九 夜会 四
「清子さま!どうされたのですか!」
夜会から帰ると私の顔を見たフミさんが叫んだ。
フミさんは旦那様を軽く睨むと
「琉生様、あとで詳しくお聞かせください」
「わ、わかった。先ずは清を見てくれ」
「言われずとも」
そう言い終わると私を居間で待つ様に言い、フミさんは台所へと走って行った。
私は旦那様に謝罪を込めて頭を下げる。春子の無礼を・・私が一緒で無ければ春子に絡まれる事も無かったのだ。
「君も被害者では無いのか?」
被害者?
野上の家ではこんなのは常だった。
蔵に閉じ込められないだけ良い方だ。
私は頭を横に振ると
「私の事は良いのです。それよりも旦那様に不快な思いをさせてしまった事が申し訳無く・・」
「・・私はこんな事は日常的にある事だ。むしろ清が一緒に来てくれたおかげで少なくて済んだ。謝罪なら私の方だ」
「なぜ旦那様が謝罪されるのですか?私はいただいた髪飾りも取り返せなかった臆病者です・・」
せっかく用意していただいたのに・・
「清はそうやって自分を殺して生きて来たんだな・・」
そう言うと旦那様の優しくて大きな手が、私の右頬に触れた。
春子に傷付けられた場所だ・・
「清子様、早く手当をしないと!」
「行こう、フミが本気で怒るとこの屋敷が跡形も無く消されてしまう」
旦那様の言い方に思わず吹き出してしまう。
「フミさんにその様な力は有りませんわ。お釜も持ち上げられない程に非力な方です」
「・・・そうか・・」
「?」
居間の方から 清子様〜!と声が聞こえる。私は旦那様に頭を下げると急いで居間へと走って行った。
「今夜は軍の方の主催でしたわよね?」
「・・ああ、そうだ」
清の手当てが終わったフミは着替えを手伝い、清が寝付くまで見守った。
清の寝息が聞こえると静かに部屋を出て、真っ直ぐに俺の部屋へと来た。
フミは静かな口調でこう切り出した。
「ではなぜ、清子様のお顔に傷が?」
普段滅多に怒らないフミだが自分の大切な者が傷付けられるとこうして静かに怒るのだ。
そう言う点では清はフミの中で大切な存在になったのだろう。
俺はこれからの事を案じ今夜の出来事をフミに話した。
「と言うわけだ」
フミの肩が震えている・・頭に血が昇るほど怒れたのだ。
だが一つ息を吐くと
「それで、どうなさるのですか?」
と、俺の考えを聞いてきた。
俺は野上家が清の居場所を知った以上黙っているとは思えなかった為、フミに考えている事を話し協力を仰いだ。
俺の考えを聞いたフミは頷き、承知致しました。とだけ返事をした。
この屋敷の事はフミに任せておけば大丈夫だろう。清はフミの事を非力な高齢女性と思っているが、それは清に好かれたいがために演じている姿だ。
本来のフミは筋肉強化を得意とする女性で、お釜なんて片手で二つは持てるし箪笥も子供でも抱くかのように持ち上げる。
「清に何かあれば屋敷の事は気にするな。清の命を守ってくれ」
「やっと気付かれましたのですね」
フミは笑顔でこう言うと部屋から出て行った。
俺はまだフミの言葉の意味がわからず、主人なら屋敷の者を守るのは当たり前だろ?と心の中でつぶやいた。
清の事は病院へ運んだ後に調べさせた。そもそも相良のような男に娘を差し出す家だ。まともな頭では無いだろうと思ったからだ。
案の定クズな家だった。
数代前の当主はまだ良かったのだが、二代前の当主から力が弱くなっていた。それなのに届けを出さず危うく一個隊を全滅する失態を犯したのだ。
当然天皇は怒り隊から除隊させ、街の警備隊へと降格とした。
当然納得のいかない二代前の当主は孫の代で復活を狙いある女性と縁を結ばせた。
それが清子の母だ。
清子の母の家は天皇家に次ぐ力を持っている家柄だった。
本来ならば皇族との縁を結ぶ女性なのだが・・
野上の現当主は当時結婚を約束していた女性、現野上夫人と別れ清の母と結婚した。
そこにどんな経緯があったのか・・
皇族に嫁げる程の家柄の娘が、落ちぶれた子爵家に嫁いだ・・
「もう少し調べる必要があるかもな・・」
俺は部屋の窓を開けると一枚の鳥を飛ばした。
一枚の鳥とは俺の式神だ。
式神は真っ直ぐにある方向へと飛んで行く。まるで意思を持った人のように・・
「琉生様、凪様から連絡があり三日後の昼にこちらへいらっしゃると」
「そう言えば夜会で清に言ってたような・・」
「そう言う事は早く仰ってくださいね!清子様と凪様がお顔を合わせたのなら良かったですわ」
そう言いながら俺を玄関まで見送ると あ〜忙しい、誰か様のせいで!と言いながら奥へと歩いて行った。
俺はそんなフミの後ろ姿を眺めながら
俺のせいなのか?
と、すこし疑問を抱きながらも車に乗り込んだ。




