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君が遺してくれたもの〜運命の番を亡くした医師とΩの心臓を移植された少年〜  作者: さくら優


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12/24

Ωの心臓 ⑤

翌日、俺は病院に着くとすぐに、自分の来月の予定を確認した。すると、


「消えてる⋯⋯」


スケジュールに登録しておいた、朝斗の定期検診の予定が削除されていた。


このスケジュール管理システムは、スタッフ全員が登録や変更が可能なものなので、俺の予定を削除することは誰でも簡単に出来る。高梨の言った通りだった。


『何をするにしても、1番邪魔なのは坂下さんの存在です。なので多分、副院長が最初にやるのは、坂下さんを朝斗君の担当医から外すことだと思います』


しっかりと手順を踏んで、ではなく、何も言わずにしれっと変更して、担当変更のどさくさに紛れて転院、そのまま行方を眩ませてしまうつもりなのではないか、と。


そんなに上手くいくものではないと思うのだが、事実、すでに事態は動き始めている。しかも今日、本来なら俺は病院に来る予定はなかった。この後出張が入っていて、次に病院に来るのは3日後の予定だ。昨日高梨から話を聞かなければ、朝斗の検診のスケジュールが削除されていることに気付くのは、もしかしたらもっと先になっていたかもしれない。


「あれ? 坂下先生、今日は出張のはずじゃ」

「ああはい。忘れ物してしまって。もう出ますよ」


やって来た看護師に声をかけられ、俺は誤魔化すように笑った。もし何かあっても、こちらは何も気付いていない風を装うよう、高梨からも言われている。


正直、このまま出張で病院を空けてしまうのはかなり心配だ。自分のいない間に取り返しのつかないことが起こってしまうのではないか。


けれどここで俺が急遽出張を取りやめたりすれば、却って副院長に不審に思われるだろう。


朝斗のことは、探偵だという高梨の友人が見ていてくれることになっている。まだ一刻を争う状態でもないと、高梨も言っていた。


後ろ髪を引かれる思いだったが、俺は仕方なく病院を出て、出張先へ向かった。



   ✦✦✦


出張先に到着する頃、高梨からメッセージが届いた。


『朝斗君、無事に学校に着いたみたいッスよ』

「っ!?」


メッセージと一緒に、友人と楽しそうに笑いながら校門に入って行く朝斗の写真が添付されていて、思わず息を呑む。


いや、これ盗撮なんじゃ⋯⋯。


しかしその後も、教室で授業を受ける様子を窓の外から撮影したと思われる写真や、昼休みにお弁当を食べている写真などが送られてきた。


学校のセキュリティシステムが心配になってくる⋯⋯。


写真自体は嬉しいが、全然安心出来ないと、その夜ホテルに着いてから高梨に電話をした。


「お前、あの写真はなんだよ」

『無事な様子が見られて安心かなと思って。朝斗君、かわいい子ッスね~。モテるんじゃないすか?』

「却って心配になった」

『ライバルが多そうで?』

「そういう話じゃない」


学校のセキュリティの話だ、と言うと、高梨は笑って弁明する。


『そこは大丈夫っすよ。友達はプロなんで、普通の人は入れないっす』

「ならいいけどな」


こっそりと溜息を吐く。


それにしても、ライバルが多そうとか、俺と朝斗の関係を勘繰っている言い方が気になる。


と思っていたら、普通に質問が来た。


『確認なんですけど、2人は付き合ってるわけじゃないんすよね?』

「⋯⋯ああ」

『でも手は出しちゃったと』


なんでバレてるんだ。何も言ってないのに。


沈黙を肯定と取ったのか、高梨はうーんと唸るような声を上げる。


『朝斗君は、坂下さんのことをどう思ってるんですかね』

「どういう意味だよ」

『大事なとこですよ。信頼してるのか、それとも⋯⋯。この後、あの子には真実を話さないといけない。どういう相手から言われるかで、信じられるかどうかが変わってくる』

「⋯⋯」


確かに、移植手術をする前だったら、朝斗は俺のことを、全面的に信頼してくれていただろう。


ここにいたら危ない目に合うから、一緒に逃げようと言ったら、ついてきてくれた気がする。


今はどうだろうか。


全部を話すことはきっと出来ない。それでも、俺のことを信じてくれるのかと問われれば――。


「大丈夫だ」


初めてのヒートで、俺に縋ってきた時の朝斗の顔が浮かんだ。今でもきっと、関係は崩れていないと信じたい。


『それならいいです』

「ああ」


からかってくるかと思ったが、意外にも高梨は、それ以上何も言っては来なかった。


『じゃあ、明日また報告と、写真送りますね』

「いやだから、写真は盗撮だろ」

『そっすね。なんで、全部終わったら謝っといてください』


全部終わったら。


その言葉に、希望が湧くようで自然と笑みが浮かんだ。


「わかった」


自らに言い聞かせるように、俺は大きく頷いた。


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