっすよ」
高梨は謎の自信があるようだ。
「乗り込んでどうするんだ? 連れ出すのか?」
「まず状況を説明して、作戦を伝えます」
「作戦って?」
高梨は制服を胸に当てながら、ニヤリと笑みを浮かべる。
確かに、意外と高校生に見えるかもしれないと、こっそり思った。




