六 夜会 一
「琉生様、清子さまの支度が整いましたわ」
私は琉生様から贈られた振袖に手を通し、フミさんに化粧を施してもらい鏡の前に立っていた。
野上家でも着たことがない程の上質な着物に冷や汗が出る。きっと春子も着たことが無いだろうその着物は、新緑を思わせる薄緑の生地に色とりどりの花が織り込まれていた。
「流石はフミだな。清に良く似合っている。今夜は・・済まないな」
「だ、旦那様のお手伝いが出来るのならこの手いくらでも使ってください!」
そう言いながら両手を差し出す。
旦那様とフミさんは一瞬目を合わせると笑い出す。
私は笑われた意味が分からず焦っていると
「琉生様、ちゃんと説明していないのですね」
「・・・車の中で話そうと思っていた」
さぁ、行こうか
私は旦那様に手を引かれると車へと乗り込んだ。
「初めまして奥様!私は都で呉服屋を営んでおります佐和と申します。火ノ川様からは良い物を、何着でも選んで良いと言われました。小物も全て!それ以外に必要な物も御座いましたら遠慮なく申してくださいませ!!」
旦那様が言った次の日、沢山の箱を持ってきた佐和さまはその品物を所狭しと居間に並べた。
春子も確か購入した着物や小物を並べていたな・・でもこれはその比では無い・・
「あの、私では良く分からなくて・・」
「清子さま私に任せてくださいな!琉生様からも金に糸目は付けないと言われておりますし、佐和さんと私に全てお任せくださいね」
そう言って動き出した二人に、私は翻弄されてしまったのだった・・
フミさんは次々と佐和さんに注文し、佐和さんは上機嫌で帰って行った。
直ぐに着れそうな着物二着と帯、それに合いそうな小物を残し選んだ反物三巻。それに合わせた帯。
極め付けは夜会に着ていく振袖用の生地と帯だ。反物を見ただけでも仕上がりがとても楽しみになる。
「フミさん、こんなにも素敵なお着物を着る機会なんて有るのでしょうか・・」
「あら清子様、琉生様が仰ってたではありませんか!今度鍋田子爵家の夜会に参加して欲しいと。今回こちらは間に合いませんが、きっともっと大きな夜会にも清子様をお連れするって事ですわ!」
フミさんは佐和さんから買った着物を綺麗に畳むと、私の部屋の箪笥へと仕舞って行く。小物も同じように。
「鍋田様の夜会にはこちらのお着物に致しましょう。あちらの着物には敵いませんが、こちらも良いお品ですから!」
「フミさんの見立てに間違いはありません。が、こちらの着物も素敵で私には勿体無いかと・・」
野上の家では決して着る事が無かった品物に怖気付く。そんな私を見てフミさんは 私に全てお任せください!と、とても心強い事を言ってくれたのだった。
そして冒頭へ
この着物は手で触るよりも着心地がとても良く、驚いてしまった。
今仕立ててもらっている着物はこれよりも・・
(ど、どうしましょう・・今からでもお断り出来るかしら・・)
「清子様、こちらの着物は清子様が思っている程高価ではありませんよ。ご心配なさらずに。今回の夜会が終わりましたら次は琉生様と街へ行かれると宜しいですわよ」
「・・・」
フミさんは千里眼の持ち主かしら?
私は旦那様に手を取られると車へと乗り込んだ。運転手は確か旦那様の部下の
「清子さんお久しぶりですね。覚えてますか?土守です」
「はい、病院で・・」
「清子さんお綺麗ですね!小隊長が羨ま・・」
「・・土守、運転に集中しろ・・」
土守さんはヒィィィィと言いながらお尻を交互に上げていた。何してるのかな?とその時は思ったけど後で土守さんから
「あの時、小隊長の能力でお尻が燃えそうに熱かったんですよ」
と言われ声を出して笑ってしまった。
車から降りると旦那様の手が延ばされた。私は恥ずかしながら男性からこんな風にしてもらった事が無かったから??の顔をしてしまい、旦那様を困らせてしまった。
「清、手を」
「あっ!申し訳ありません!」
急いで旦那様の手を取り、車から降りる。
旦那様の手は暖かいなぁなんて思っていたら、私の手を旦那様の腕へと回された。
「あっあの?」
「清は夜会が初めてだろう?今夜は掴まっていれば良い」
そう言い終わるとゆっくりと歩き出した。私は旦那様の歩きに合わせるように足を出す。
会場は暗い外から入ると眩しいくらいの明るさで、思わず目を瞑ってしまう。
少しずつ目を開けると、そこには綺麗なドレスや着物を着たご婦人や、旦那様と同じ軍服を着た方。タキシードを着た男性とそれは想像よりもたくさんの人が溢れていた。
旦那様はある軍服を着た男性の前までくると頭を下げた。
私も釣られるように頭を下げると
「ああ火ノ川来たか。凪も今夜来ると言っていたが・・そちらは?」
軍人さんに言われ更に頭が下がる。
「こちらは例の相良の時に・・」
「こちらが・・確か野上家の・・」
「は、はい!野上正治が娘。清子と申します」
頭のてっぺんに視線が刺さる・・
「野上家には娘は一人だと聞いていたが・・」
「あっ、それは・・」
何と言って良いのだろう・・今まで一度も令嬢としての仕事はしておらず、むしろ邪魔者扱いされていたなんて・・言えず困っていると
「すまない、私は 轟海斗。火ノ川の上司で王家直属の護衛隊隊長で、こいつの妹の婚約者だ」
「?!!」
情報が多過ぎで頭が混乱してしまう。そんな時
「轟様!お兄様!」
と、後ろから声をかけられた。




