四 最悪な婚礼 三
「父からはただ嫁げと・・私はその、役立たずな娘だったので・・」
おそらく私の事は調べられているであろう。そう思い話した。
「あの、そろそろ坊ちゃ・・琉生様が来られますので・・」
「琉生様?ですか?」
初めて聞く名に思わず聞き返す。フミさんは和かに微笑むと こちらの上司で私の主ですよ。と答えてくれた。
二人の若い軍人は琉生様の名前を聞いた途端に慌てて部屋から出て行った。それほど怖い方なのだろうか・・と少し不安になる。
窓の外から見える桜はいつの間にか花が落ち、葉桜となっていた。
「あの日は満開だったのにな・・」
桜は散るのが早い。なぜか自分もこの世から見放されたような・・そんな寂しさが心を襲う。
そんな時コンコンッとドアをノックする音が聞こえた。フミさんは きっと琉生様ですよ!と言ってドアを開けた。
フミさんの案内で入って来たのはあの夜、私を助けてくれた軍人だった。
火の使い手であろう瞳の色は業火の炎のように赤く、それでいて引き込まれそうな綺麗な色をしていた。
使う力によって瞳の色は違う。
火は赤
水は青
木は緑 と言った感じで、野上は風を使うため薄い青緑だった。
そんな中で私は・・黒だった。母方が黒だったと聞いて少し安心はしたがこの国で黒は珍しい色だったので野上の中でも異端として扱われていた。
気持ちの悪い色 と・・
「体調はどうか?」
その声は少し低い音。
顔と合うその声色に思わず聞き惚れてしまう。
「まだ、どこか痛むか?」
「あ!いいえ、もう大丈夫です!」
軍人さまは そうか と言いながら、ベッドの横にある椅子に腰を下ろした。
(ただ椅子に座るだけでも絵になる方だわ)
そう思っていると目が合った。
私は無意識に顔を下に向ける。
「君に謝らないといけない。すまなかった」
「・・えっ?」
「君はあの日、相良とその結婚」「望んで嫁いだわけではありません!!」
私は軍人さまの言葉を遮るように声を上げた。
そう、私は望んで嫁いだわけではない。
お父様に言われ追い出されるように野上の家から出された。だから、むしろ私にとっては感謝する事はあっても謝罪される事では無いのだ。
「むしろ助けていただき、ありがとうございました。あの・・私は」
「ああ、入院費はこちらの責もあるので支払いは無用だ。ただ聞きたいことがあるから答えてくれるか?」
私は黙って頷く。
「君の名は野上清子で間違いないか?こちらの情報では野上春子と聞いていたから」
「はい私の名は野上清子で間違いありません。春子は私の義妹になります」
「言いにくかったら答えなくても良いが、なぜ君があの場にいたのか・・」
「・・・お調べに、なられたのでは・・」
静かに答える。
軍人さまは黙って私が答えるのを待っているようだった。私は息を整えると話始めた。
軍人さまは黙って話を聞いている。
そして話終わるとただ そうだったのか。 とだけ答えてくれた。
「最後に、なぜ君はあの時隠し扉があると言ったんだ?」
「えっ・・?」
そう言えば私はなぜ口から出たのだろう・・
あの男に羽交締めにされた時、頭どうしが当たった瞬間にあの男の声が頭の中に入ってきた。
でもその事を話してこの軍人さまが信じてくれるのか・・
私は言葉を選んでいると
「君はあの日あの屋敷に行ったのは初めてだったと調べてはいるが・・」
「・・・はい、そうです」
「でもあの隠し扉を知っていた」
「・・・」
隠しても仕方ないとあの時の事を話始めた。
軍人さまは黙って聞いていたが少し考えたあと
「にわかに信じられんが・・その事は上に話しても?」
「お任せします」
いつの間にか軍人さまの後ろにはフミさんが立っていた。どうやらお昼の時間だったらしい。
「ああ、お昼の時間か。すまなかったな」
そう言いながら席を立つ軍人さまに私はなぜだかこう話しかけていた。
「あの、私にはもう帰る場所がありません。親からは帰って来るなと言われて屋敷から出されました。どこでも構いません!住み込みで働ける所を探していただけないでしょうか!」
と・・
「さぁさぁ清子様、お入りください」
「あの、私の事はキヨとお呼びください。野上の家でも使用人たちからはキヨと呼ばれておりましたので」
あの日軍人さま改め旦那様は、私の言葉を聞いた後に少し考え
「フミはどう思う」
「私ももう年でございますからねぇ、ちょうど新しい人をお願いしようと思っておりました」
フミさんの一声で私を旦那様のお屋敷で、住み込みで働く事を許していただけた。
フミさん曰く今までにも数人の女性を雇ったが皆、旦那様を狙った人ばかりで仕事はフミさんに押し付け、事もあろうか旦那様の入浴時に入り込んだり寝ている時に忍び込んだりと散々だったと・・
「その点清子様ならその心配も無さそうです」
と言って、私を火ノ川家の住み込み女中として受け入れてくれたのだった。




