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虐げられた令嬢は冷徹と言われる軍人と優しい夢を見る  作者: おつかれナス


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八 夜会 三

「そんな事していないわ!」

「まぁどうでも良いけど・・これは私が使わせてもらいますね。お義姉さんよりも私のが似合いますもの。それと今夜の事はお父様とお母様に伝えますわ。どこのお屋敷の方に匿ってもらってるのかしら?」

「それは・・」


 私は相良様に嫁いだ日に野上家とは縁を切られたはずだ。それは私が望んだ事では無く野上の方から縁を切ったのだ。

 それなのに・・

 春子は私が身に付けている物が高価な物だと分かると、今度は旦那様から搾取しようとしているのがわかった。

 ただでさえ旦那様にはお世話になっているのに・・野上家が関われば迷惑でしか無い。


「私は・・すでに野上から出た娘。野上へ、お父様お義母さまに会う事も無いわ」


 私の言葉に一瞬驚いた春子だったが、直ぐに不愉快そうな顔になる。そして


「痛い!!」


 春子の力で私の周りにだけ一瞬風が舞う。

 決して強くは無い、だが人の顔に傷を付けるには充分な力・・


「お義姉さまが偉そうに!」

「清?どうした・・」


 春子が私に向けて怒鳴ろうとした時、二人の間に割って入って来たのは他でも無い旦那様だった。


「旦那様・・」

「・・どうした。顔から血が出ている」


 旦那様は私のケガを見ると胸元からハンカチーフを取り出し、顔に軽く押し当てた。

 

「もしかして、火ノ川伯爵家の琉生様ではありませんか!」

「?」


 突然名を呼ばれた旦那様は、ゆっくりと名を呼んだ人物へと顔を向けた。

 春子は旦那様の事を知っていたのだろう・・見れば目を輝かせながら旦那様を見つめていた。


「・・君は?」

「初めてお目にかかります!私はそこに居る清子の義妹で 野上春子 と申しますわ。まさかお会い出来るなんて思ってもおりませんでしたわ!」


 春子は旦那様を見ると私が居るのにも関わらず旦那様の目の前まで歩いて来た。

 旦那様の私への態度を見ても何とも思わない春子に、私は驚きを隠せなかった。と言うか、まるで私が二人の邪魔をしているかの様な顔で睨んできた。


「知らんな・・それよりも、清子のこの顔の傷は君が付けたのか?」


 春子から直ぐに視線を私へと戻した旦那様は、春子へ聞く。春子は話しかけられたと思ったのか、嬉しそうに話し出す。


「お義姉さまが自分の立場を忘れてしまっていたので、思い出させて差し上げたのですわ。それよりも・・」


 春子の言葉に旦那様の眉が動いた。

 春子はそんな旦那様の様子に気付きもせず、事もあろうか旦那様へと触れる。


「お近づきの印に一曲踊ってくださいませんか?」


 今夜の挨拶で旦那様がとても有名な事は直ぐに分かった。それは家柄だけで無く立場や身分、そして容姿・・

 旦那様が動くだけで会場の女性の視線が動く。と言っても過言では無いほどに目立つ。

 そんな旦那様に少しでも近付きたくて様子を伺うご令嬢たち。


(なるほど、今夜私を誘ったのもこれの為か)


 女避け

 だから、様子を伺っても近くには来ない。来ても挨拶だけで直ぐに離れて行く。

 だが春子は違った。

 まるで自分こそが旦那様の隣に相応しいとでも言わんばかりに触れようとした瞬間、春子の指先に小さな火柱が立ち上がった。


「熱っ!!」

「その髪飾りは?」


 怒りを含んだ声で春子へ聞く。

 春子は何が起きたのか分からない顔をしながらも、私から無理矢理奪った髪飾りに触れながら


「お義姉さまよりも私が身に付けた方が似合うと思って、譲っていただきましたの!ね、お義姉さま」

「!」


 突然私へ同意を求めてきた春子に、何も言い返せず下を向く。春子はそれを同意とし、旦那様へとさらに近付くと旦那様へと触れた。

 そして春子のとびきりの笑顔でこう言うのだ。


「私、お義姉さまよりも優秀なんですわよ。だってお義姉さまには何の力もありませんから」

「!!」


 この国で五属性の力を持つ者は特別で、国からも皇家からも優遇されている。

 更に強い力を持つ家は皇族の身辺警護やお世話係といった、奥へと入る事が出来る。

 残念ながら実家の野上家は力はあるものの弱く、何代か前までは皇族方の身辺警護にあたって居たが、今の当主であるお父様は街の警備隊へと落とされた。

 いや、それも立派な仕事だけど昔の栄光を忘れられない野上家は、力ある者が優秀。

 無い者はたとえ野上の血を持っていても・・


「それがどうした。その事と俺が清子に送った髪飾りをお前が身に付けている事の理由は何だ?」

「ですからお義姉さまよりも私の方が!」


 私たちを取り囲む空気が一瞬にして変わった。

 旦那様が本気で怒ってしまったようだ!私は急いで旦那様に


「私が春子にあげたんです!春子の方が似合うと思って・・」

「・・」


 私の言葉に春子は嬉しそうに笑う。

 私は旦那様の顔を見る事が出来ず、また下を向いてしまったがきっと呆れて何も言えないのだろう。

 

「きよ」

「琉生、こんな所にいたのか。悪いがこちらに・・」


 旦那様が私に声を掛けた瞬間、旦那様へと声を掛けて来たのは轟様だった。轟様は春子を見だが直ぐに視線をずらす。

 見れば春子は顔色を悪くして下を向いている。


「どうしたのだそのケガは?」

「・・私が来た時にはケガを負っていました」


 それだけで通じたのか


「では処置が必要だな。部屋は用意してあるから琉生は彼女を連れて来い。私は救護係を部屋へ向かわせる」


 そう言い終わると春子には目もくれずその場を離れて行った。

 私も旦那様に促されその場から離れようとした時


「お義姉さま、近いうちに会いましょう」


 と、春子の口から怒りを抑えた口調で言われた。

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