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虐げられた令嬢は冷徹と言われる軍人と優しい夢を見る  作者: おつかれナス


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五 新しい職場

 火ノ川家の朝は早い。なぜなら旦那様である琉生様の出勤が早いからだ。

 火ノ川家は都にある軍事施設から南に位置する場所に建っている。

 徒歩だと約一刻ほど掛かるが、旦那様は車だったり愛馬だったりと徒歩では無い。それでも半刻近くはかかる為早めに家を出るのだ。


「「行ってらっしゃいませ」」

「行ってくる」


 そう言うと旦那様は車に乗って出掛けて行った。

 そこからはフミさんと二人で家事を分担する。フミさんは食後の後片付けと夕食の下拵えを。

 私は洗濯とお風呂場、部屋の掃除を始める。ただ旦那様の部屋だけはフミさんの仕事だ。


「旦那様の部屋には仕事で使う物も多くある為、旦那様の部屋だけは私がしますね」


 そう言われれば手を出す必要もなく、逆に有難い。

 火ノ川家は平屋の和風造りで、玄関からすぐの部屋はフミさん。

 台所近くの部屋は私に。

 その為朝の竈門の火入れは私の仕事だ。


 旦那様の部屋は居間を通り過ぎた廊下の先にある。少し離れの様な感じの部屋は裏の窓からは裏山が見える。そしてその手前には馬小屋があり、愛馬で帰宅された際はそこに繋ぐ。


 常に目の届く所に繋いでおきたいと言う旦那様の優しさだった。


「キヨさま、今夜はリュウでご帰宅されると旦那様が言っておられました」

「でしたらリュウの寝床も準備しておきますね!」


 たまにしか来ない愛馬のリュウの為、新しい藁を敷く。この新しい藁の香りに私はなぜか心が落ち着くのはきっと、野上の家でも厩に閉じ込められた時期があったからだろう。


 謝っても謝っても許してもらえず一晩中厩に閉じ込められたあの夜、馬の優しさを知った。

 子を亡くしたばかりの母馬は、泣き続ける私に寝場所を与えてくれた。

 まるで私を何かから守るように・・私はその夜、とても安心して眠れたのを今でも覚えている。


「そう言えばあの子はいつの間にかいなくなってたんだよね・・」


 私は完璧にリュウの寝床を整えると屋敷の中へ戻った。台所ではフミさんが大きな鍋を持ち上げようとしていた。

 私は急いでフミさんの側まで走ると、鍋の底を支えた。


「この鍋で何を煮るんですか?」

「ふふ、小豆をいただいたのでぼた餅でも作ろうかと思いまして」


 たくさん作って旦那様の職場に持って行きましょう!と誘われれば手伝うに決まっている。

 ただ、小豆を煮るには時間がかかる。今から煮ても出来上がるのは明日の夕方。


「今夜はリュウと帰宅されますが明後日は車で来ていただきましょう」

「そうですね!」


 車ならたくさん作っても持って行ける。そして旦那様は甘党と知っている私は、美味しそうに召し上がる旦那様を思い浮かべながら小豆を洗い、水に浸けた。


 お昼を軽く済ませた後、一刻ほどは自由な時間だ。

 私は縫い物を。フミさんは少し横になって来ますと自室へと戻った。

 縫い物をしながら今夜の煮物には何を入れようか・・誰かと一緒に食事を作る事も、食べる事もこんなに楽しいと思わなかった。

 初めこそ緊張でまともに食べられなかったけれど、最近ではフミさんがよそった分は全部食べれるまでになった。


「本当に旦那様とフミさんには感謝しかないわ」


 私はここ火ノ川家で働かせていただく女中だ。フミさんはそんな扱いは出来ないと言ってくれたが元々家でも似たような事をしていたので、有り難く女中として雇ってもらった。

 家から何も持たずに来たのでとても申し訳無かったがお給金を前借りして、近くの町へ身の回りの物を買いに行った。

 今来ている着物も質屋で買った物だが野上家で着ていた物よりは上等だった。


「まぁ清子さま!仕事用の物でしたら琉生様に言えば買っていただけたのに」

「いえ!こちらで女中として雇ってもらえただけでも幸運です!お給金も前借りさせていただけました。それ以上の事を言ったらバチが当たります!」


 フミさんは納得いかない顔をしていたけど、それならば!と今は私にいろいろな物を食べさせてくれている。

 フミさんは料理上手だ。私はいつ追い出されても不思議では無い者だから、それまでの間にフミさんの味を覚えよう。

 そうすればここ以外の屋敷でも働けるだろうから・・



 その日の夜は美味しそうな里芋と法蓮草をいただいたので、里芋の煮物と法蓮草のお浸し。

 さわらの塩焼きにお味噌汁。

 それから・・


「この黒豆は美味いな」


 私が炊いた黒豆を美味しそうに頬張る旦那様に思わず私も頬が綻ぶ。


「ありがとうございます」

「清が炊いたのか。美味いな」


 たったそれだけの言葉だけど、その一言がとても嬉しい。野上家では私が作った物も、一緒に食べる人もいなかった。

 そして旦那様はなぜか私の事を 清 と呼ぶ。

 清子ではなく清と・・


「ああそうだ、明日は呉服屋が来るからフミ、清に着物を選んでくれ。お金のことは気にするな。そうだな・・一着は他所行きで質の良い物を。後は必要なら何枚か・・」

「承知致しました」

「えっ!だっ旦那様必要ありません!」

「・・・」


 全力で断ったが旦那様は何やら考え込むと茶碗を置いた。


「日頃のお礼・・と、今度鍋田子爵家で夜会が開かれる。その、清の手が借りたいのだ」


 と言った。

 

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